妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

 公園内の遊歩道。
 向日葵が咲く花壇の前に立っていたのは、黒と白のお仕着せを着た侍女にフリルのついた黒い日傘を差しかけられている可憐な美少女だった。

 年齢は私と同じか、少し下か。
 肩口で切り揃えられた薄茶色の髪。ぱっちりとした大きなエメラルドグリーンの瞳。
 着ているのは海のような藍色のドレスだった。

「ラザフォード嬢……?」
 驚きと困惑が入り混じったような顔でユリウス様が呟く。

 ラザフォードといえば、五爵――公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵 ――の第二位、エンドリーネ伯爵家より格上の侯爵家だ。

「はい、エマ・ラザフォードです。不思議ですね。偶然を装ってエンドリーネ伯爵邸の付近や目抜き通りを何度歩いても出会えなかったのに、まさかこんなところで出会えるなんて……これが運命の悪戯というものなのでしょうか」
 エマ様は驚いた顔でユリウス様を見つめている。

「私の屋敷の付近を歩いた? 偶然を装って? 何故?」
 伯爵子息としての対応に切り替えたらしく、ユリウス様の一人称が「私」になった。

「あっ。いえ、何でもないのですっ、何でも! どうかお気になさらないでください!」

 エマ様は失言したとばかりに顔を赤らめて咳払いし、片手をあげた。

「ベネット、傘はもういいわ。畳んで」
 黒髪にオレンジ色の瞳をした長身の侍女――ベネットさんは主人の命令に従って傘を畳んだ。

「それでは改めましてご挨拶を。ユリウス様、お久しぶりです。そして、皆さまにはお初にお目にかかります。ビクトール・ラザフォード侯爵の次女、エマ・ラザフォードと申します」

 エマ様はスカートを摘まんで優雅な礼をしてみせた。