「君、木戸蒼真くんだよね。こんなところに何の用?」
そう言って微笑むのは、なんと、天土杏介くんだった。
手には掌より少し大きいサイズの懐中電灯を持っている。
どうやら背中に押しつけられたのはコレらしい。
「……って、何で僕の名前……」
有名な生徒会長ならまだしも、僕は凡人なのに?
パチクリしていると、天土くんは肩をすくめてみせた。
「聞いてるのは俺の方なんだけどな。まあいいよ。何でも何も、俺はこの学校の生徒のことなら全員把握してるからね」
「全員?」
「全員」
しれっと言ってのけたけど、全学年合わせれば千人くらいいるんじゃなかったか?
「いや、それよりロウソク!」
慌てて駆け寄る。
今度は邪魔されなかった。
代わりとばかりにのんびりとした声がかけられる。
「何、慌てちゃって」
「慌てもするよ! 君も生徒会長なら、こんなところで火の不始末なん、て……?」
近づいて、言葉が途切れる。
ゆらゆらと不規則に揺れる灯りは、温度を伴っていなかった。
……火に見せかけた、電気タイプのインテリアだ、これ。こんなリアルなの初めて見た。
「火が何だって?」
顔を覗き込んでくる天土くん。
その表情はニヤニヤと意地悪く……。
「き……君の仕業か!」
「あははっ。そっちが勝手に勘違いしたんだろ?」
ケタケタと笑う彼は、完全無欠な生徒会長様とは言いがたい。
お子様、いや、完全にクソガキだ。
肩を震わせていると、彼はパチンと指を鳴らした。
彼の背後からゾロゾロと人が出てくる。一、二、三……天土くんを入れて四人。
って待て待て待て。昨日コンビニで見かけた有名人ばかりなんですけど!
「……で、改めて聞くよ。こんな時間に、こんなところで、何の用?」
圧。
笑顔なのに。
一分の隙もない笑顔で奴は僕に圧をかけてくる。
後ろの人たちもめちゃくちゃ警戒した目を向けてくるから余計に怖い。
――別に僕は悪いことなんてしてないのに! 理不尽だ!
そう叫びたい気持ちをこらえて、スゥ、ハァ、意識的に深呼吸。
真っ向から見つめ合う。
「先生に頼まれたんだ。学校の七不思議で不安がる生徒が増えているから、調査してほしいって。それで見回っていたっていう……」
「先生って誰?」
「池上先生だけど……」
「あー。贔屓がすげー陰険廃課金者ね」
生徒会長にあるまじき言いようだ。
さっきからイメージの崩壊がすごい。
この人、普段はめちゃくちゃ爽やかな笑顔で挨拶してなかったっけ。
あと池上先生が廃課金してるとか別に知りたくなかった。
天土くんはまたパチンと指を鳴らした。息をするように動きがキザだ。
「なるほど、なるほど。よーくわかった」
「はあ」
「蒼真くん。君、それ、嫌がらせだよ。あの先生、君みたいな苦学生のことキライだからねぇ。だいたいただの特待生である君が夜中の旧校舎を調査する妥当性なんてない。生徒会長である俺ならまだしもね。いや生徒会長ってだけでそんなことしてらんないから俺なら拒否するけど。大方無理なお願いをしてストレスをかけて、ついでにトラブルでも起こさせようって魂胆だね」
「まあ、そうかもね」
「わかってたの」
意外そうに天土くんが瞬く。仕方なく僕はうなずいた。
実のところ、池上先生に理不尽なことを頼まれるのは別に今回がはじめてじゃない。
先生から見て僕は扱いにくい生徒なんだろう。
僕と他のみんなでは出自が雲泥の差だし、そんな僕だからクラスのみんなと話が合うはずもなくて、正直浮いているし。僕の周りだけ無重力かってくらい。
「けど、頼まれたんだから仕方ないじゃないか。下手に断れるような立場でもないし。粛々とこなすだけだよ」
「はーっ、クソ真面目!」
クソとか言うな。そんな爽やかな顔で。ファンが泣くぞ。
後ろに控えていた男子たちがガマンしきれなかったように天土くんをつつく。
「なあ、杏介。結局こいつ誰なんだよ?」
「あ、僕は……」
「木戸蒼真くん。二年B組の特待生だよ。成績優秀みたいだね。俺ほどじゃないけど」
何で天土くんが僕の紹介をするんだ。
悪かったな、万年二位で。こっち向いてドヤ顔するなよ常時一位の生徒会長様が。少しは謙虚にしてくれ。
「特待生? ああ、頭良さそうだもんな!」
