「蒼真! 大丈夫か⁉」
「ひ……火和くん⁉」
駆け寄ってきたのは、火和くんだった。
怯んだ二人を突き飛ばし、あっという間に僕を助けてくれる。
「ケガは⁉」
「だ、大丈夫……何で火和くんがここに?」
「良かったぁ……」
質問してるのに聞いてくれない。
だけど本当に安心したように、力の抜けた笑みをヘニャリと向けられてしまえば、僕だって強くは言えない。
いや、でも本当に何で火和くんが? ヒーローすぎんか?
流れ的に野球ボールを投げてライターを吹き飛ばしてくれたのも火和くんなんだろうけど、サッカーじゃなくて野球まで得意なの、本当に万能すぎんか?
「蘇芳ちゃん速すぎ……はあ。まあ、ケガする前に間に合って良かったけど」
遅れて顔を出したのは金泉くんだった。
「金泉くんまで……」
目を丸くした僕に、金泉くんは不敵に笑って彼自身の耳をトントンとつついた。
「蒼ちゃん、ボクの耳をなめないでよね」
「……聞いてたんだ?」
「フフン」
なるほど。金泉くんには二人を呼び出したときの会話が聞こえてたのか。
それで怪しいと思って、僕らを探しに来た、と。
……まいったなぁ。本当に頼もしい人たちだ。
今井くんと野崎くんが、苦い顔をする。
「何だよ。オレたち、ただ遊んでただけだぜ」
「そうだよ。別に悪いことしてた証拠なんて……」
言い逃れしようとする二人の前に、さらに二つの影。
って――。
「池上先生、彼らはこんなことを言ってますが。反省の色が見えないようですし、処分は重く見た方がいいのでは?」
「……そうだな。考えなければいけないようだ」
「げっ……せ、生徒会長」
「池上先生……ちが、違うんです。これは、その、えっと」
二人の顔が蒼白になる。
どうやら天土くんはこの場で最強のカード――「先生」を連れてきたようだった。
ちゃっかりしている。
もう言い逃れはできないと思ったのだろう。二人はその場に膝をついた。
僕はホッと息をつく。
……結局みんなの力を借りる形になってしまったのは、申し訳ないけれど。
「……くそ……何でオレたちだけこんな目に……」
「何だよ、木戸が変な目持ってんのは本当だろ……ズリィじゃねぇかよ……」
「……」
力なく二人はぼやいている。
僕はそんな二人から目をそらした。
だけど、代わりと言わんばかりに二人の前に立ったのは天土くんだ。
ニコリ。
彼は優美に微笑む。
顔が整いすぎたその笑顔は、不思議とすごい圧があった。
ヒッ、と二人も気圧されたように息を呑む。
「――もしかして、今井くんと野崎くんは国語が苦手かな?」
「は、はあっ⁉」
「そういう感情はね、『ズルい』じゃない。『羨ましい』と言いなさい」
「はああ⁉」
急な指摘に、二人は思わず声を荒げる。
天土くんは一切怯まなかった。むしろ笑みは深まる一方だ。
「おや、納得がいかないかい? 『ズルい』というのは国語辞典によれば『自分の利益のためにごまかして上手く立ち回るさま』だ。みんなより目がいいとて、木戸くんが何かをごまかしたり不正なことをしたかい? してないだろう。僕は彼の昔のことはよく知らないけれど、ドッジボールなんかも得意だったらしいね。でもそれって、足の速い子が追いかけっこが得意だっていうのとそんなに違うことかな? 足が速い子が追いかけっこをするのは『ズルい』? 歌が得意な子が歌を歌うのは? 手先が器用な子がかわいいヌイグルミを作るのは? みんな持てる力を持ってできることをやっているだけだろう? それなのにできないヤツもいるんだからもっと遅く走れ、下手に歌え、不器用に作れって言うのかい。そんなのは機会の損失だよ。嘆かわしい」
彼の言葉は止まらない。
立て板に水、というのは天土くんのためにある言葉かもしれない。
その板に油が塗りたくられている気さえする。
ツルツルだ。スケートリンクだ。
それから一呼吸。
彼は腕を組んで、わざとらしく、ほんの少し困ったように。
「こういう言い方は俗すぎてイヤだが仕方なくわかりやすく言うと、僕の家は――お金持ちだ」
「……は、はあ……?」
「何……? 急に自慢……?」
困惑する彼らを意に介さず、天土くんは続ける。
「そんな僕の父上の持論だけど、持てる者は積極的に使うべきだよ。金を持つ者が金を使わなくてどうする。経済を回さなくてどうする。その先に待つのは停滞じゃないか。……それを踏まえて聞くが、君たちは僕の家がお金持ちであることをズルいと糾弾したいかな」
