そして、放課後。
誰もいない旧校舎裏に、僕は一人立っていた。
例の火の玉があった場所だ。
まだ明るいとはいえ、一人でいるとさすがに少し気味が悪い。
早く来ないかなという気持ちが半分、いっそ来ないでくれという気持ちが半分。
落ち着かなくて、ため息をつく。
夕暮れのオレンジ色が目に眩しい。
深呼吸をして――メガネを胸ポケットにしまう。
一層夕焼けが眩しくて、思わず目を細めた。
「木戸?」
「何だよ、こんなところに呼び出して」
「!」
やって来た二つの声に、僕はビクッと肩を跳ねさせた。
ダルそうな足取りでこちらにやって来たのは、
「今井くん、野崎くん」
そう。クラスメイトの二人だった。
心臓がドキドキしてくる。緊張で息が苦しくなる。
僕は胸の前でギュッとこぶしを握った。
勇気を出して――口を開く。
「……テストの問題用紙を盗んだのは、君たち?」
サァ、と風が吹き抜ける。
二人が目を見開くのが見えた。
「……はあ? 何ソレ」
「あっ、成績が抜かれたから言いがかりか? 木戸ってそんなヤツだったのかよ」
僕の鋭い目は、相手の顔色をつぶさに見て逃さない。
血の気が引いているし、呼吸が浅くなっているのも見て取れる。
明らかに焦っている。
心の奥がズシリと重たくなる。
……小学校からの付き合いだし、たまにとはいえ僕に話しかけてくれる人たちだから、彼らが犯人だなんて信じたくなかった。
せめて天土くんたちに気づかれる前に、どうにか説得したかった。
「……成績だけなら、二人が頑張っただけかもしれない」
「かも、とか失礼だな!」
「オレたちずーっと勉強してたっての!」
詰め寄られて、息をのむ。
正直、怖い。だけどまだ話は終わっていない。
「君たちが盗んだのは問題用紙で、答えが書いてある紙ではなかったんだよね。もしかするとそれはデータにしか残っていなかったのかな? ともかく、盗んだものの、答えは自分たちで埋めてみないといけなかった。だけどどうしてもわからない問題があって、僕に聞いたんだよね」
彼らが僕に聞いた問題と、全く同じ問題がテストに出た。
テストを解いたときはすごい偶然だと思っていたけど、事前に問題を知っていたなら、当たり前だ。
「は、はあ? そんな偶然で決めつけるなんて、頭おかしいんじゃねーの?」
「だいたいこんなところに呼び出してさぁ、あれか? 火の玉とかいう……勝手に調べてろよ。オレたちまでこんなところに呼ぶなんて趣味悪いんじゃねぇの」
「そう。それ」
「あ?」
真っ直ぐと二人を見つめる。
「僕が火の玉のウワサを調べていることを知ってるのは、君たちだけなんだ」
正確には、頼んできた池上先生と、一緒に調べている天土くんたちもだけど。
逆に言うと、僕は彼ら以外とその話をしていない。
もし知る機会があったとすれば――テスト前に池上先生と話しているのを聞いたときだ。
あのとき、この二人は少し離れた、でも十分に会話が聞こえる位置にいた。
「僕と池上先生の話を聞いた君たちは、問題用紙を燃やしている瞬間を見られたことを知って焦ったんだ。それで調べるのをやめさせようと、生卵や植木鉢のイヤがらせをした……。それができるのは君たちだけなんだよ」
「――っ、くそ!」
「できれば、君たちから先生に本当のことを言って……」
「うるせえ!」
「⁉」
野崎くんに羽交い締めにされる。
僕の目はそうしようとする彼が見えていたのに、悔しいことに気持ちと身体が追いつかずに避けられなかった。
振り払おうとしたけど、力が強くて思うように動けない。
今井くんがポケットからライターを取り出した。
このライターで問題用紙を燃やしたんだろうか。
だけどそれを、今、どうする気だ?
「証拠はないんだ。お前が黙っていればそれで済む」
「……でも! こんなこといつまでも続けられるワケないだろ……! だいたい、どうしてこんなことしたんだ……!」
「虹代中に入れたってのに、成績を落とすワケにはいかないんだよ。お前だってその気持ちはわかるだろ」
「こんなことがバレたら、親に何て言われるか……」
成績を落としたくない。そりゃあ僕だってそうだ。
僕は特待生という立場だって手放すわけにはいかない。
親の期待に応えなければというプレッシャーも、わからなくはない。
だけど。
僕はそのために必死に勉強したし、不正しようなんて思ったことはない。
一緒にするな……!
