「蘇芳ちゃんがそう言ったの? じゃあ何かあるかもね」
放課後、運動部の助っ人に出かけていった火和くんと(渋々)交代した金泉くんはあっさりとそう言った。
彼はあまりこっちを見ない。
最初に会ったときからだけど、どうにも嫌われているらしくて少しへこむ。
まあ、クラスでも浮いている僕だから、他人から嫌われるなんて今さらなんだけど……。
ちなみに今は、先生から頼まれた資料運びの最中だ。
理科準備室に資料を置いてきてほしいということらしい。
別に僕の仕事というワケではないんだけど、時々すれ違いざまにこうやって雑用を頼まれる。
多分僕は何かと頼みやすいオーラを出しているんだろう。気弱そうとも言う。
そんなわけで僕の両手はずっしりとした紙の束に塞がれている。
そして「運び終えれば寮に戻るだけだから大丈夫だよ」って火和くんには言ったんだけど、心配した火和くんが金泉くんを呼んで今に至るのだ。
金泉くんは「側にいるだけだからね」って資料運びを手伝う気はなく、本当にただ僕の近くを歩いている。
……でも、植木鉢から助けてくれたのは金泉くんなんだよな。
とっさだったんだろうけど、根が悪い子とは思えない。
「えっと……金泉くん」
「何、木戸クン」
わ、わあ。金泉くんはみんなを下の名前と「ちゃん」付けで呼ぶのに、僕のことは頑なに苗字で「クン」だ。
こうもあからさまに線引きされると緊張する。
「何か、っていうのは、一体……」
「さあ。わかんないから『何か』なんでしょ」
「おっしゃるとおりで……」
そして、沈黙。
何だか耐えられなくて、僕は無謀にもまた口を開いてしまう。
「な、なんか、ごめんなさい」
「何が?」
険のある声にドキドキする。
「多分イヤな気持ちにさせた、から……?」
縮こまって答えると、金泉くんは「はあ」とわざとらしくため息をついた。
ずいぶんとイヤそうな「はあ」だった。
「わかんないのに謝んないでよ」
「す、すいません」
「蘇芳ちゃんはバカだけど鼻が利くんだよ。単に嗅覚が鋭いってだけじゃなくて、隠し事とかウソみたいな悪いことにも勘が働くの。肝心の本人が一番よくわかってないけどね」
「……」
「何、その顔」
「あ、いや、何でも」
ツンケンしてるけど、なんやかんや結局教えてくれる。
やっぱり悪い子ではないんだろうな、なんて思えてしまって、口元がほころんだ。
いけない、いけない。
そもそも同い年の男の子に対して「悪い『子』じゃない」なんて考えてしまうこと自体、きっと彼にとっては不本意だろう。
だけど何となく、「自分より年下の生意気な男の子」というイメージが拭えないんだよなぁ……。
ふいにすれ違った女子が真白くんを見て顔を輝かせた。
「真白くんだー。今日も可愛いね」
「ボクが可愛くない日なんてないんですけど」
「キャーッ」
冷たくあしらわれたのに、女子は嬉しそうな高い声を上げて走り去っていく。
それから他にも。
「真白ちゃん! 飴あげる」
「いらない。知らない人から貰ったものなんて怖くて食べれないし」
「キャアッ」
「あっ、真白様! 握手してくれ!」
「ばっちいからヤダ」
「あぁっ」
「真白きゅん、今度オレと一緒にゲームしませんか!」
「下手がうつるからイヤ」
「はあぁ!」
……女子も男子も、何かと金泉くんに話しかけては、素っ気なく返され、感極まったような悲鳴を上げて倒れていく。
とても満足そうに。
そんなみんなを、金泉くんは迷惑そうな顔で見て、時折うるさそうに耳をふさぐ……ということが、この短い間に何度も行われていた。
金泉くんの人気はまたちょっと特殊というか、濃いというか……。
人気者は人気者で大変なんだな……。
みんな金泉くんに滅多打ちにされているから、僕のことにまで気が回らないみたいで、それは助かるんだけど……。
そんな道中を経て、準備室のドアの前で一度資料を床に置く。
僕は両手が塞がっているけど、金泉くんがドアを開けてくれる気配はないからだ。
うん、「側にいるだけ」だからね。別に僕としても文句はない。
ドアを開けると、埃っぽさが鼻についた。
「けほっ……」
これ、火和くんだったらしんどかったかもな。
軽く咳き込みながら、拾い直した資料をしっかり机の上に置く。
机の上には家族写真が飾られていた。
池上先生と奥さん、それから娘さん。
いつの写真かわからないけど、白髪じゃないから数年前だろう。
もしかすると娘さんは僕と同い年くらいなのかもしれない。
――よし、これで仕事完了、っと。
「ありがとう、金泉くん。帰ろうか……って、何してるの?」
「杏ちゃんからの頼まれごと」
金泉くんは何やらドアに細工をしているようだった。
ええ……怒られても知らないぞ……?