悪気はなさそうだけど、絶対メガネで判断したな、この人……。
ちなみに残りの二人は興味なさそうな顔してる。別にいいけどちょっと傷つく。
呆れていると、天土くんに腕を引かれた。
いつの間にか椅子が用意してあって、流れるように座らされる。
「せっかくだからみんなのことも紹介してあげよう」
「いえ、結構です」
「まずは火和蘇芳!」
「おう!」
この人たち、全然僕の話を聞かないな。
「蘇芳はサッカーのスポーツ推薦で入った特待生。といってもサッカー以外もだいたいできる。まあその分ちょっとポンなところがあるけど、可愛い奴だよ。何より鼻がきく」
「……鼻が?」
「おう! クラスの奴らからは『お前警察犬だな』って言われる」
「クラスの盗難騒ぎを嗅覚だけで解決したことがあるからね」
火和蘇芳くんはニッと笑って親指を立てた。
スラッとした身体に、爛々と輝いた目。
短く切り揃えられた髪は爽やかで、覗く八重歯がヤンチャっぽい。
この場の誰よりも人懐っこそうで、大型犬って感じだ。
運動ができるのは僕もよく知っている。昼休みのたびにグラウンドでよくサッカーだの野球だので駆け回っていて、そのたびに女子が黄色い声を上げているから。
それにしても、鼻?
自己紹介……いやこの場合は他己紹介か?
どちらにせよ、あまり自慢げに言うポイントじゃないような?
ただ「警察犬みたいだな」っていうのは昨日僕も思いました。なんだかすいません。
「よろしくな、蒼真!」
「あ、え、ええ? よろしく……?」
何を?
「で、さっきからそこでボーッとしてるのが水野玄斗。触った人に変装するのが得意。あと謎に怪力だけど無害だから安心するとよろしい」
「おれ、ボーッとしてねーし。キョーくんの話が長いからダルかっただけ」
「こうやって地味にえぐってくるから気をつけて」
「それって無害じゃなくない?」
気怠げな雰囲気を隠さない、「眠り姫」こと水野玄斗くん。
表情筋があまり仕事をしてなくてちょっとロボットみたいだ。
火和くんと同じくらい背が高い。
肩までかかる髪をハーフアップでまとめている。
怪力……って感じはしないけど、でも確かに火和くんより少しガタイもいいかな。
昨日だってほぼ一人でコンビニ強盗を倒していたしね。
けど、変装? 演劇部とか? いやでも触った人にって?
「そしてゲームしてるそこのチビッコは金泉真白。彼はね、バツグンに耳がいい」
「チビッコ言うなっ」
ゲーム機から顔を上げてジロッと睨み上げてくる、マッシュヘアの金泉真白くん。
火和くんが歓迎、水野くんが無関心なら、金泉くんははっきりと僕を敵対視しているみたいだった。
昨日と変わらずヘッドホンを首にかけてる。くわえてるのは棒付きの飴かな。
少しツリ目なのも相まって、まるで雰囲気がツンツンした子猫みたいだ。言ったら怒られそうだけど。
女子が「餌付けしたい」「かわいい顔して生意気なのがまたいいのよ」なんてきゃあきゃあ言ってたっけ。
ピアノを弾いているときのギャップがメロいとか何とか……なるほど耳、かぁ。
「ボクは興味ないもーん。ソーマだかユーマだか知らないけどあんま近寄んないでよね。メガネがうつる」
「メガネがうつるって何だ⁉」
あとUMAの発音だったよね今⁉
「彼、反抗期なんだよね」
天土くんは母親みたいなことを言って肩をすくめた。
それにしても、みんなキラキラと眩しい。顔もオーラも輝いている。僕の目が潰れそうだ。
「ところで気づいた?」
「な、何が……?」
「蘇芳の嗅覚、玄斗の触覚、真白の聴覚……」
天土くんはズイと近づいてきた。
僕は思わず仰け反る。
だけどそれより早く、天土くんは僕のメガネを奪い取った。
「あっ……!」
「そして君の視覚。――俺、欲しいなぁ」
「な、何を言って」
「こんな分厚いメガネかけちゃって……視力二.〇あるくせに。コンビニ強盗から助けてくれたのも君だろ。ね、蒼真」
僕の分厚いメガネを軽やかに振り回して、彼は悪魔のように笑った。
そう言って微笑むのは、なんと、天土杏介くんだった。
手には掌より少し大きいサイズの懐中電灯を持っている。
どうやら背中に押しつけられたのはコレらしい。
「……って、何で僕の名前……」
有名な生徒会長ならまだしも、僕は凡人なのに?