「ちっ、何だよその目。こうなったら力ずくだ。とりあえず服と髪を燃やす」
「その写真をバラまかれるのがイヤなら黙ってろよ。な?」
「!」
野崎くんの拘束が痛いほど強くなる。
今井くんはギラついた目で僕を見ていた。
この目は本気だ。
僕の目は、それをイヤというほどわからせてくる。
「は、はなせ……!」
がむしゃらに暴れる。
だけど無情にもライターの火が近づいてくる。
熱が頬をチリチリとなぶった。
ふいに、ニタリと今井くんが不気味に笑った。
「それにオレ、聞いたことあるぜ」
「何を……」
「お前だって小学校でカンニングしてたんだろ? なあ、同じじゃないか。なんなら次はお前も仲間に入れてやるよ。悪い話じゃないだろ」
「――っ!」
誰もいない旧校舎裏に、僕は一人立っていた。
例の火の玉があった場所だ。
まだ明るいとはいえ、一人でいるとさすがに少し気味が悪い。
早く来ないかなという気持ちが半分、いっそ来ないでくれという気持ちが半分。
落ち着かなくて、ため息をつく。
夕暮れのオレンジ色が目に眩しい。
深呼吸をして――メガネを胸ポケットにしまう。
一層夕焼けが眩しくて、思わず目を細めた。
「木戸?」
「何だよ、こんなところに呼び出して」
「!」
やって来た二つの声に、僕はビクッと肩を跳ねさせた。
ダルそうな足取りでこちらにやって来たのは、
「今井くん、野崎くん」
そう。クラスメイトの二人だった。
心臓がドキドキしてくる。緊張で息が苦しくなる。
僕は胸の前でギュッとこぶしを握った。
勇気を出して――口を開く。
「……テストの問題用紙を盗んだのは、君たち?」
サァ、と風が吹き抜ける。
二人が目を見開くのが見えた。
「……はあ? 何ソレ」
「あっ、成績が抜かれたから言いがかりか? 木戸ってそんなヤツだったのかよ」
僕の鋭い目は、相手の顔色をつぶさに見て逃さない。
血の気が引いているし、呼吸が浅くなっているのも見て取れる。
明らかに焦っている。
心の奥がズシリと重たくなる。
……小学校からの付き合いだし、たまにとはいえ僕に話しかけてくれる人たちだから、彼らが犯人だなんて信じたくなかった。
せめて天土くんたちに気づかれる前に、どうにか説得したかった。
「……成績だけなら、二人が頑張っただけかもしれない」
「かも、とか失礼だな!」
「オレたちずーっと勉強してたっての!」
詰め寄られて、息をのむ。
正直、怖い。だけどまだ話は終わっていない。
「君たちが盗んだのは問題用紙で、答えが書いてある紙ではなかったんだよね。もしかするとそれはデータにしか残っていなかったのかな? ともかく、盗んだものの、答えは自分たちで埋めてみないといけなかった。だけどどうしてもわからない問題があって、僕に聞いたんだよね」
彼らが僕に聞いた問題と、全く同じ問題がテストに出た。
テストを解いたときはすごい偶然だと思っていたけど、事前に問題を知っていたなら、当たり前だ。
「は、はあ? そんな偶然で決めつけるなんて、頭おかしいんじゃねーの?」
「だいたいこんなところに呼び出してさぁ、あれか? 火の玉とかいう……勝手に調べてろよ。オレたちまでこんなところに呼ぶなんて趣味悪いんじゃねぇの」
「そう。それ」
「あ?」
真っ直ぐと二人を見つめる。
「僕が火の玉のウワサを調べていることを知ってるのは、君たちだけなんだ」
正確には、頼んできた池上先生と、一緒に調べている天土くんたちもだけど。
逆に言うと、僕は彼ら以外とその話をしていない。
もし知る機会があったとすれば――テスト前に池上先生と話しているのを聞いたときだ。
あのとき、この二人は少し離れた、でも十分に会話が聞こえる位置にいた。
「僕と池上先生の話を聞いた君たちは、問題用紙を燃やしている瞬間を見られたことを知って焦ったんだ。それで調べるのをやめさせようと、生卵や植木鉢のイヤがらせをした……。それができるのは君たちだけなんだよ」
「――っ、くそ!」
「できれば、君たちから先生に本当のことを言って……」
「うるせえ!」
「⁉」
野崎くんに羽交い締めにされる。
僕の目はそうしようとする彼が見えていたのに、悔しいことに気持ちと身体が追いつかずに避けられなかった。
振り払おうとしたけど、力が強くて思うように動けない。
今井くんがポケットからライターを取り出した。
このライターで問題用紙を燃やしたんだろうか。
だけどそれを、今、どうする気だ?
「証拠はないんだ。お前が黙っていればそれで済む」
「……でも! こんなこといつまでも続けられるワケないだろ……! だいたい、どうしてこんなことしたんだ……!」
「虹代中に入れたってのに、成績を落とすワケにはいかないんだよ。お前だってその気持ちはわかるだろ」
「こんなことがバレたら、親に何て言われるか……」
成績を落としたくない。そりゃあ僕だってそうだ。
僕は特待生という立場だって手放すわけにはいかない。
親の期待に応えなければというプレッシャーも、わからなくはない。
だけど。
僕はそのために必死に勉強したし、不正しようなんて思ったことはない。
一緒にするな……!
「ちっ、何だよその目。こうなったら力ずくだ。とりあえず服と髪を燃やす」
「その写真をバラまかれるのがイヤなら黙ってろよ。な?」
「!」
野崎くんの拘束が痛いほど強くなる。
今井くんはギラついた目で僕を見ていた。
この目は本気だ。
僕の目は、それをイヤというほどわからせてくる。
「は、はなせ……!」
がむしゃらに暴れる。
だけど無情にもライターの火が近づいてくる。
熱が頬をチリチリとなぶった。
ふいに、ニタリと今井くんが不気味に笑った。
「それにオレ、聞いたことあるぜ」
「何を……」
「お前だって小学校でカンニングしてたんだろ? なあ、同じじゃないか。なんなら次はお前も仲間に入れてやるよ。悪い話じゃないだろ」
「――っ!」
