妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「戻るぞ」
 リュオンは私の手を引き、身を反転して走り出した。
 ノエル様もすぐに私たちの後に続く。

「『待ちなさいよお!!』」

 心配は杞憂だったらしく、イノーラは金切り声を上げて追いかけてきた。

 彼女の後方からクロード王子の声もする。
 やがて路地裏に戻った私たちは足を止めてイノーラたちと対峙した。

 私たちを睨むイノーラの右の鼻の穴からは一筋の血が流れている。
 おかげで、睨まれても怖さよりも間抜けさが強調されていた。

「『久しぶりね、イノーラ。挨拶はさておき、鼻血が出てるから拭いたほうがいいわ。ハンカチが必要なら渡すわよ』」

「『要らないわよ!!』」
 興奮のあまり鼻血を出している自覚はなかったらしい。
 イノーラは慌てたように手で鼻を隠し、ポケットからハンカチを取り出して鼻の下を拭い、改めて私を睨んだ。

「『その連中は何なの。あんたの騎士《ナイト》気取りってわけ?』」
「『止めなさい。この二人に対する侮辱は許さないわ』」

「『許さない? 許さないですって? セレスティアの分際で、何を偉そうに!! さっさと私に掛けた呪いを解きなさいよ!!』」
 今度は殴り掛かってきたイノーラの腕を掴み、ノエル様があっさり地面に組み伏せる。
 少し護身術を齧った程度の相手などノエル様の敵ではなかった。