きみと描いた星空は、まだ消えない

次の日も、わたしは来た。

眠れない夜を理由にして、来ていた。

自分でもわかっていた。

ここへ来たい、という気持ちがあって、そのためにここへ向かっていた。

その次の日も、またその次の日も、晴れた夜は必ず。

正直に言えば、日が暮れてバスターミナルへ行く時間になると、胸のあたりがそわそわした。

それが何なのか、まだ言葉にはできなかった。

蒼生はいつも七番ベンチにいた。

わたしがいつ来ても、まるで待っていたかのようにそこにいた。

実際に待っていたのかどうかは、聞かなかった。

聞かなくていいと思っていた。

いる、ということが、それだけで十分だった。

少しずつ、話すようになった。

好きな星座のこと。

どの季節の空が一番好きか。

コンビニのホットドリンクで一番おいしいのは何か。

冬と夏どちらが好きか。

他愛もない話ばかりだったけれど、わたしはそれが嫌いではなかった。

むしろ、他愛もない話をできる人が、今の自分にはいなかった気がした。

蒼生はわたしのことを何も聞かなかった。

学校のこと、家のこと、どこに住んでいるのか、何年生なのか。

何も。最初の夜から、ずっとそうだった。

それが、こんなに楽だとは思わなかった。

今まで出会ってきた人たちは、みんな何かを聞いてきた。

趣味は何、将来は何になりたい、好きな教科は、好きな人はいる……。

悪意はなかったと思う。

みんな普通に話しかけてくれていただけだ。

自分と同じ共通点があるのか、話題になりそうな事があるのか……。

でもわたしには、その質問のひとつひとつが、何かを品定めされているような気がして、答えるたびに少しずつ疲れていた。

蒼生は何も聞かなかった。

ただ隣にいて、星を数えていた。

ときどき話しかけてきて、わたしが答えたら「そうか」と言って、また空を見た。

それだけだった。

それだけなのに、ここにいていいと思えた。


わたしが夜な夜な出かけている事を、家の人は知っていた。

でも何も言わなかった。

お母さんはわたしが帰ると「おかえり」とだけ言って、どこへ行っていたかを聞かなかった。

それも、蒼生と同じだった。

聞かないでいてくれることが、今のわたしには一番やさしかった。


帰り道、わたしは冬の夜空を見上げながら歩いた。

星が見えた。

蒼生が数えていた星が、今夜もそこにあった。

あの星たちは、毎晩ここにある。

蒼生も毎晩ここに来る。そしてわたしも、来てしまう。

ここが、居場所になっていた。


そのことに気づいたのは、何度目かの夜だった。

居場所、という言葉が頭に浮かんで、ああそうか、とわかった。

学校でも家でもない、誰かと話さなくてもいい、ただいることが許されている場所。

そういう場所を、わたしは知らないうちに探していたのかもしれない。