二人が眉間のシワを深くして黙り込む。
ここでズルいと言うのは、どうにもみっともない気がしたのだろう。
「わかったかな。君たちはただ自分にはできないことができる相手が羨ましいんだろう。それを『ズルい』だなんて、そんなの、小さな子が喚いているのと変わらないよ」
「……でも」
「もちろん、能力があるからといって何でもかんでも好き勝手にやっていいワケじゃない。法やルールは犯してはいけない。だからもし本当にカンニングしていたならそれは非難されるべきだ」
厳かにうなずいた天土くんは、チラリと僕を見た。
それからまた二人に向き直る。
「……君たちは、本当に彼がしていたと思う?」
しばらくの沈黙。
二人は気まずそうにうつむいた。答えない。
だけど僕の目は……彼らの感情の機微を正確に捉えていた。
思っていない。
……本当は、カンニングしたなんて、思っていない。
ただ、カンニングしているということにした方が彼らにとって楽だったんだろう。
(……そっか)
それがわかっただけでも、僕が今メガネを外している意味があったのかもしれない。
そんなことを思って、息をついた。
天土くんも肩をすくめる。
それから、パン、と軽やかに手を叩いた。
「さて、話が長くなったね。処分については後ほど話があるだろうから、今日のところは大人しく帰るといい。くれぐれも変な気を起こさないこと」
生徒会長の言葉は先ほどと違って端的だ。
だからこそ、もう言い訳もできないのだと感じさせる。
すっかり沈痛な表情をしていた二人はどうにか立ち上がり、頭を下げた。
「……わかり、ました」
「すいませんでした……」
「……木戸も、悪かった」
「あ、うん……」
いいよ、なんて言えないけど。
これ以上怒る気にもなれなかった。
天土くんが好き放題言ってくれたおかげかな。
「あ、そうそう。君たちに一つ確認したいことがあるんだけど」
「え……?」
「ここで燃やしたのって、何回かな?」
天土くんの思いがけない質問に、二人は戸惑ったように顔を見合わせた。
「えっと……二回です。一回目は先々週、試しに白紙で……」
問題用紙を盗む前に、証拠隠滅が可能か、燃え具合などを試したかったのだという。
この時点でバレるようなら「火遊びがしたかった」などとごまかし、作戦を練り直すつもりだったそうだ。
それなら少なくとも、問題用紙の盗難よりは緩やかな処分で済む。
「そう。ありがとね」
答えを聞いた天土くんはニッコリと笑い、彼らに手を振る。
彼らは今度こそ旧校舎を後にした。
ここに残っているのは、僕と天土くん、火和くん、金泉くん、そして……。
「あの、池上先生……」
「ソーマくん、おれだよ」
「……え?」
天土くんに任せて黙り込んでいた池上先生から、明らかに池上先生じゃない声がした。
混乱する。
「おれおれぇ」
そんな、オレオレ詐欺みたいな言い方されても。
この、場の空気を一瞬でまったりさせそうなやわらかい声音は、もしかして。
「水野、くん?」
「せいかーい」
「ええええええっ⁉」
どこからどう見ても池上先生なんだけど⁉
そういえば水野くんは変装が得意って……ええええええ⁉
こ、ここまで⁉
「ぷはっ、蒼ちゃんの顔! ウケる!」
「いやだって、全然わかんなかったよ! 水野くんだけいないなとは思ったけど!」
「あはー。あいつらがどこまで暴れるかわかんなかったからさ。先生がいた方が場を落ち着けるだろうって、キョーくんが考えたんだよねぇ」
「名案だったろ?」
「ほんとだねー。一瞬で大人しくなっちゃった」
「あぁー……玄斗だって知ってんのに、オレも先生ににらまれてるみたいでソワソワするぜ」
「『火和、また赤点を取ったのか。スポーツ特待生といっても限度があるし、私もこれ以上は庇いきれんぞ』」
「あっはっは! 似てる!」
「やーめーろー!」
水野くんが池上先生のモノマネをして、金泉くんがケラケラ笑って、火和くんが喚いて。
すっかり平和で明るい空気だ。
いつだって彼らの周りはキラキラしている。
……その輝きに当てられて、僕はスルスルと全身の力が抜けてきた。
「あの……みんな。勝手なことをしてごめん。助けてくれて、ありがとう……」
ゆっくりと頭を下げると、その頭をポン、とやわらかく叩かれた。
その手は天土くんのものだ。
「どういたしまして……と言いたいところだけど、まだだ。もう少し蒼真には付き合ってもらうよ」
「え?」
「言ったろ、火の玉事件を解決するって」
……ん?
