妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「まあ、あなたったら。大事な娘を引き渡すなんてあり得ませんわ。恐ろしいことを言わないでくださいな」
 スザンヌ様は夫に軽く肘鉄を喰らわせた。

 スザンヌ様は素直で可愛いセラを非常に気に入っている。
「息子はもちろん欲しかったけれど、本当は娘も欲しかったのよ」とはスザンヌ様の談。

 庭でお茶会を開くこともあるし、街に出かけることもある。
 この前はセラにドレスを着せて仮面舞踏会に連れて行こうとしたため、おれが全力で止めた。

 セラの力がバレたら危険なのは事実だが、それより先に『セラに変な虫がついたら困る』と思ったのは否めない。

「娘目当てにわざわざレアノールからお越しくださったというなら、こちらは手厚く歓迎するだけのこと……ええ、手厚く、ね」

 スザンヌ様は右手に持っていた水鳥の羽根の扇子を開いて口元を隠した。

「穏やかな話し合いで解決できれば何よりですが、お相手が実力行使に訴えるならば心臓に刃を差し込んで終わりです。ふふ……思い出しますわ、戦場であなたと熱く刃を交わし合った懐かしいあの頃。わたくし、《血染めのスザンヌ》と呼ばれたあの頃に戻ってもよろしいのですわよね? 娘を守るのは母親の役目ですわよね? 得物は何がいいかしら。あなたの妻となった後も武器の手入れは欠かしておりませんのよ。剣、首切り鎌、ナイフ、ハンマー、斧、メイス――あらあら、どれにしましょう?」
 
 まるで舞踏会に向けてお気に入りのドレスを選ぶように、いそいそと隠し武器庫に向かおうとしたスザンヌ様の腕を素早くバートラム様が掴んで引き戻した。