パチクリしていると、天土くんは肩をすくめてみせた。
「聞いてるのは俺の方なんだけどな。まあいいよ。何でも何も、俺はこの学校の生徒のことなら全員把握してるからね」
「全員?」
「全員」
しれっと言ってのけたけど、全学年合わせれば千人くらいいるんじゃなかったか?
「いや、それよりロウソク!」
慌てて駆け寄る。
今度は邪魔されなかった。
代わりとばかりにのんびりとした声がかけられる。
「何、慌てちゃって」
「慌てもするよ! 君も生徒会長なら、こんなところで火の不始末なん、て……?」
近づいて、言葉が途切れる。
ゆらゆらと不規則に揺れる灯りは、温度を伴っていなかった。
……火に見せかけた、電気タイプのインテリアだ、これ。こんなリアルなの初めて見た。
「火が何だって?」
顔を覗き込んでくる天土くん。
その表情はニヤニヤと意地悪く……。
「き……君の仕業か!」
「あははっ。そっちが勝手に勘違いしたんだろ?」
ケタケタと笑う彼は、完全無欠な生徒会長様とは言いがたい。
お子様、いや、完全にクソガキだ。
肩を震わせていると、彼はパチンと指を鳴らした。
彼の背後からゾロゾロと人が出てくる。一、二、三……天土くんを入れて四人。
って待て待て待て。昨日コンビニで見かけた有名人ばかりなんですけど!
「……で、改めて聞くよ。こんな時間に、こんなところで、何の用?」
圧。
笑顔なのに。
一分の隙もない笑顔で奴は僕に圧をかけてくる。
後ろの人たちもめちゃくちゃ警戒した目を向けてくるから余計に怖い。
――別に僕は悪いことなんてしてないのに! 理不尽だ!
そう叫びたい気持ちをこらえて、スゥ、ハァ、意識的に深呼吸。
真っ向から見つめ合う。
「先生に頼まれたんだ。学校の七不思議で不安がる生徒が増えているから、調査してほしいって。それで見回っていたっていう……」
「先生って誰?」
「池上先生だけど……」
「あー。贔屓がすげー陰険廃課金者ね」
生徒会長にあるまじき言いようだ。
さっきからイメージの崩壊がすごい。
この人、普段はめちゃくちゃ爽やかな笑顔で挨拶してなかったっけ。
あと池上先生が廃課金してるとか別に知りたくなかった。
天土くんはまたパチンと指を鳴らした。息をするように動きがキザだ。
「なるほど、なるほど。よーくわかった」
「はあ」
「蒼真くん。君、それ、嫌がらせだよ。あの先生、君みたいな苦学生のことキライだからねぇ。だいたいただの特待生である君が夜中の旧校舎を調査する妥当性なんてない。生徒会長である俺ならまだしもね。いや生徒会長ってだけでそんなことしてらんないから俺なら拒否するけど。大方無理なお願いをしてストレスをかけて、ついでにトラブルでも起こさせようって魂胆だね」
「まあ、そうかもね」
「わかってたの」
意外そうに天土くんが瞬く。仕方なく僕はうなずいた。
実のところ、池上先生に理不尽なことを頼まれるのは別に今回がはじめてじゃない。
先生から見て僕は扱いにくい生徒なんだろう。
僕と他のみんなでは出自が雲泥の差だし、そんな僕だからクラスのみんなと話が合うはずもなくて、正直浮いているし。僕の周りだけ無重力かってくらい。
「けど、頼まれたんだから仕方ないじゃないか。下手に断れるような立場でもないし。粛々とこなすだけだよ」
「はーっ、クソ真面目!」
クソとか言うな。そんな爽やかな顔で。ファンが泣くぞ。
後ろに控えていた男子たちがガマンしきれなかったように天土くんをつつく。
「なあ、杏介。結局こいつ誰なんだよ?」
「あ、僕は……」
「木戸蒼真くん。二年B組の特待生だよ。成績優秀みたいだね。俺ほどじゃないけど」
何で天土くんが僕の紹介をするんだ。
悪かったな、万年二位で。こっち向いてドヤ顔するなよ常時一位の生徒会長様が。少しは謙虚にしてくれ。
「特待生? ああ、頭良さそうだもんな!」
悪気はなさそうだけど、絶対メガネで判断したな、この人……。
