外は日が落ち始めていた。
グラウンドからは部活に励む生徒たちの声が、新校舎からは吹奏楽部が練習しているメロディーが聞こえてくる。
そこだけ切り取るとただ平和で、青春の塊みたいだ。
だというのに、僕らは今、そういうものを全部振り払うかのように息を切らせて全力疾走している。
「も~! ボクたち、何回旧校舎に行けば気が済むの⁉」
走りながら金泉くんが文句を言う。
足の速い火和くんが先頭で旧校舎に駆け込んだ。
「とりあえず二階を探せばいいんだな⁉」
「ああ! ていうか蘇芳、ニオイでわからない⁉」
「爆弾のニオイなんて嗅いだことねーよ!」
そりゃあそうだ。爆弾を嗅いでる方がビックリする。
「この先は手当たり次第探すしかないかなぁ」
「のんびりしてたら爆発しちまうぜ⁉ もっと細かく先生に聞いた方が良かったんじゃねーの⁉」
「そんなこと言ったってあの聞き方だと限度があるよ。俺と蒼真を褒めてほしいくらいだね」
「確かにすごかったけど!」
「みんな黙って!」
二階に辿り着くと、肩で息をしながら金泉くんが言い放った。
僕らは一斉に黙り込む。
金泉くんは目を閉じて耳を澄ませた。
「……。……こっち! 時計の音がする!」
金泉くんが奥の教室を指差した。
うなずき、僕らはまた走り出す。
こんなに走ったのなんていつ振りだろう。去年の運動会振りかもしれない。
「ここっ……あ、くそ、鍵が閉まってる!」
「どいてー」
スライド式のドアをどうにか開けようとした金泉くんを、水野くんが押しのける。
彼はドアの前に立つと、一呼吸。
ぐっと手に力を入れると――ガコンッ!
ドアをスライドさせるんじゃなくて、前に押して、外した。
「えええええええ⁉」
「さすが玄斗、やるなぁ!」
「玄ちゃん、相変わらず馬鹿力すぎでしょ」
「いえーい」
めちゃくちゃなごり押しをした本人はドアを壁に立てかけると、まったりピースをした。
本人はこんなにゆるゆるしているのに、何だあの力。信じられない。
だけど悠長に驚いている時間もない。
急いで中に入ると、隅の方に黒くて四角いプラスチックの箱が見えた。
みんなで駆け寄る。どうやら箱に鍵はかかっていない。
天土くんがそうっと開ける。
……何だか、心臓が痛くなってきた。
「……これだね」
覗き込むと――映画などで見たものよりはずっとシンプルな筒や時計が中に詰め込まれていた。
だけど無機質すぎて、それがかえって僕の目には不気味に映る。
「どうだ⁉ 杏介、止められそうか?」
「ちょっと待って、あー……そうだな、作りはかなりシンプルだと思う。要は通電させないように回路を切ればいいワケだから」
「じゃあ……!」
僕らはホッと息をつく。
だけど天土くんは困ったように笑った。
「ただ……お約束の、アレだね。アレ」
「アレって? 杏ちゃん、もったいぶらないでよ」
天土くんは懐からソーイングセットを取り出した。
しれっとそんなものを取り出すなんて洒落ぶってるな、天土くん……。
ソーイングセットを日頃持ち歩いているって、どういう男子だよ……。
彼はそこから小さなハサミを手に取って、チョキンと宙を切る仕草をする。
そして、眉を下げた。
「赤と青のどっちを切ればいいんだ、ってやつ」
「……」
確かに映画や小説でよく見る展開、お約束だった。
三人が愕然とした表情になる。
「は? 待ってわかんないの?」
「多分作った先生にしかわからないよ」
「ウソだろ……! 戻って問い詰めてくるか⁉」
「えー、あの先生吐くかなぁ……ていうか、そんな行って戻る時間なんてないんじゃない?」
「うわー! 何でみんなでこっち来たんだよ! 誰か先生のところに残ってろよ!」
「杏ちゃんが急げって言ったから!」
「えっ、俺のせい⁉」
「でも少なくともボクと玄ちゃんは爆弾を見つけるのに必要だったもんね! 蘇芳ちゃんが残るべきだったじゃん!」
「そんなのケッカンだろ!」
「ケッカンって何ぃ?」
「『結果論』か、蘇芳?」
「それ!」
「も~~蘇芳ちゃんのボケなんてどうでもいいから! どうすんのマジで!」
一気に騒がしくなる。
こうしている間にも時計の針は刻々と進んでいるんだから焦りにも拍車がかかる。
僕も心臓の音が太鼓になったみたいに大きくなって身体が震えた。
どうしよう。どうすれば。
このままじゃ……。
(赤の導線と、青の導線……どちらかを切れば……)
赤か、青。わかるのは、作った池上先生のみ。
先生が作っているところを見ていれば、どちらかわかったかもしれないのに。
――あ。
パチンと目の前が弾けたような気がした。
「……赤、だ」
「え?」
四人が一斉に僕を見る。
僕は震える声で告げた。
「赤を切れば止まるよ」
「……蒼ちゃん? 何でわかんの?」
「見た。……ほら、池上先生が僕らに見せた、爆弾の図面。あそこに書いてた!」
見せられた時間は長くなかった。
だけどメガネをかけていない僕の目は、余すことなくそれらの情報を拾い上げていた。
だから――わかる。
回路とか原理とか難しい話はわからないけど、解除の方法もメモされていたから。
だから、わかる!
