妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「恐らく。セラの価値に気づいたレアノール国王の密命を受けて護衛役のクロード王子を伴い、セラを連れ戻しに来たのだろう。こちらにはリュオンが命懸けで入手した国王直筆の信書があるが、セラに聞いた性格を鑑みると、イノーラが素直に引き下がるとは思えない。イノーラとクロード王子以外にも荒事担当の精鋭部隊が送り込まれていると考えるべきだろうな」
 バートラム様は淡々と言った。

「こちらにはリュオンが命懸けで入手した国王直筆の信書があります。それを見せれば手を引くのでは?」
 質問したのはユリウスだ。

「普通ならな。だが、相手はイノーラだ。たとえ信書を見せたところでおとなしく引き下がるとは思えない」
「…………。確かにそうですね」
 セラからイノーラの信じがたい問題行動の数々を聞いているユリウスは口を閉じた。世の中には話の通じない人間がいる。一悶着は避けられまい。

「現在二人は王都にいるようだが、セラが目的ならばいずれはラスファルに来るだろう。全兵士に通達してイノーラとクロード王子の入門を禁じ、追い返すことも可能だが、まずはお前たちの意見を聞きたい。イノーラの要求に応じてセラを引き渡すという選択肢は――」

「ないです」「ありません」
 ユリウスとノエルの声が重なった。

 おれは言うまでもないので黙っていたが、二人が即座に否定したのは嬉しかった。

 想い人がおれの友人たちからも愛されている――その事実はこんなにも胸を温かくするものらしい。

 特に、セラはレアノールでは誰からも愛されていなかったようだから、感慨もひとしおだった。