妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「失礼しますね」
 私が直接頭に触れてもユリウス様は人間の姿を保っている。

 この分だと女性恐怖症の克服、引いては社交界復帰も近いのではないだろうか。
 私は微笑みながら丁寧にユリウス様の髪を梳き、やがて櫛を下ろした。

「はい、終わりました。お疲れ様です。今日も猫になりませんでしたね。順調に記録更新中です」
 ぱちぱち拍手する。

「大げさなような気もするが、ありがとう。どうやら『いまから女性に触られる』という心の準備を済ませていれば大丈夫になったようだ」

「そうだと良いんですが、単純に私に慣れただけなのかもしれません。他の女性が触っても大丈夫なのかどうか試してみたいですね。マルグリットにでも頼んでみましょうか」
 そんなことを話していると、玄関の扉がノックされる音が聞こえた。

 私はユリウス様に断って玄関に向かい、扉を開けた。
 外に立っていたのは私と同じお仕着せを着たマルグリットだった。

「あらマルグリット、おはよう」
 まるで話を聞いていたかのようなタイミングでの登場に驚きつつ、私は挨拶した。

「ええ、おはようセラ。ユリウス様とノエル様とリュオンさんはいるかしら。バートラム様がお呼びなの」

「わかったわ、三人を呼んでくるわね」
 お仕着せの裾を翻した私は一抹の不安を覚えた。

 この屋敷で働き始めて二か月近くになるが、バートラム様が朝から三人を呼ぶのは初めてのことだ。

 何だろう……悪いことでなければ良いのだけれど。