妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「セラならそう言うと思った。書類を持ってきたから後でサインしてくれ。ありがとう、ノエル」
 包帯を巻いてもらったリュオンはノエル様に礼を述べた。

「どういたしまして。セラが大事なのはわかるけれど、リュオンはもう少し自分のことも大事にするべきだと思うよ」
 ノエル様の瞳には酷い怪我に対する同情と心配がある。

「あれ? ノエル、何か雰囲気が変わったな。おれがいない間に何かあった?」
「セラのおかげでね。兄さんと仲直りできたんだよ」
「へえ、それは良かった――」
「死にそうな顔色で無理に会話しなくていいから、休みなさい」
 ノエル様が軽く肩を押すと、リュオンは抵抗なく背中を倒し、背もたれに身体を預けた。

 表面上は元気に振る舞っていてもやはり辛いのだろう、リュオンは息を吐いてから今度はユリウス様を見た。

「……悪い、ユーリ。人間に戻すのは明日でいいか?」
「ああ。いまはお前が無事……ではないが、とにかく、戻ってきてくれただけで充分だ。いくらセラのためとはいえ、無茶をする。腕以外にも怪我をしているだろう。俺はいま猫だから鼻が利くんだ」

「まあ腕が一番酷いから。腕に比べれば、他の怪我は全部大したことじゃないと片付けられるよ」
 リュオンはひらひらと右手を振ってみせた。

「全く……」
 ユリウス様はため息をついた。
 それから私を見て、今度はノエル様を見る。

 兄の言いたいことを察したらしく、ノエル様は救急箱の蓋を閉じて黒猫と共に退室した。

 扉が閉まる音。