きみと描いた星空は、まだ消えない

高校生になったわたしは、入学してすぐ、美術部に入った。

中学のときの顧問とは感性も雰囲気も全然違う先生だった。

初めて絵を見せたとき、先生は「面白い視点だね」と言った。

うまいとも下手とも言わず、ただ、わたしの見えているものを見てくれた。

それだけで、ここにいていいと思えた。

さくらも同じ高校に進んだ。

クラスは違ったけれど、昼休みはいつも一緒にいた。

さくらはわたしの絵をいつも「好き」と言ってくれた。

理由を聞くと「なんか、その絵の中に入りたくなる」と言った。

その言葉が、いつも嬉しかった。


蒼生の月命日も忘れずに、高校生になってからも、毎月柏木家を訪ねた。

お母さんはいつも温かいお茶を出してくれた。

蒼生の写真に手を合わせて、その月にあったことを話した。

美術部に入ったこと、さくらと仲良くしていること、描き続けていること……とにかくあった事たくさん。

お母さんはいつも


「蒼生も喜んでると思う」


と、笑って言ってくれた。


バスターミナルに、一枚のポスターが貼られていた。

市の絵画コンクールのポスターだった。

美術部で応募して、選ばれた。

作品名は『蒼の軌跡』。

わたしが描いたその絵がポスターとなって、このバスターミナルに貼られている。

クリスマスや新年初売りの広告には目もくれなかった場所。

自分には関係のないと思っていたその場所に、わたしが関わっているイベントのポスターが貼られる事になるなんて。

『蒼の軌跡』は、蒼生が亡くなった朝に描いた夜明けの絵だった。

バスターミナルから見える景色である、七番ベンチ、自動販売機の白い光、道路に伸びる光の線……そして夜空に、一筋の流れ星。

わたしの地上と、蒼生が書き足した流れ星の軌跡と、二つの人影が入っていた。

蒼生のことは何も説明しなかった。

ただあの絵に、色を付けて、出した。

誰かが見て、どう思うかはわからない。

ただの夜明けの絵に見えるかもしれない。

でもわたしにとってのあの絵は、あの冬に経験した事の全部だった。

バスターミナルと、星と、冷たい手と、「ちゃんとつながった」という言葉と、泣いた夜明けと……全部が一枚の絵の中にあった。

ただ、見えたものを描いた。

自分のために描いた。

でもこうして誰かの目に触れる場所に貼られて、それはそれで嬉しかった。


「これ、結羽が描いたの?」

「うん」


バスターミナルでポスターを見ながらさくらに聞かれて、わたしは素直にうなずいた。


「すごい!なんか、この場所のことが好きになる絵だね!」


少しはしゃぎながら、さくらがそう言ったので、わたしは笑ってしまった。


その夜、七番ベンチに座っていた。

春の夜は、十一月よりずっと温かかった。

コートも手袋も要らなくて、それが少し寂しかった。

あの冬の冷たさが懐かしかった。

蒼生の手の冷たさを、忘れたくなかった。