「僕の視覚がほしい、って……」
「ムリヤリは良くないぜー、杏介」
「杏ちゃんって言い方がキモいよね」
「うん、今のキョーくんはキツかった」
「お前たちほんと俺には遠慮ないよね!」
好き勝手に言うみんなに、天土くんがギャンッとわざとらしい泣き声を上げる。
そして僕のメガネを流れるように自分でかけた。
奪い返したいけど、動揺してどうしていいかわからない。
あとメガネも似合うな、腹立たしいことに。
「あの、一体どういう」
「このメンバーは俺が集めたんだよね。一癖も二癖もあるけど頼もしい仲間たちだよ。俺らは秘密裏に学校のトラブルを解決する、いわば裏生徒会……いや待てよ。生徒会なのは俺だけだし……特殊部隊……? ううん……秘密結社! 『五感』って英語で『five senses』だから『5S』とか『FS』なんてのはどう?」
「その感じ、今考えたよね?」
「いや五年前から考えてましたけど?」
テキトーすぎるだろ。
呆れたその瞬間、背後で火和くんが僕に手を振り上げた。
それが瞬時にわかって、思わず横に避ける。彼がその手を振り下ろすよりずっと早く。
……「しまった」って後悔と、「怖い怖い怖い! 急に何⁉ リンチ⁉」って恐怖が混ざり合う。
振り返ると、火和くんが手を合わせながらも目を丸くしていた。
「ワリぃ。けどスゲーな蒼真! まるで見えてるみたいだ。杏介の言う通りじゃん」
「そ、それは」
「蒼真。君、こんなメガネで誤魔化してるけど、すごく目がいいよね。見えすぎるくらいに。視野がありえないほど広いし、動体視力も相当だ」
僕は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
何でそんなことまで知ってるんだよ、こいつ。
「何で隠すかなあ。もったいない」
「……」
「オレも誇っていいと思うぜ?」
「蘇芳ちゃんの単細胞~」
「あ⁉」
「ボクはそいつの気持ちもわかるけどね。能力をひけらかすと面倒なヤカラまで寄ってきたりするじゃん。それこそ杏ちゃんみたいな」
「真白、えぐんないで」
茶々を入れられて渋い顔をした天土くんは、やっと僕にメガネを返してくれた。
かけ直す直前、脳裏に声がよみがえる。
『気持ち悪い……』
……確かに僕は、目がいい。天土くんの言う通りだ。
背後で起こったことも手に取るようにわかるし、やろうと思えば相手の筋肉の動きから次の行動の予測ができたり、顔色からウソを見抜けたりもする。
だけど、それで良いことがあった試しなんてない。
多すぎる情報量で体調を崩しやすかったし、お母さん以外の親族は僕を不気味がった。
小学校のクラスメイトは僕を散々変な目で見た。
だから僕は中学では目のことは隠して、ただ勉強だけしようって決めたんだ。
だから。
「ともかく! 俺たちは君を歓迎するよ、蒼真!」
にっこり笑って僕に手を差し伸べる天土くん。
その手を僕は、
「お断りします」
丁寧にペチンと弾いた。
「えーっ! 何で何で!」
「駄々こねられても。僕にメリットがないよ」
「池上先生の言うことは聞くのに⁉」
「先生に反抗すると成績に響くっていうデメリットがあるからね」
天土くんは子供みたいに頬をふくらませた。
「メリットがあればいいんだね?」
「まあ……」
「君が頼まれた七不思議を解決できる、って言ったら?」
「何だって?」
それは確かにメリットか?
……いや、と思い直す。
「天土くんの秘密結社とやらは期限が長そうだよね。それに比べて七不思議は見回りさえ済ませてしまえばそれきりで済む。だから自力でがんばるよ」
「融通が利かなすぎるんですけどこのメガネー!」
メガネを悪口みたいに使うな。メガネはすごいだろ。
天土くんの悲鳴じみた声に、火和くんが吹き出した。
「ははっ! 強ぇな蒼真。杏介、諦めてやったらどうだ?」
「そもそも、七不思議っておれたちでしょ。それを取引材料にすんのはかわいそうだよ」
……ん?
