妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「止めろと言ってるだろう!! 本当に死ぬ気なのか!? お前がいなくなったら誰がセラを守るんだ!? 馬鹿な真似はよせ!!」
 ユリウス様の叫びは焦燥に満ちているが、やはりリュオンは反応せず、ひたすら呪文を唱え続けている。

「――っ」
 近づきたいのに、彼を中心として荒れ狂う風のせいで近づけない。大地に深く根付いてるはずの草が風に煽られていくつもいくつもちぎれ飛んでいく。

 私が移動したことでドロシーからリュオンに増幅魔法の効果対象が移り、もとより大きな彼の魔力量がさらに跳ね上がっているのだろう。魔法陣の輝きと暴風は勢いを増す一方だった。お仕着せのスカートはバタバタと揺れ、長い髪が頭皮ごと引っ張られて痛い。

 近づくどころか立っているだけで精一杯。気を抜けば吹き飛ばされそうだ。

 リュオンが放出する膨大な魔力に大気がびりびりと震えている。

 リュオンは全ての魔力を費やしてドロシーを倒そうとしている。ドロシーが私を害する素振りを見せたから。私のために、私を守るために、本来勝てるはずもない相手を命懸けで倒そうとしている。

「リュオン、もう止めて、もういいの!! 一緒に星を見るって約束したでしょう!? 私の声が聞こえないの!? ねえ、お願いだから――」
 
「冥暗より昏き怨嗟/生者の慟哭/死者の叫號/唱えるは業報の呪詛。連なりし十三の環を以て共鳴せよ同調せよ蹂躙せよ――」 

 忘我の境地をさまよっているリュオンの瞳は虚ろで、どんなに叫んでも私の声は届かない。

 私を守る。その一心で全てを捨ててしまっている。
 彼は命を擲《なげう》つほど強く私を想ってくれている。それが堪らなく嬉しくて、泣きたくなるほどに悲しい。

 もし彼が死んでしまったら。
 太陽を失った世界で、私はどうやって生きればいいというのか――