妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

「リュオン」
 大切そうにおれの名前を呟き、彼女はおれを背負って歩き続ける。

 彼女の背中で揺られながら、おれはもう一度空を見上げた。

 真っ暗な空には相変わらず月も星もないけれど。

 視線を地上に戻せば、汗だくの一人の少女が息を切らし、筋肉を痙攣させながら、必死でおれを背負っている。

 信じ難いことだが、もはや認めざるを得なかった。

 何の見返りも求めず、彼女はただ純粋におれを助けようとしている。

 ――多分、いまおれが見ている光景は、月よりも星よりも美しく、尊いもの。

 言葉も通用しない、どこから来たのかもわからない他国の少女を見ながら、おれはなんだか泣きそうになった。

 彼女の背中で彼女の体温を感じていると、悪意と否定ばかりのこの世界で、初めて自由に呼吸ができた。

 生きていることを許されたような気がした。