ちなみに残りの二人は興味なさそうな顔してる。別にいいけどちょっと傷つく。
呆れていると、天土くんに腕を引かれた。
いつの間にか椅子が用意してあって、流れるように座らされる。
「せっかくだからみんなのことも紹介してあげよう」
「いえ、結構です」
「まずは火和蘇芳!」
「おう!」
この人たち、全然僕の話を聞かないな。
「蘇芳はサッカーのスポーツ推薦で入った特待生。といってもサッカー以外もだいたいできる。まあその分ちょっとポンなところがあるけど、可愛い奴だよ。何より鼻がきく」
「……鼻が?」
「おう! クラスの奴らからは『お前警察犬だな』って言われる」
「クラスの盗難騒ぎを嗅覚だけで解決したことがあるからね」
火和蘇芳くんはニッと笑って親指を立てた。
スラッとした身体に、爛々と輝いた目。
短く切り揃えられた髪は爽やかで、覗く八重歯がヤンチャっぽい。
この場の誰よりも人懐っこそうで、大型犬って感じだ。
運動ができるのは僕もよく知っている。昼休みのたびにグラウンドでよくサッカーだの野球だので駆け回っていて、そのたびに女子が黄色い声を上げているから。
それにしても、鼻?
自己紹介……いやこの場合は他己紹介か?
どちらにせよ、あまり自慢げに言うポイントじゃないような?
ただ「警察犬みたいだな」っていうのは昨日僕も思いました。なんだかすいません。
「よろしくな、蒼真!」
「あ、え、ええ? よろしく……?」
何を?
「で、さっきからそこでボーッとしてるのが水野玄斗。触った人に変装するのが得意。あと謎に怪力だけど無害だから安心するとよろしい」
「おれ、ボーッとしてねーし。キョーくんの話が長いからダルかっただけ」
「こうやって地味にえぐってくるから気をつけて」
「それって無害じゃなくない?」
気怠げな雰囲気を隠さない、「眠り姫」こと水野玄斗くん。
表情筋があまり仕事をしてなくてちょっとロボットみたいだ。
火和くんと同じくらい背が高い。
肩までかかる髪をハーフアップでまとめている。
怪力……って感じはしないけど、でも確かに火和くんより少しガタイもいいかな。
昨日だってほぼ一人でコンビニ強盗を倒していたしね。
けど、変装? 演劇部とか? いやでも触った人にって?
「そしてゲームしてるそこのチビッコは金泉真白。彼はね、バツグンに耳がいい」
「チビッコ言うなっ」
ゲーム機から顔を上げてジロッと睨み上げてくる、マッシュヘアの金泉真白くん。
火和くんが歓迎、水野くんが無関心なら、金泉くんははっきりと僕を敵対視しているみたいだった。
昨日と変わらずヘッドホンを首にかけてる。くわえてるのは棒付きの飴かな。
少しツリ目なのも相まって、まるで雰囲気がツンツンした子猫みたいだ。言ったら怒られそうだけど。
女子が「餌付けしたい」「かわいい顔して生意気なのがまたいいのよ」なんてきゃあきゃあ言ってたっけ。
ピアノを弾いているときのギャップがメロいとか何とか……なるほど耳、かぁ。
「ボクは興味ないもーん。ソーマだかユーマだか知らないけどあんま近寄んないでよね。メガネがうつる」
「メガネがうつるって何だ⁉」
あとUMAの発音だったよね今⁉
「彼、反抗期なんだよね」
天土くんは母親みたいなことを言って肩をすくめた。
それにしても、みんなキラキラと眩しい。顔もオーラも輝いている。僕の目が潰れそうだ。
「ところで気づいた?」
「な、何が……?」
「蘇芳の嗅覚、玄斗の触覚、真白の聴覚……」
天土くんはズイと近づいてきた。
僕は思わず仰け反る。
だけどそれより早く、天土くんは僕のメガネを奪い取った。
「あっ……!」
「そして君の視覚。――俺、欲しいなぁ」
「な、何を言って」
「こんな分厚いメガネかけちゃって……視力二.〇あるくせに。コンビニ強盗から助けてくれたのも君だろ。ね、蒼真」
僕の分厚いメガネを軽やかに振り回して、彼は悪魔のように笑った。