三人が驚いた顔をする。
そして天土くんは――彼にしては珍しい、どこか勝ち気な笑みを向けてきた。
「ははっ。蒼真、やっぱ君の目はサイコーだな!」
そうして。
彼は疑うことなく、――パチンと、赤の導線を切った。
グラウンドからは部活に励む生徒たちの声が、新校舎からは吹奏楽部が練習しているメロディーが聞こえてくる。
そこだけ切り取るとただ平和で、青春の塊みたいだ。
だというのに、僕らは今、そういうものを全部振り払うかのように息を切らせて全力疾走している。
「も~! ボクたち、何回旧校舎に行けば気が済むの⁉」
走りながら金泉くんが文句を言う。
足の速い火和くんが先頭で旧校舎に駆け込んだ。
「とりあえず二階を探せばいいんだな⁉」
「ああ! ていうか蘇芳、ニオイでわからない⁉」
「爆弾のニオイなんて嗅いだことねーよ!」
そりゃあそうだ。爆弾を嗅いでる方がビックリする。
「この先は手当たり次第探すしかないかなぁ」
「のんびりしてたら爆発しちまうぜ⁉ もっと細かく先生に聞いた方が良かったんじゃねーの⁉」
「そんなこと言ったってあの聞き方だと限度があるよ。俺と蒼真を褒めてほしいくらいだね」
「確かにすごかったけど!」
「みんな黙って!」
二階に辿り着くと、肩で息をしながら金泉くんが言い放った。
僕らは一斉に黙り込む。
金泉くんは目を閉じて耳を澄ませた。
「……。……こっち! 時計の音がする!」
金泉くんが奥の教室を指差した。
うなずき、僕らはまた走り出す。
こんなに走ったのなんていつ振りだろう。去年の運動会振りかもしれない。
「ここっ……あ、くそ、鍵が閉まってる!」
「どいてー」
スライド式のドアをどうにか開けようとした金泉くんを、水野くんが押しのける。
彼はドアの前に立つと、一呼吸。
ぐっと手に力を入れると――ガコンッ!
ドアをスライドさせるんじゃなくて、前に押して、外した。
「えええええええ⁉」
「さすが玄斗、やるなぁ!」
「玄ちゃん、相変わらず馬鹿力すぎでしょ」
「いえーい」
めちゃくちゃなごり押しをした本人はドアを壁に立てかけると、まったりピースをした。
本人はこんなにゆるゆるしているのに、何だあの力。信じられない。
だけど悠長に驚いている時間もない。
急いで中に入ると、隅の方に黒くて四角いプラスチックの箱が見えた。
みんなで駆け寄る。どうやら箱に鍵はかかっていない。
天土くんがそうっと開ける。
……何だか、心臓が痛くなってきた。
「……これだね」
覗き込むと――映画などで見たものよりはずっとシンプルな筒や時計が中に詰め込まれていた。
だけど無機質すぎて、それがかえって僕の目には不気味に映る。
「どうだ⁉ 杏介、止められそうか?」
「ちょっと待って、あー……そうだな、作りはかなりシンプルだと思う。要は通電させないように回路を切ればいいワケだから」
「じゃあ……!」
僕らはホッと息をつく。
だけど天土くんは困ったように笑った。
「ただ……お約束の、アレだね。アレ」
「アレって? 杏ちゃん、もったいぶらないでよ」
天土くんは懐からソーイングセットを取り出した。
しれっとそんなものを取り出すなんて洒落ぶってるな、天土くん……。
ソーイングセットを日頃持ち歩いているって、どういう男子だよ……。
彼はそこから小さなハサミを手に取って、チョキンと宙を切る仕草をする。
そして、眉を下げた。
「赤と青のどっちを切ればいいんだ、ってやつ」
「……」
確かに映画や小説でよく見る展開、お約束だった。
三人が愕然とした表情になる。
「は? 待ってわかんないの?」
「多分作った先生にしかわからないよ」
「ウソだろ……! 戻って問い詰めてくるか⁉」
「えー、あの先生吐くかなぁ……ていうか、そんな行って戻る時間なんてないんじゃない?」
「うわー! 何でみんなでこっち来たんだよ! 誰か先生のところに残ってろよ!」
「杏ちゃんが急げって言ったから!」
「えっ、俺のせい⁉」
「でも少なくともボクと玄ちゃんは爆弾を見つけるのに必要だったもんね! 蘇芳ちゃんが残るべきだったじゃん!」
「そんなのケッカンだろ!」
「ケッカンって何ぃ?」
「『結果論』か、蘇芳?」
「それ!」
「も~~蘇芳ちゃんのボケなんてどうでもいいから! どうすんのマジで!」
一気に騒がしくなる。
こうしている間にも時計の針は刻々と進んでいるんだから焦りにも拍車がかかる。
僕も心臓の音が太鼓になったみたいに大きくなって身体が震えた。
どうしよう。どうすれば。
このままじゃ……。
(赤の導線と、青の導線……どちらかを切れば……)
赤か、青。わかるのは、作った池上先生のみ。
先生が作っているところを見ていれば、どちらかわかったかもしれないのに。
――あ。
パチンと目の前が弾けたような気がした。
「……赤、だ」
「え?」
四人が一斉に僕を見る。
僕は震える声で告げた。
「赤を切れば止まるよ」
「……蒼ちゃん? 何でわかんの?」
「見た。……ほら、池上先生が僕らに見せた、爆弾の図面。あそこに書いてた!」
見せられた時間は長くなかった。
だけどメガネをかけていない僕の目は、余すことなくそれらの情報を拾い上げていた。
だから――わかる。
回路とか原理とか難しい話はわからないけど、解除の方法もメモされていたから。
だから、わかる!
三人が驚いた顔をする。
そして天土くんは――彼にしては珍しい、どこか勝ち気な笑みを向けてきた。
「ははっ。蒼真、やっぱ君の目はサイコーだな!」
そうして。
彼は疑うことなく、――パチンと、赤の導線を切った。