仕方なく、終わるまで手持ち無沙汰にまた周りを見る。
壁にかけられたカレンダーに書き込みがあった。次回小テスト。
そういえば、「こないだ定期テストが終わったばかりなのに!」って、軽いブーイングが出てたっけ。
「次のテストはもっとがんばらないとなぁ……」
「次……」
「金泉くん?」
振り返ると、金泉くんは何やら妙な顔をして固まっていた。
呼びかけても返事がない。
顔の前で手を振れば、やっと目の焦点が合う。
「だ、大丈夫?」
「蘇芳ちゃんは順位表を見て臭うって言ったんだよね?」
「え? そう、だけど……」
「ボク、気づいちゃったかも」
高揚しているのか、金泉くんの声がわずかに高くなった。
「燃やしたのは、赤点のテスト用紙じゃない。今回のテストの問題用紙だったんじゃない?」
「――え?」
一瞬何を言っているのかわからなくて、間の抜けた声を上げてしまった。
改めて金泉くんの言葉を思い返し、自分の中で整理する。
過去の、悪い点を取ってしまった犯人自身のテストの解答用紙ではなくて。
燃やした時点では未来のテストの、問題用紙、だった……?
だけど本来そんなものは手に入らない。
盗みでもしない限り。
「って、それって、不正……!」
思わず大きな声が出て、金泉くんに「しっ」と人差し指を立てられる。
彼は小声で続けた。
「そう。だから燃やしたんだ。証拠隠滅のために」
確かに捨てるだけでは心許ないかもしれない。赤点とは重大さが違う。
そんなまさか、という気持ちと、もしかして、という気持ちがせめぎ合う。
ただ、検討する余地があるのは揺るぎない。
「……可能性はあるかも……すごいよ金泉くん」
「フフン、まあね!」
ニッと今日一番の無邪気な笑みを浮かべた彼は――ハッとして僕から距離を取った。
顔を背ける。
「木戸クンも頭いいなら、それくらい思いついてくれないと話になんないよ」
「あはは……ごめん。不正なんて考えたことなかったから」
「クソ真面目~」
「そうかも」
話しながら準備室を出ると、金泉くんは大人しくついてきた。
むぅと口を尖らせているけれど。また怒らせてしまったかな。
でもさっきの無邪気な顔を思い出すと、僕は話しやすい気持ちになってくる。
「金泉くんも真面目だよね。あ、もちろんいい意味でだよ」
「はあ?」
「こうやって僕のことを助けてくれてるし……改めてだけど、植木鉢のこともありがとう。金泉くんのおかげでケガしなくて済んだよ。それにピアノも上手って聞いたし、それって金泉くんが真面目に努力したからじゃない?」
思いつくままに言うと、金泉くんは変な顔になった。
「アレは気づいたから言っただけだし……。ピアノだって……別に、好きに弾いてただけだし」
「たくさん弾いてるんじゃないの?」
「そりゃあ、回数としては、まあ……」
「じゃあやっぱり努力家だよ。苦しむだけが努力じゃないと思うし」
目標に向かってしっかり励んでいるなら、楽しくても苦しくても努力なはずだ。
僕も受験勉強は死に物狂いだったけど、普段の勉強は半分くらい趣味みたいなものでもあった。
趣味らしい趣味ができる金銭的余裕が家になくて、図書館にこもっていることがしょっちゅうだったからだ。
立派な仕事につくんだっていう目標がやる気を後押ししてくれていたし。
「……」
金泉くんは「むぅ……」とますます口を尖らせた。
どうしよう。僕はまた何か余計なことを言ってしまったんだろうか。
彼の地雷がわからない。
「……木戸クンって変だよね」
「え、へ、変?」
「変だよ。だいたいみんなボクのこと、生意気すぎてイヤがるか、すっごくよろこぶかなのに」
