妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「嫌い」
 しとしとと雨が降り始めた夕方。

 わずかに靴と肩を濡らした状態で帰宅されたノエル様を玄関ホールで迎え、思い切ってユリウス様のことをどう思っているか尋ねると、彼は顔色一つ変えずに即答した。

「くだらない用件で呼び止めないでくれる? 疲れてるんだ。夕食はいつも通り部屋まで運んで」

 私の返事も待たずにノエル様はそのまま歩いて大広間に向かった。
 天井から糸でつられているかのようにぴんと伸びた背中はこちらを振り返らない。

 すぐにノエル様の足音は聞こえなくなった。
 軍人だからか、ノエル様はあまり足音を立てない。

 驚いたことに、その気になれば彼は完全に気配と足音を殺せる。

「………………」
 冷や汗など流しながら、ちらりと大広間のほうを見る。

 ほんの少しだけ開かれたサロンの扉の隙間。
 そこからやり取りを見ていた黒猫が室内へ引っ込んだ。

 ああああああああ――!!

 私は頭を抱えて遥かに高い天井を仰いだ。