五感を研ぎ澄ませ! ~旧校舎で踊る火の玉事件~

 翌日、僕は教室でアクビを噛み殺した。
 あれから寮に戻って予習復習をしていたら寝るのが遅くなってしまった。
 授業に支障が出るのは困る。やっぱり早く解決しないとだ。

「なあ、テスト勉強してる?」
「してるけど、今回難しくてやばいかも」
「だよなぁ!」

 クラスメイトの今井くんと野崎くんが近くで賑やかに話している。
 彼らはふいに僕へ視線を向けた。

「なあ、木戸は?」
「え?」
「いつも勉強してるし、成績もいいだろ? 今回のテスト、どう? いけそう?」

 彼らは僕と小学校も一緒だった。
 だから――いや、だけど、か。
 だけど、こうして、浮いている僕にもたまにだけど話しかけてくれる。

「いけそうっていうか、やれることをやるだけだから……」
「特待生は言うことがちげーや」

 はは、と彼らは笑う。
 僕はふいに昨日の天土くんの言葉を思い出した。

(……もったいない、ね……)

 眠い目をこするフリをして、そうっと、メガネをズラして彼らを見る。

 キンッ……!

 ――一見感心したような、朗らかにも見える笑み。
 だけど口角の上がり方がイビツだ。
 細められた目の周りの筋肉は強張っているし、僕を見ているようで実は見ていない。
 そこに潜む温度は冷ややか。
 そんなたくさんの、僕を内心でバカにしている動きが見て取れる。

 その情報の多さにクラクラした。たまらずメガネをかけ直す。
 ……はあ。やっぱり「見える」ってロクでもない。
 それでも表立って悪口を言ったりからかったりしてくるワケじゃないから、客観的に見れば「いい人」の部類ではあるんだろう。
 僕だって、僕なんかとは関わらない方が楽だと思うしね。

「なあなあ、だったらこの問題わかる?」

 ノートを見せられて、反射的に問題に目を走らせる。
 数学の問題だ。入り組んでいてすぐには難しい。
 それでも丁寧に解いていけばわからない問題じゃない。

「ええと……これをここに代入するから……この方式を使って……」
「ああ! なるほど!」
「わかりやす! ありがとな、木戸」
「ううん」

 ノートを借りて解いてやると、二人は素直に感心してくれた。
 僕をバカにした気持ちが見えてしまったから複雑だけど、見えていなければ、何てことのないやり取りだ。
 ……だから気づかない方が、きっと平和、なんだよなぁ。

「またわからないところがあったら教えてくれよ」
「あ、うん……」
「木戸」

 どう反応しようか考えあぐねていたら、池上先生に声をかけられた。
 邪魔しないようにと思ったのか、今井くんと野崎くんが「じゃあな」と手を振る。
 彼らは少し離れたところでまた楽しげに会話しだした。
 それを見届け、池上先生に向き直る。

「何ですか?」
「寮から聞いたが、昨日の今日でもう見て回ってくれたんだってな。行動が早くて助かるよ」
「あ、いえ。まだ旧校舎だけなので……」
「何かわかりそうか?」
「まだです。ただ、火の玉らしきものは見ました」
「なにっ」

 池上先生が大きな声で驚く。僕は少し慌てた。

「ガラス越しだったので、はっきり見えたわけじゃありません。もう少し調べてみます」
「そうか。わかった。引き続き頼むよ」

 うなずくと、池上先生は満足そうに離れていった。
 気は進まないけど、頼まれたからには仕方ない。
 何より天土くんからお昼ご飯を担保してもらってるしね。