前者はともかく、後者は特殊な人たちじゃないのか。
校内だと後者の方が多そうではあったけど。
「木戸クン、怒らないし、褒めてくるし……」
「うーん……思ったことを言っただけなんだけど……」
「……ふーん……」
気まずい空気のまま寮の部屋につく。
なんだか妙にホッとした。
「金泉くん、本当にありがとう。それじゃあ……」
「疲れた」
「え?」
「疲れたから部屋で休ませて」
「ええっ?」
呆気に取られている内に彼はズンズンと中に入っていく。
僕は慌ててその後に続いた。
僕のために放課後の貴重な時間を使ってくれたんだし、邪険に扱うわけにはいかない。
でも、金泉くんだって気に食わないヤツなんかの部屋にいるより、早く帰りたいんじゃないのか……?
金泉くんは遠慮なくベッドに座る。
向かい合う形で、僕は床に座るしかない。
「フゥン。片付いてんね」
「部屋にいても勉強くらいしかしないから……」
「うわ、参考書の数、何? すご、棚いっぱいじゃん」
「特待生だと参考書を買うときに助成があって助かるんだ」
使えるものは使わないと。参考書しかり、天土くんからもらえる食券しかり。
ケチと罵るなら罵ればいい。気前じゃ僕の腹は膨れないのだ。
とはいえ金泉くんの言葉は時々鋭いから、本当に罵られたらちょっと怖いかも……。
ビクビクしていると、金泉くんが気まずそうな顔で僕を見つめてきた。
何でもスパスパ言う彼にしては珍しく歯切れが悪そうに。
「……あのさあ」
「は、はい」
「別にキライとかじゃないから」
……はい?
放課後、運動部の助っ人に出かけていった火和くんと(渋々)交代した金泉くんはあっさりとそう言った。
彼はあまりこっちを見ない。
最初に会ったときからだけど、どうにも嫌われているらしくて少しへこむ。
まあ、クラスでも浮いている僕だから、他人から嫌われるなんて今さらなんだけど……。
ちなみに今は、先生から頼まれた資料運びの最中だ。
理科準備室に資料を置いてきてほしいということらしい。
別に僕の仕事というワケではないんだけど、時々すれ違いざまにこうやって雑用を頼まれる。
多分僕は何かと頼みやすいオーラを出しているんだろう。気弱そうとも言う。
そんなわけで僕の両手はずっしりとした紙の束に塞がれている。
そして「運び終えれば寮に戻るだけだから大丈夫だよ」って火和くんには言ったんだけど、心配した火和くんが金泉くんを呼んで今に至るのだ。
金泉くんは「側にいるだけだからね」って資料運びを手伝う気はなく、本当にただ僕の近くを歩いている。
……でも、植木鉢から助けてくれたのは金泉くんなんだよな。
とっさだったんだろうけど、根が悪い子とは思えない。
「えっと……金泉くん」
「何、木戸クン」
わ、わあ。金泉くんはみんなを下の名前と「ちゃん」付けで呼ぶのに、僕のことは頑なに苗字で「クン」だ。
こうもあからさまに線引きされると緊張する。
「何か、っていうのは、一体……」
「さあ。わかんないから『何か』なんでしょ」
「おっしゃるとおりで……」
そして、沈黙。
何だか耐えられなくて、僕は無謀にもまた口を開いてしまう。
「な、なんか、ごめんなさい」
「何が?」
険のある声にドキドキする。
「多分イヤな気持ちにさせた、から……?」
縮こまって答えると、金泉くんは「はあ」とわざとらしくため息をついた。
ずいぶんとイヤそうな「はあ」だった。
「わかんないのに謝んないでよ」
「す、すいません」
「蘇芳ちゃんはバカだけど鼻が利くんだよ。単に嗅覚が鋭いってだけじゃなくて、隠し事とかウソみたいな悪いことにも勘が働くの。肝心の本人が一番よくわかってないけどね」
「……」
