五感を研ぎ澄ませ! ~旧校舎で踊る火の玉事件~

 五人そろって理科準備室に駆け込む。
 池上先生は机でパソコンを開いていた。
 ノックもせずに入ってきた僕らに驚いたように目を向ける。

「何だ、君たち。天土たちと……木戸まで」

 池上先生は、椅子ごと身体をこちらに向けた。

「木戸はもしかして七不思議の件か? それとも……」
「そ、そうです! 七不思議の件について報告に来ました」

 僕が手をあげて答えると、池上先生は困ったように天土くんたちを見回した。
 ちなみに、当たり前だけどここに来るまでに水野くんの変装は解いている。

「天土や火和たちは? 話があるなら順番に聞くが……」
「あ、いえ。七不思議についてみんなにも手伝ってもらったんです。だからみんなと一緒に報告をしたくて……」
「……木戸が?」
「はい」
「こいつらと?」
「……はい」

 先生は驚いたように目を丸くした。
 ああ、「お前にそんな友だちいたのか」って顔だ、これ。
 まあ、僕だって自分で信じられないんだから仕方ない。

 ……というか、天土くんに言われるがままにここに来たけど、どうしたらいいんだ。
 まごついていると、天土くんが間に入ってくれた。

「先生。火の玉の正体、ご存知でしたね?」
「……おや」

 指摘された池上先生は、驚きも、言い訳もしなかった。
 ただ、目だけで続きをうながす。
 天土くんはもったいぶったようにコホンと咳払いをした。

「先生は今井くんと野崎くんが問題用紙を盗み、その証拠隠滅を企てていることを知りました。だけどなぜか先生はその場では咎めず、調査として木戸くんを送り込んだ。わざわざ七不思議を書き換えて、彼らの現場を押さえやすくしてね」
「なぜ?」
「さあ、その辺りの意図は僕にもつかみ損ねています。ただ……池上先生は特待生のことをあまり快く思っていないようでしたので、不正を行う者と不快な者をぶつけてひとまとめに処分できればいいと思ったのかもしれませんが。まあ、これは邪推が過ぎるかもしれませんね」

 天土くんは肩をすくめた。
 火和くんが「何だそれ!」と怒り出したのを、水野くんが羽交い締めで「邪推かもって言ってるし、一旦どうどう~」と押さえている。
 金泉くんはうるさそうに耳をふさいだ。
 池上先生の表情は変わらない。僕の目でも、まだ、あまり感情が読めない。

「まあ、確かにそこは大事なところではないな」
「ええ、僕もそう思います。それより……先生の一番の目的は、内部告発だったんじゃないですか?」

 池上先生の目が、ピクリと震えた。

「そもそもどうして彼らを咎めなかったのか、どうして企てに気づいたのか。……先生ははじめから彼らを怪しんで、マークしていたのでしょう」
「……なに?」
「そのパソコンの中に、リストがありますね。そこには今井くんや野崎くんの名前もある。他にも数名生徒の名前が。……この学校に不正入学した生徒たちです」
「⁉」

 僕らはギョッとして息をのんだ。
 動じていないのは、天土くんと池上先生だけだった。

「他人のパソコンを勝手に見るだなんて感心しないな」
「生徒会長として、情報セキュリティーにはもっと気をつけた方がいいですよと助言させていただきます。扉に細工がないか確認するのも怠らずに」
「肝に銘じておこう。……それで?」
「僕の推論はこうです。先生は何らかの理由でこの学校の不正に気づき、それを調べていた。調べた結果、該当の生徒をリスト化し、その生徒たちを見張っていた。不正で入ったのであれば授業に追いつけずシッポを出す生徒がいると踏んだのでしょう。そして実際に今井くんと野崎くんが、とうとうテストの問題用紙を盗むという行為に出た」

 池上先生は、黙って目を閉じて聞いている。

「先生はそれを告発しようとしたはずです。だけど体裁を気にした上はそれを認めず、逆に先生は辞職に追い込まれることとなった。……ざっくりとした流れはこんなところかなと思うのですが、どうです?」
「驚いた。まるで見られていたかのようだな」

 ようやく目を開いた先生は、椅子の背もたれにもたれかかった。
 全身の力が抜けていて、なんだかクラゲみたいだった。

「……だいたいその通りだ。……私には君たちと同じ歳の娘がいるんだがね、娘はこの学校に通うことを夢見て勉強をとても頑張っていたよ。……しかし、努力も空しく不合格になってしまった。……単に娘の努力不足なら仕方ない。だけどどう考えてもおかしな点があった。それで調べたんだ。結果、不正が見つかって、はらわたが煮え繰り返ったよ。……報われずひどく落ち込んだ娘は不登校になってしまった。もうずっと笑顔を見ていない。余計にやるせなかった」

 池上先生はにごった目で僕らを見回した。

「どうしてルールを守っている者が追いやられ、ルールを破った者がいい目を見る? 不条理だろう? 名門校と名高い虹代中学校でそれがまかり通っていいものか? いいはずがないだろう」

 池上先生は声を荒げず、淡々と話す。
 それがかえって彼の憎しみを際立たせていた。
 そうだ。池上先生の全身から迸るものは、学校や不正を行った者への強い憎しみだ。
 細かな表情や動きが情報の渦となって僕の目に飛び込んでくる。
 その渦はドス黒い感情を伴っていて、僕は眩暈がしそうだ。
 何だか落ち着かなくて、思わず口を開く。

「先生……。天土くんが対応してくれて、今井くんと野崎くんは、……反省、したと思います」
「そうか」
「……この後、どうするつもりなんですか? 本当に辞めちゃうんですか……?」

 はは、と乾いた笑い声が上がった。
 金泉くんみたいに耳が良くなくてもわかる、イヤな響きが絡まってこびりついたような声だった。

「辞めるさ。辞めるけど、黙って辞めるつもりはない」
「え……?」
「爆弾を仕掛けた」
「ば、」

 ――爆弾⁉