妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

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 夏空の下、小鳥たちが元気に囀っている。
 私はサロンの長椅子に座ったユリウス様の後ろに立ち、少し屈んで彼の癖のある黒髪を櫛で梳いていた。

 この一か月間、サロンで彼の髪を梳るのは毎朝の習慣と化していた。

 理由は言わずもがな、女性に慣れてもらうためである。

 最初の頃はガチガチに緊張していて顔色も真っ青。

 苦手な女性が近くにいる恐怖と触られる恐怖でもはや声も上げられず、私が触れる度に猫になりかけるのを常時猫化解除魔法を発動したリュオンが防いでいた。

 猫化を解除する魔法は莫大な魔力を消費する。

 たとえリュオンでも絶え間なく猫化解除魔法を使うことなど不可能だったのだが、他人の魔力を増幅することができる私の存在によって不可能は可能になった。

 猫化解除魔法の連続使用可能時間は十分。
 十五分が限界で、それ以上使ったら多分脳が焼き切れて昏倒する、と物凄く怖いことを言われたため、十分は絶対厳守だ。

 とはいえ、最近は慣れてきたらしく、この三日間私が触れてもユリウス様は猫になっていない。

 向かいの長椅子に座るリュオンも猫化解除魔法は使わず、ただ見守っているだけだ。