水野くんの言葉に引っかかる。
「七不思議が君たちって、どういうこと?」
素っ気なく答えたのは金泉くんだった。
「そのまんまだよ。えーと、『誰もいない音楽室で勝手に鳴るピアノ』だっけ? あれはボク。たまに練習してるんだよね。邪魔されたくないから、人の足音が聞こえたらすぐ隠れてんの」
「『放課後に現れるドッペルゲンガー』はおれだねぇ。たまに変装の練習してて、うっかり見られちゃった」
「『窓の外に落ちる人影』は多分オレだな! 玄関まで行くのが面倒で窓から出入りしたのを見られちまったらしい」
それから、と金泉くんが指折りで数える。
「『真夜中のプールに響く子供の笑い声』、『無人の体育館から聞こえるボールの音』、『無人の放送室から流れるアナウンス』、『旧校舎を走り回る人体模型』は主に杏ちゃんを筆頭としたボクらのストレス発散で遊んでた名残だね」
「学校のトラブルを解決するどころか増やしてどうするんだよ」
思わずツッコんでしまった。
……って、ん?
「『旧校舎で踊る火の玉』は?」
「ん?」
「え?」
不思議そうな顔をされて、少し焦る。
「今日はそのウワサの見回りをしに来たんだけど……それで、てっきりあのロウソクを誰かが見間違ったのかと思ったんだけど」
教室の真ん中でほのかに照らす、ロウソク型のインテリアを指差す。
「いや、今日は君を待ち伏せするために置いただけで普段は使ってないよ。ウワサが間違ってるんじゃないの?」
「待って、待ち伏せって言った?」
「メモ見せて」
「ねえ待ち伏せって言った?」
僕の話を聞かない天土くんは、僕が持っていたメモを奪い取っていった。
四人が一斉に覗き込む。
「本当だ、蒼真の言う通り書いてある。……池上先生が間違ったのかな」
「先生もうっかりなんだな!」
「マシロくんは火の玉のウワサ、聞いたことある?」
「ないね」
「真白が知らないなら、やっぱり間違いなんじゃ……?」
ボソボソと話し合う四人。
手持ち無沙汰になってしまって、僕は椅子から立ち上がった。伸びをする。
なんだか妙なことになってしまった。
旧校舎のウワサの謎はともかく、他の七不思議がこの四人の仕業だったなんて、先生には何て報告しようか……、ん?
「ねえ、あれ」
窓から見えた光景に、僕は思わず指を差した。
四人も気づいて、視線を向ける。
気泡混じりの分厚いガラスのせいでぼやけて見える、窓の外。
そこでは、何かが燃えているようにユラユラと、火が……。
「キャアアアアアアッ」
天土くんからお手本のような「絹を裂くような悲鳴」が上がって、僕の心臓が飛び出るかと思った。
「ムリヤリは良くないぜー、杏介」
「杏ちゃんって言い方がキモいよね」
「うん、今のキョーくんはキツかった」
「お前たちほんと俺には遠慮ないよね!」
好き勝手に言うみんなに、天土くんがギャンッとわざとらしい泣き声を上げる。
そして僕のメガネを流れるように自分でかけた。
奪い返したいけど、動揺してどうしていいかわからない。
あとメガネも似合うな、腹立たしいことに。
「あの、一体どういう」
「このメンバーは俺が集めたんだよね。一癖も二癖もあるけど頼もしい仲間たちだよ。俺らは秘密裏に学校のトラブルを解決する、いわば裏生徒会……いや待てよ。生徒会なのは俺だけだし……特殊部隊……? ううん……秘密結社! 『五感』って英語で『five senses』だから『5S』とか『FS』なんてのはどう?」
「その感じ、今考えたよね?」
「いや五年前から考えてましたけど?」
テキトーすぎるだろ。
呆れたその瞬間、背後で火和くんが僕に手を振り上げた。
それが瞬時にわかって、思わず横に避ける。彼がその手を振り下ろすよりずっと早く。
……「しまった」って後悔と、「怖い怖い怖い! 急に何⁉ リンチ⁉」って恐怖が混ざり合う。
振り返ると、火和くんが手を合わせながらも目を丸くしていた。
「ワリぃ。けどスゲーな蒼真! まるで見えてるみたいだ。杏介の言う通りじゃん」
「そ、それは」
「蒼真。君、こんなメガネで誤魔化してるけど、すごく目がいいよね。見えすぎるくらいに。視野がありえないほど広いし、動体視力も相当だ」
僕は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
何でそんなことまで知ってるんだよ、こいつ。
「何で隠すかなあ。もったいない」
「……」
「オレも誇っていいと思うぜ?」
「蘇芳ちゃんの単細胞~」
「あ⁉」
「ボクはそいつの気持ちもわかるけどね。能力をひけらかすと面倒なヤカラまで寄ってきたりするじゃん。それこそ杏ちゃんみたいな」
「真白、えぐんないで」
茶々を入れられて渋い顔をした天土くんは、やっと僕にメガネを返してくれた。
かけ直す直前、脳裏に声がよみがえる。
『気持ち悪い……』
……確かに僕は、目がいい。天土くんの言う通りだ。
背後で起こったことも手に取るようにわかるし、やろうと思えば相手の筋肉の動きから次の行動の予測ができたり、顔色からウソを見抜けたりもする。
だけど、それで良いことがあった試しなんてない。
多すぎる情報量で体調を崩しやすかったし、お母さん以外の親族は僕を不気味がった。
小学校のクラスメイトは僕を散々変な目で見た。
だから僕は中学では目のことは隠して、ただ勉強だけしようって決めたんだ。
だから。
「ともかく! 俺たちは君を歓迎するよ、蒼真!」
にっこり笑って僕に手を差し伸べる天土くん。
その手を僕は、
「お断りします」
丁寧にペチンと弾いた。
「えーっ! 何で何で!」
「駄々こねられても。僕にメリットがないよ」
「池上先生の言うことは聞くのに⁉」
「先生に反抗すると成績に響くっていうデメリットがあるからね」
天土くんは子供みたいに頬をふくらませた。
「メリットがあればいいんだね?」
「まあ……」
「君が頼まれた七不思議を解決できる、って言ったら?」
「何だって?」
それは確かにメリットか?
