妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「『どうしたの、セラ。怖い顔して』」
 練習のつもりなのか、ミドナ語でノエル様が話しかけてきた。

 練習なんてしなくても彼のミドナ語は既に完璧で、これ以上教えることもないのだが。

「『……ノエル様、そろそろ教えていただけませんか。どうしてノエル様は私の傍を離れようとしないんですか。マルグリットもネクターさんもみんなその理由を知らされているみたいなのに、どうして私には教えてくださらないんですか。私はそんなに信用できませんか』」

「『そんなことはないよ』」
 ノエル様は本を閉じてテーブルに置き、困ったように笑った。

 笑いながら上手い誤魔化し方を考えているのだろうか。もうたくさんだった。

「『私のためにリュオンは大怪我を負ってしまいました。怪我が治っても、彼の左腕には大きな傷跡が残ってしまいました。私が知らない間に誰かが傷つく――もう二度とあんな思いはしたくないんです。教えてください。私にだけ理由を伏せるということは、私に関する事柄でしょう? 一体何が始まろうとしているんですか?』」

「『……それは……』」
 ノエル様は言い淀んでリュオンを見た。
 つられて私も目を向けたとき、ちょうど彼の唇が動いた。

 ――《《来た》》。
 声には出していなかったけれど、リュオンは唇の動きで確かにそう言った。