妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「セラはいまでも十分役に立っていますよ。昨日、ユリウス様が感心していましたよ。セラはよく気が利く子だと」
「本当に!?」
 私はぱあっと表情を輝かせた。

 ユリウス様は少し近づいただけで牽制するように私を睨む。
 私がいると不機嫌そうになる。

 でも、その裏で働きを褒められていたのか。
 侍女としてこんなに嬉しいことはなかった。

「ええ。さあ、ちょうど良い時間です。私は食卓の準備を整えますから、セラはノエル様を起こしてきてください」
 壁に掛けられた時計を見て、ネクターさんが穏やかな声で言う。

「はい」
 ノエル様は今日、エンドリーネ伯爵家と交流が深いスタンレー卿とお会いになる約束がある。

 本来はユリウス様が伯爵夫妻と共に行かれる予定だったのだが、万が一にもユリウス様が猫になってしまうことは他人に知られてはならないため、ユリウス様の精神が安定するまで嫡男としての仕事は全てノエル様が行っている。

 ノエル様は十四歳のときに国軍に入り、それから二年ほど王都の国軍宿舎で暮らしていた。

  多彩な才能を持つ彼は国軍の中でもめきめきと頭角を現し、十六歳にして近衛部隊の隊長まで上り詰めた。

 三か月前、ノエル様は忙しい任務の間を縫ってユリウス様の結婚式に出席した。

 そこで兄の身に起きた不幸を目の当たりにしたノエル様は一年の休暇を取って実家へ戻った。

 本当は国軍を辞めるつもりだったのだが、上から引き止められて休暇扱いになったそうだ。

 私は階段を上り、三階の西棟の角部屋へと向かった。