嘘から始まる恋煩い!(前編)

トンッ、と。
気がつけば雨音を窓のところまで追いつめていて、俺はその横の壁に手をついていた。
「え、えっと……桐山?」
かなり驚いたようで眠気が彼方まで吹っ飛んだらしい雨音は、困惑した声を出した。
目の前に……至近距離に、雨音の揺れている瞳がある。
普段なら躊躇してここでひよってしまう俺だが、今回は違った。

「なあ……雨音。どうやったら俺を見てくれる?」
「え……?」

自分でもどんな表情を浮かべているかなんてもうわからない。
わかるのは、何を考えているのかわからない彼女の瞳が激しくゆらめいていることだけ。
「気づかないとでも思った?俺がストレートなことを言うたびに、ドキドキはしているのと同時に、申し訳なさそうな表情を浮かべていること。」
「………っ!」
「そんな表情しないで。もっと俺を見てよ。五十嵐のことじゃなくて、俺を………っ。」
「桐山……。」
「っ!」
そこで俺は、自分が何をしているかについて今さら気づいた。
気を抜けば、すぐに唇を掠め取ってしまいそうな距離。
雨音が悲痛な表情をしているのを見て、俺は我にかえった。
「………ごめん。ちょっと頭冷やさせて。」
最悪だ……、俺。

せっかく嫌われないように今まで徐々に距離をつめていたのに。
少しでも理性が飛んでしまったら、これだ。
俺は後悔の念を抱えながら、雨音も同じような顔を浮かべているのに気づかずに。
ただひたすらに、目をつぶっていた。