「何、その顔」
「あ、いや、何でも」
ツンケンしてるけど、なんやかんや結局教えてくれる。
やっぱり悪い子ではないんだろうな、なんて思えてしまって、口元がほころんだ。
いけない、いけない。
そもそも同い年の男の子に対して「悪い『子』じゃない」なんて考えてしまうこと自体、きっと彼にとっては不本意だろう。
だけど何となく、「自分より年下の生意気な男の子」というイメージが拭えないんだよなぁ……。
ふいにすれ違った女子が真白くんを見て顔を輝かせた。
「真白くんだー。今日も可愛いね」
「ボクが可愛くない日なんてないんですけど」
「キャーッ」
冷たくあしらわれたのに、女子は嬉しそうな高い声を上げて走り去っていく。
それから他にも。
「真白ちゃん! 飴あげる」
「いらない。知らない人から貰ったものなんて怖くて食べれないし」
「キャアッ」
「あっ、真白様! 握手してくれ!」
「ばっちいからヤダ」
「あぁっ」
「真白きゅん、今度オレと一緒にゲームしませんか!」
「下手がうつるからイヤ」
「はあぁ!」
……女子も男子も、何かと金泉くんに話しかけては、素っ気なく返され、感極まったような悲鳴を上げて倒れていく。
とても満足そうに。
そんなみんなを、金泉くんは迷惑そうな顔で見て、時折うるさそうに耳をふさぐ……ということが、この短い間に何度も行われていた。
金泉くんの人気はまたちょっと特殊というか、濃いというか……。
人気者は人気者で大変なんだな……。
みんな金泉くんに滅多打ちにされているから、僕のことにまで気が回らないみたいで、それは助かるんだけど……。
そんな道中を経て、準備室のドアの前で一度資料を床に置く。
僕は両手が塞がっているけど、金泉くんがドアを開けてくれる気配はないからだ。
うん、「側にいるだけ」だからね。別に僕としても文句はない。
ドアを開けると、埃っぽさが鼻についた。
「けほっ……」
これ、火和くんだったらしんどかったかもな。
軽く咳き込みながら、拾い直した資料をしっかり机の上に置く。
机の上には家族写真が飾られていた。
池上先生と奥さん、それから娘さん。
いつの写真かわからないけど、白髪じゃないから数年前だろう。
もしかすると娘さんは僕と同い年くらいなのかもしれない。
――よし、これで仕事完了、っと。
「ありがとう、金泉くん。帰ろうか……って、何してるの?」
「杏ちゃんからの頼まれごと」
金泉くんは何やらドアに細工をしているようだった。
ええ……怒られても知らないぞ……?
仕方なく、終わるまで手持ち無沙汰にまた周りを見る。
壁にかけられたカレンダーに書き込みがあった。次回小テスト。
そういえば、「こないだ定期テストが終わったばかりなのに!」って、軽いブーイングが出てたっけ。
「次のテストはもっとがんばらないとなぁ……」
「次……」
「金泉くん?」
振り返ると、金泉くんは何やら妙な顔をして固まっていた。
呼びかけても返事がない。
顔の前で手を振れば、やっと目の焦点が合う。
「だ、大丈夫?」
「蘇芳ちゃんは順位表を見て臭うって言ったんだよね?」
「え? そう、だけど……」
「ボク、気づいちゃったかも」
高揚しているのか、金泉くんの声がわずかに高くなった。
「燃やしたのは、赤点のテスト用紙じゃない。今回のテストの問題用紙だったんじゃない?」
「――え?」
一瞬何を言っているのかわからなくて、間の抜けた声を上げてしまった。
改めて金泉くんの言葉を思い返し、自分の中で整理する。
過去の、悪い点を取ってしまった犯人自身のテストの解答用紙ではなくて。
燃やした時点では未来のテストの、問題用紙、だった……?