混乱する。確かに言っていたし、だから僕も食券をもらって調べるのに協力していたワケだけど。
それこそ、今、解決したばかりじゃないか?
「火の玉の正体は、今井くんと野崎くんが盗んだ問題用紙を燃やしたことだったね」
「うん……」
「で、燃やしたのは、二回。その内一回は俺らが目撃した」
「そうだね……?」
「その時点で蒼真は七不思議としての火の玉を知っていた。ということは、最初の一回を目撃して、それを七不思議に組み込んだ人がいる」
「……あ」
「ただ、本来の七不思議は『旧校舎を走り回る人体模型』。これは真白にも生徒に聞いて回ってもらったから確かだね。火の玉を知っている人なんていなくて、みんな人体模型の方を答えたってさ」
ペラペラと話していた天土くんは一旦一息つくと、意味深に僕に目を向けた。
「じゃあ――本来の七不思議を火の玉に上書きしたのは、誰だ?」
僕は、渡されたメモを思い出す。
特徴的な角張った字で書かれた、七つ並んだ不思議。
なぜだか心臓がうるさく鳴り始める。
「『私だね』」
場の空気なんて全く気にした様子もなく、変装した水野くんが、茶化すように己の顔を指差した。
「ひ……火和くん⁉」
駆け寄ってきたのは、火和くんだった。
怯んだ二人を突き飛ばし、あっという間に僕を助けてくれる。
「ケガは⁉」
「だ、大丈夫……何で火和くんがここに?」
「良かったぁ……」
質問してるのに聞いてくれない。
だけど本当に安心したように、力の抜けた笑みをヘニャリと向けられてしまえば、僕だって強くは言えない。
いや、でも本当に何で火和くんが? ヒーローすぎんか?
流れ的に野球ボールを投げてライターを吹き飛ばしてくれたのも火和くんなんだろうけど、サッカーじゃなくて野球まで得意なの、本当に万能すぎんか?
「蘇芳ちゃん速すぎ……はあ。まあ、ケガする前に間に合って良かったけど」
遅れて顔を出したのは金泉くんだった。
「金泉くんまで……」
目を丸くした僕に、金泉くんは不敵に笑って彼自身の耳をトントンとつついた。
「蒼ちゃん、ボクの耳をなめないでよね」
「……聞いてたんだ?」
「フフン」
なるほど。金泉くんには二人を呼び出したときの会話が聞こえてたのか。
それで怪しいと思って、僕らを探しに来た、と。
……まいったなぁ。本当に頼もしい人たちだ。
今井くんと野崎くんが、苦い顔をする。
「何だよ。オレたち、ただ遊んでただけだぜ」
「そうだよ。別に悪いことしてた証拠なんて……」
言い逃れしようとする二人の前に、さらに二つの影。
って――。
「池上先生、彼らはこんなことを言ってますが。反省の色が見えないようですし、処分は重く見た方がいいのでは?」
「……そうだな。考えなければいけないようだ」
「げっ……せ、生徒会長」
「池上先生……ちが、違うんです。これは、その、えっと」
二人の顔が蒼白になる。
どうやら天土くんはこの場で最強のカード――「先生」を連れてきたようだった。
ちゃっかりしている。
もう言い逃れはできないと思ったのだろう。二人はその場に膝をついた。
僕はホッと息をつく。
……結局みんなの力を借りる形になってしまったのは、申し訳ないけれど。
「……くそ……何でオレたちだけこんな目に……」
「何だよ、木戸が変な目持ってんのは本当だろ……ズリィじゃねぇかよ……」
「……」
力なく二人はぼやいている。
僕はそんな二人から目をそらした。
だけど、代わりと言わんばかりに二人の前に立ったのは天土くんだ。
ニコリ。
彼は優美に微笑む。
顔が整いすぎたその笑顔は、不思議とすごい圧があった。
ヒッ、と二人も気圧されたように息を呑む。
「――もしかして、今井くんと野崎くんは国語が苦手かな?」
「は、はあっ⁉」
