妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

 ――あら?

 ユリウス様に続いて屋敷に戻ろうとしていた私は、視界の端に気になる光景を捉えた。

 屋敷がある丘の下の道を一人の赤髪の女性が歩いている。

 まだ午前中だというのに酔っ払ってでもいるのか、その足取りはおぼつかない。
 あっちへふらふら、こっちへふらふらと、見るからに危なっかしい。

 ――大変、吐いた!!

「ユリウス様、先に屋敷に戻っていてください!!」
 私は洗濯籠を地面に置いて駆け出した。

 夏の緑で覆われた丘を貫くようにまっすぐに伸びる煉瓦敷きの坂道を駆け下り、道端でうずくまっている女性の元へ行く。

「大丈夫ですか!?」
「あー、だいじょぶですー……おえっ」
「わっ。は、吐けるならとことん吐いてください。そのほうがスッキリしますから」

 つんと鼻につく吐瀉物の臭いが吐き気を誘う。
 私はぐっと喉の奥に力を込めて吐き気を堪え、女性の背中を摩った。

「……落ち着きました?」
 しばらくして私は尋ねた。
 女性はもう吐いておらず、やや青ざめた顔でうずくまっている。

「あー……うん。まだちょっと気持ち悪いけど、だいぶマシになったわ。ありがと」

 女性が汚れた口元を手の甲で拭おうとしたため、私はポケットからハンカチを取り出した。