……いや、と思い直す。
「天土くんの秘密結社とやらは期限が長そうだよね。それに比べて七不思議は見回りさえ済ませてしまえばそれきりで済む。だから自力でがんばるよ」
「融通が利かなすぎるんですけどこのメガネー!」
メガネを悪口みたいに使うな。メガネはすごいだろ。
天土くんの悲鳴じみた声に、火和くんが吹き出した。
「ははっ! 強ぇな蒼真。杏介、諦めてやったらどうだ?」
「そもそも、七不思議っておれたちでしょ。それを取引材料にすんのはかわいそうだよ」
……ん?
水野くんの言葉に引っかかる。
「七不思議が君たちって、どういうこと?」
素っ気なく答えたのは金泉くんだった。
「そのまんまだよ。えーと、『誰もいない音楽室で勝手に鳴るピアノ』だっけ? あれはボク。たまに練習してるんだよね。邪魔されたくないから、人の足音が聞こえたらすぐ隠れてんの」
「『放課後に現れるドッペルゲンガー』はおれだねぇ。たまに変装の練習してて、うっかり見られちゃった」
「『窓の外に落ちる人影』は多分オレだな! 玄関まで行くのが面倒で窓から出入りしたのを見られちまったらしい」
それから、と金泉くんが指折りで数える。
「『真夜中のプールに響く子供の笑い声』、『無人の体育館から聞こえるボールの音』、『無人の放送室から流れるアナウンス』、『旧校舎を走り回る人体模型』は主に杏ちゃんを筆頭としたボクらのストレス発散で遊んでた名残だね」
「学校のトラブルを解決するどころか増やしてどうするんだよ」
思わずツッコんでしまった。
……って、ん?
「『旧校舎で踊る火の玉』は?」
「ん?」
「え?」
不思議そうな顔をされて、少し焦る。
「今日はそのウワサの見回りをしに来たんだけど……それで、てっきりあのロウソクを誰かが見間違ったのかと思ったんだけど」
教室の真ん中でほのかに照らす、ロウソク型のインテリアを指差す。
「いや、今日は君を待ち伏せするために置いただけで普段は使ってないよ。ウワサが間違ってるんじゃないの?」
「待って、待ち伏せって言った?」
「メモ見せて」
「ねえ待ち伏せって言った?」
僕の話を聞かない天土くんは、僕が持っていたメモを奪い取っていった。
四人が一斉に覗き込む。
「本当だ、蒼真の言う通り書いてある。……池上先生が間違ったのかな」
「先生もうっかりなんだな!」
「マシロくんは火の玉のウワサ、聞いたことある?」
「ないね」
「真白が知らないなら、やっぱり間違いなんじゃ……?」
ボソボソと話し合う四人。
手持ち無沙汰になってしまって、僕は椅子から立ち上がった。伸びをする。
なんだか妙なことになってしまった。
旧校舎のウワサの謎はともかく、他の七不思議がこの四人の仕業だったなんて、先生には何て報告しようか……、ん?
「ねえ、あれ」
窓から見えた光景に、僕は思わず指を差した。
四人も気づいて、視線を向ける。
気泡混じりの分厚いガラスのせいでぼやけて見える、窓の外。
そこでは、何かが燃えているようにユラユラと、火が……。
「キャアアアアアアッ」
天土くんからお手本のような「絹を裂くような悲鳴」が上がって、僕の心臓が飛び出るかと思った。