「そういう感情はね、『ズルい』じゃない。『羨ましい』と言いなさい」
「はああ⁉」
急な指摘に、二人は思わず声を荒げる。
天土くんは一切怯まなかった。むしろ笑みは深まる一方だ。
「おや、納得がいかないかい? 『ズルい』というのは国語辞典によれば『自分の利益のためにごまかして上手く立ち回るさま』だ。みんなより目がいいとて、木戸くんが何かをごまかしたり不正なことをしたかい? してないだろう。僕は彼の昔のことはよく知らないけれど、ドッジボールなんかも得意だったらしいね。でもそれって、足の速い子が追いかけっこが得意だっていうのとそんなに違うことかな? 足が速い子が追いかけっこをするのは『ズルい』? 歌が得意な子が歌を歌うのは? 手先が器用な子がかわいいヌイグルミを作るのは? みんな持てる力を持ってできることをやっているだけだろう? それなのにできないヤツもいるんだからもっと遅く走れ、下手に歌え、不器用に作れって言うのかい。そんなのは機会の損失だよ。嘆かわしい」
彼の言葉は止まらない。
立て板に水、というのは天土くんのためにある言葉かもしれない。
その板に油が塗りたくられている気さえする。
ツルツルだ。スケートリンクだ。
それから一呼吸。
彼は腕を組んで、わざとらしく、ほんの少し困ったように。
「こういう言い方は俗すぎてイヤだが仕方なくわかりやすく言うと、僕の家は――お金持ちだ」
「……は、はあ……?」
「何……? 急に自慢……?」
困惑する彼らを意に介さず、天土くんは続ける。
「そんな僕の父上の持論だけど、持てる者は積極的に使うべきだよ。金を持つ者が金を使わなくてどうする。経済を回さなくてどうする。その先に待つのは停滞じゃないか。……それを踏まえて聞くが、君たちは僕の家がお金持ちであることをズルいと糾弾したいかな」
二人が眉間のシワを深くして黙り込む。
ここでズルいと言うのは、どうにもみっともない気がしたのだろう。
「わかったかな。君たちはただ自分にはできないことができる相手が羨ましいんだろう。それを『ズルい』だなんて、そんなの、小さな子が喚いているのと変わらないよ」
「……でも」
「もちろん、能力があるからといって何でもかんでも好き勝手にやっていいワケじゃない。法やルールは犯してはいけない。だからもし本当にカンニングしていたならそれは非難されるべきだ」
厳かにうなずいた天土くんは、チラリと僕を見た。
それからまた二人に向き直る。
「……君たちは、本当に彼がしていたと思う?」
しばらくの沈黙。
二人は気まずそうにうつむいた。答えない。
だけど僕の目は……彼らの感情の機微を正確に捉えていた。
思っていない。
……本当は、カンニングしたなんて、思っていない。
ただ、カンニングしているということにした方が彼らにとって楽だったんだろう。
(……そっか)
それがわかっただけでも、僕が今メガネを外している意味があったのかもしれない。
そんなことを思って、息をついた。
天土くんも肩をすくめる。
それから、パン、と軽やかに手を叩いた。
「さて、話が長くなったね。処分については後ほど話があるだろうから、今日のところは大人しく帰るといい。くれぐれも変な気を起こさないこと」
生徒会長の言葉は先ほどと違って端的だ。
だからこそ、もう言い訳もできないのだと感じさせる。
すっかり沈痛な表情をしていた二人はどうにか立ち上がり、頭を下げた。
「……わかり、ました」
「すいませんでした……」
「……木戸も、悪かった」
「あ、うん……」
いいよ、なんて言えないけど。
これ以上怒る気にもなれなかった。
天土くんが好き放題言ってくれたおかげかな。
「あ、そうそう。君たちに一つ確認したいことがあるんだけど」
