妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「ノエル様。朝です。起きてください」
 軽く握った拳で扉をノックする。

「起きてるよ」
 扉越しにくぐもった声が返ってきた。

 内側からガチャリと扉が開き、侍女の手を借りずとも身支度を整えたノエル様が現れる。

 同じ屋根の下で暮らし始めて二週間。

 そろそろ、少しくらいは気を許してくれても良いのでは……と思うのだが、期待に反してノエル様は全く隙を見せない。

 人形のように整った顔は常に無表情で、男性にしては高めの声は常に一定のトーンを保ち続けている。

『お前をまるで信用していない』と態度で示されているようで、少々寂しい。

 昔はよく笑う子どもだったとネクターさんは言っていたけれど、ノエル様の満面の笑顔なんて想像もできない。

 私もいつか、ノエル様の笑顔を見ることができるだろうか?

「おはようございます、ノエル様」
 今日もノエル様の役に立たなかったことを悲しみつつ、頭を下げる。

「おはよう」
 ノエル様は相変わらず表情を動かすことなく私の横を通り過ぎた。

 ……うーん、どうしたらノエル様との距離を縮めることができるんだろう……。

 高い給金が貰えればそれでいい、なんて私には割り切れない。

 主人と良好な関係を築きたいと思うのは、我儘なのかしら?