妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「父上。何があったのですか?」
 落ち着き払った様子でノエルが尋ねた。

 こういうとき、ノエルはとても頼りになる。
 彼は十六歳と思えないほど肝が据わっていて、驚くほど頭が回った。

「王都の港で働く知り合いから《伝言珠》を通して連絡があった」

 バートラム様は知人や友人がとても多い。
 人脈の価値を理解している彼は常日頃から有事に備えて根回しを怠らず、色んな人間に恩を売り、同時に色んな人間の弱みを掌握していた。

 国王でさえバートラム様には一目置いている。
 バートラム様の助けがなければ、おれが国王に直談判することは不可能だっただろう。

「今朝早く、セラと良く似た少女が恋人らしき青年と共に人目を避けるようにして入港したらしい。珍しいピンクローズの波打つ髪に銀の《魔力環》が浮かんだ青い目、顎の下にある黒子。全ての特徴がイノーラと一致する」

 おれは無言で手を握った。
 八年前、蔑むような目でおれを見たセラの双子の妹が、セラを追いかけて来たのか。

「ふくよかな体型の青年は茶髪碧眼で、鷲鼻に丸顔。こちらはイノーラと結婚したというレアノールの第三王子の特徴と一致するな。入港にあたって彼女たちが書類にサインした名前は『リディー』と『ジョシュア』だそうだ。リディーとはセラが飼っていた猫の名前だ。ここまでくれば間違いはない。イノーラとクロード王子だ」

「……新婚旅行でロドリーに来たわけではないでしょうね。目的はセラの確保でしょうか?」
 予想の範疇だったらしく、ノエルは顔色一つ変えない。