——“いい子やってるだけ”。
アイカ先生の言葉が、頭から離れなかった。
あれから、数日。
トワくんを見るたびに、考えてしまう。
あの子は、本当に“楽な子”なんだろうか。
午後、保護者懇談の時間。
トワくんの母親は、穏やかな人だった。
「トワくん、園ではどんな様子ですか?」
「とても落ち着いていて、周りもよく見てくれる子です」
本当のことを伝える。
「……弟さんがいらっしゃるんですよね?」
そう聞いた。
「はい、三歳の子がいます。同じ園です」
やっぱり。
「仲はいいですか?」
「いいですね。トワくんはすごく面倒見がよくて」
少しだけ笑う。
「ワクが生まれたときも、あまり手がかからなくて助かりました」
その言葉に、胸が少しざわつく。
「そうなんですね」
「二歳の頃から、“お兄ちゃん”って感じで」
母親は、懐かしそうに続けた。
「我慢もできる子で」
——我慢。
その言葉が、引っかかった。
「……そうなんですね」
それ以上は聞かなかった。
懇談が終わって、教室に戻る。
子どもたちの声が、いつも通りに響いている。
トワは、いつもの場所にいた。
少し離れたところから、全体を見ている。
——二歳の頃から。
——お兄ちゃん。
——我慢。
頭の中で、言葉が繋がっていく。
「せんせい」
呼ばれて振り向く。 トワだった。
「これ、どこ置けばいい?」
制作の道具を持っている。
「ここでいいよ」
「わかった」
それを置いて、すぐに次の子の方へ行こうとする。
そのとき、何気なく聞いた。
「トワくんって」
「なに」
「小さいときから、お兄ちゃんしてたでしょ?」
トワは少しだけ考えて、
「……うん」
と答えた。
「ワク、すぐ泣くし」
さらっと言う。
「だから、ぼくがやるの普通だった」
——普通。
また、その言葉。
「そっか」
「うん」
それ以上、何も言わない。
当たり前のことみたいに。
でも、
——その“当たり前”は、 本当に、当たり前なんだろうか。
胸の奥が、少しだけ重くなる。
トワはもう、別の子のところへ行っていた。
いつも通り、周りを見て、必要なことをして、何も言わずに。
——ああ。私は、ようやく気づいた。 この子は、“できる子”なんじゃない。“そうしてきた子”なんだ。
アイカ先生の言葉が、頭から離れなかった。
あれから、数日。
トワくんを見るたびに、考えてしまう。
あの子は、本当に“楽な子”なんだろうか。
午後、保護者懇談の時間。
トワくんの母親は、穏やかな人だった。
「トワくん、園ではどんな様子ですか?」
「とても落ち着いていて、周りもよく見てくれる子です」
本当のことを伝える。
「……弟さんがいらっしゃるんですよね?」
そう聞いた。
「はい、三歳の子がいます。同じ園です」
やっぱり。
「仲はいいですか?」
「いいですね。トワくんはすごく面倒見がよくて」
少しだけ笑う。
「ワクが生まれたときも、あまり手がかからなくて助かりました」
その言葉に、胸が少しざわつく。
「そうなんですね」
「二歳の頃から、“お兄ちゃん”って感じで」
母親は、懐かしそうに続けた。
「我慢もできる子で」
——我慢。
その言葉が、引っかかった。
「……そうなんですね」
それ以上は聞かなかった。
懇談が終わって、教室に戻る。
子どもたちの声が、いつも通りに響いている。
トワは、いつもの場所にいた。
少し離れたところから、全体を見ている。
——二歳の頃から。
——お兄ちゃん。
——我慢。
頭の中で、言葉が繋がっていく。
「せんせい」
呼ばれて振り向く。 トワだった。
「これ、どこ置けばいい?」
制作の道具を持っている。
「ここでいいよ」
「わかった」
それを置いて、すぐに次の子の方へ行こうとする。
そのとき、何気なく聞いた。
「トワくんって」
「なに」
「小さいときから、お兄ちゃんしてたでしょ?」
トワは少しだけ考えて、
「……うん」
と答えた。
「ワク、すぐ泣くし」
さらっと言う。
「だから、ぼくがやるの普通だった」
——普通。
また、その言葉。
「そっか」
「うん」
それ以上、何も言わない。
当たり前のことみたいに。
でも、
——その“当たり前”は、 本当に、当たり前なんだろうか。
胸の奥が、少しだけ重くなる。
トワはもう、別の子のところへ行っていた。
いつも通り、周りを見て、必要なことをして、何も言わずに。
——ああ。私は、ようやく気づいた。 この子は、“できる子”なんじゃない。“そうしてきた子”なんだ。