だけど本来そんなものは手に入らない。
盗みでもしない限り。
「って、それって、不正……!」
思わず大きな声が出て、金泉くんに「しっ」と人差し指を立てられる。
彼は小声で続けた。
「そう。だから燃やしたんだ。証拠隠滅のために」
確かに捨てるだけでは心許ないかもしれない。赤点とは重大さが違う。
そんなまさか、という気持ちと、もしかして、という気持ちがせめぎ合う。
ただ、検討する余地があるのは揺るぎない。
「……可能性はあるかも……すごいよ金泉くん」
「フフン、まあね!」
ニッと今日一番の無邪気な笑みを浮かべた彼は――ハッとして僕から距離を取った。
顔を背ける。
「木戸クンも頭いいなら、それくらい思いついてくれないと話になんないよ」
「あはは……ごめん。不正なんて考えたことなかったから」
「クソ真面目~」
「そうかも」
話しながら準備室を出ると、金泉くんは大人しくついてきた。
むぅと口を尖らせているけれど。また怒らせてしまったかな。
でもさっきの無邪気な顔を思い出すと、僕は話しやすい気持ちになってくる。
「金泉くんも真面目だよね。あ、もちろんいい意味でだよ」
「はあ?」
「こうやって僕のことを助けてくれてるし……改めてだけど、植木鉢のこともありがとう。金泉くんのおかげでケガしなくて済んだよ。それにピアノも上手って聞いたし、それって金泉くんが真面目に努力したからじゃない?」
思いつくままに言うと、金泉くんは変な顔になった。
「アレは気づいたから言っただけだし……。ピアノだって……別に、好きに弾いてただけだし」
「たくさん弾いてるんじゃないの?」
「そりゃあ、回数としては、まあ……」
「じゃあやっぱり努力家だよ。苦しむだけが努力じゃないと思うし」
目標に向かってしっかり励んでいるなら、楽しくても苦しくても努力なはずだ。
僕も受験勉強は死に物狂いだったけど、普段の勉強は半分くらい趣味みたいなものでもあった。
趣味らしい趣味ができる金銭的余裕が家になくて、図書館にこもっていることがしょっちゅうだったからだ。
立派な仕事につくんだっていう目標がやる気を後押ししてくれていたし。
「……」
金泉くんは「むぅ……」とますます口を尖らせた。
どうしよう。僕はまた何か余計なことを言ってしまったんだろうか。
彼の地雷がわからない。
「……木戸クンって変だよね」
「え、へ、変?」
「変だよ。だいたいみんなボクのこと、生意気すぎてイヤがるか、すっごくよろこぶかなのに」
前者はともかく、後者は特殊な人たちじゃないのか。
校内だと後者の方が多そうではあったけど。
「木戸クン、怒らないし、褒めてくるし……」
「うーん……思ったことを言っただけなんだけど……」
「……ふーん……」
気まずい空気のまま寮の部屋につく。
なんだか妙にホッとした。
「金泉くん、本当にありがとう。それじゃあ……」
「疲れた」
「え?」
「疲れたから部屋で休ませて」
「ええっ?」
呆気に取られている内に彼はズンズンと中に入っていく。
僕は慌ててその後に続いた。
僕のために放課後の貴重な時間を使ってくれたんだし、邪険に扱うわけにはいかない。
でも、金泉くんだって気に食わないヤツなんかの部屋にいるより、早く帰りたいんじゃないのか……?
金泉くんは遠慮なくベッドに座る。
向かい合う形で、僕は床に座るしかない。
「フゥン。片付いてんね」
「部屋にいても勉強くらいしかしないから……」
「うわ、参考書の数、何? すご、棚いっぱいじゃん」
「特待生だと参考書を買うときに助成があって助かるんだ」
使えるものは使わないと。参考書しかり、天土くんからもらえる食券しかり。
ケチと罵るなら罵ればいい。気前じゃ僕の腹は膨れないのだ。
とはいえ金泉くんの言葉は時々鋭いから、本当に罵られたらちょっと怖いかも……。
ビクビクしていると、金泉くんが気まずそうな顔で僕を見つめてきた。
何でもスパスパ言う彼にしては珍しく歯切れが悪そうに。
「……あのさあ」
「は、はい」
「別にキライとかじゃないから」
……はい?
