妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

 昼食の後片付けを終えると、洗濯物が乾くまではしばらく手持ち無沙汰になる。

 ブードゥー様のお屋敷にいた頃はこういった暇な時間は皆で掃除をしていたのだが、この屋敷には掃除魔法がかかっている。

 気になる埃やちょっとした汚れを見つけたら近くの窓を開ければ良い。

 埃や汚れは吸い込まれるように窓の外へと飛んでいき、風に吹き散らされてそのままどこかへ消えていく。

 つくづく便利な魔法である。
 もし同じ効果を持つ魔法道具が安価で販売されたなら、世の主婦は泣いて喜ぶに違いない。

 屋敷の外、庭の手入れは伯爵家お抱えの庭師が行ってくれる。
 素人の手伝いはむしろ庭師の手間を増やすだけだ。

 たまに廊下や部屋の窓を開けることで掃除をしつつ、ぶらぶらと屋敷を歩き回っていた私は、庭から花でも摘んできて花瓶に活けようと思い立った。

 園芸用の鋏を片手に庭に行き、さてどの花を摘もうかなと花壇を見回して――そして気づく。

 ガラス張りの温室の隣に赤いスカーフを巻いた黒猫がいた。

 ユリウス様が眺めている方向にはラスファルの大通りが走っている。

 大通りのさらに向こう――ラスファルの街を囲う高い城壁の遥か先にはスタンレー卿が治める広大な領地がある。

 ノエル様や伯爵夫妻はその領地内のどこかにあるスタンレー卿の屋敷で他の有力貴族を交えて会食をしているはずだった。

 泣き出しそうな空の下、緩やかな風に吹かれながら、黒猫はじっと黙ったまま動かず、街の外を見ている。