「え……?」
「ここで燃やしたのって、何回かな?」
天土くんの思いがけない質問に、二人は戸惑ったように顔を見合わせた。
「えっと……二回です。一回目は先々週、試しに白紙で……」
問題用紙を盗む前に、証拠隠滅が可能か、燃え具合などを試したかったのだという。
この時点でバレるようなら「火遊びがしたかった」などとごまかし、作戦を練り直すつもりだったそうだ。
それなら少なくとも、問題用紙の盗難よりは緩やかな処分で済む。
「そう。ありがとね」
答えを聞いた天土くんはニッコリと笑い、彼らに手を振る。
彼らは今度こそ旧校舎を後にした。
ここに残っているのは、僕と天土くん、火和くん、金泉くん、そして……。
「あの、池上先生……」
「ソーマくん、おれだよ」
「……え?」
天土くんに任せて黙り込んでいた池上先生から、明らかに池上先生じゃない声がした。
混乱する。
「おれおれぇ」
そんな、オレオレ詐欺みたいな言い方されても。
この、場の空気を一瞬でまったりさせそうなやわらかい声音は、もしかして。
「水野、くん?」
「せいかーい」
「ええええええっ⁉」
どこからどう見ても池上先生なんだけど⁉
そういえば水野くんは変装が得意って……ええええええ⁉
こ、ここまで⁉
「ぷはっ、蒼ちゃんの顔! ウケる!」
「いやだって、全然わかんなかったよ! 水野くんだけいないなとは思ったけど!」
「あはー。あいつらがどこまで暴れるかわかんなかったからさ。先生がいた方が場を落ち着けるだろうって、キョーくんが考えたんだよねぇ」
「名案だったろ?」
「ほんとだねー。一瞬で大人しくなっちゃった」
「あぁー……玄斗だって知ってんのに、オレも先生ににらまれてるみたいでソワソワするぜ」
「『火和、また赤点を取ったのか。スポーツ特待生といっても限度があるし、私もこれ以上は庇いきれんぞ』」
「あっはっは! 似てる!」
「やーめーろー!」
水野くんが池上先生のモノマネをして、金泉くんがケラケラ笑って、火和くんが喚いて。
すっかり平和で明るい空気だ。
いつだって彼らの周りはキラキラしている。
……その輝きに当てられて、僕はスルスルと全身の力が抜けてきた。
「あの……みんな。勝手なことをしてごめん。助けてくれて、ありがとう……」
ゆっくりと頭を下げると、その頭をポン、とやわらかく叩かれた。
その手は天土くんのものだ。
「どういたしまして……と言いたいところだけど、まだだ。もう少し蒼真には付き合ってもらうよ」
「え?」
「言ったろ、火の玉事件を解決するって」
……ん?
混乱する。確かに言っていたし、だから僕も食券をもらって調べるのに協力していたワケだけど。
それこそ、今、解決したばかりじゃないか?
「火の玉の正体は、今井くんと野崎くんが盗んだ問題用紙を燃やしたことだったね」
「うん……」
「で、燃やしたのは、二回。その内一回は俺らが目撃した」
「そうだね……?」
「その時点で蒼真は七不思議としての火の玉を知っていた。ということは、最初の一回を目撃して、それを七不思議に組み込んだ人がいる」
「……あ」
「ただ、本来の七不思議は『旧校舎を走り回る人体模型』。これは真白にも生徒に聞いて回ってもらったから確かだね。火の玉を知っている人なんていなくて、みんな人体模型の方を答えたってさ」
ペラペラと話していた天土くんは一旦一息つくと、意味深に僕に目を向けた。
「じゃあ――本来の七不思議を火の玉に上書きしたのは、誰だ?」
僕は、渡されたメモを思い出す。
特徴的な角張った字で書かれた、七つ並んだ不思議。
なぜだか心臓がうるさく鳴り始める。
「『私だね』」
場の空気なんて全く気にした様子もなく、変装した水野くんが、茶化すように己の顔を指差した。
