きみと描いた星空は、まだ消えない

保健室の先生は、何も聞かなかった。

「来たね」と言って、ベッドの横の椅子を引いてくれた。

わたしはいつもそこに座って、スケッチブックを開く。

窓から見える中庭を描いた。

梅の木が、白い花をつけていた。

しばらくすると、先生がお茶を持ってきてくれた。


「桐島さん、絵を描いてるの?」

「……うん」

「上手いね。私は絵は全然ダメなのよね。今度、保健室から出す、呼びかけのポスターでも描いてもらおうかしら?」


と、先生に言われた。

蒼生なら「上手いとか下手とかじゃなくて」と言っただろう、と思った。

でも先生の言葉は、素直に嬉しかった。


保健室に通ううちに、同じように保健室に来る子と話すようになった。

名前はさくら。

クラスは違ったけれど、同じ学年だった。

最初は隣に座っているだけだったのが、いつの間にか話すようになっていた。


「何描いてるの?」


ある日、さくらが聞いてきた。


「……景色とか。見えたものを、そのまま描くだけ」

「へえ……きれいだね」


さくらはわたしのスケッチブックをじっと見た。


「なんか、その絵、ちゃんとその場所にいる感じがする」


その言葉が嬉しかった。

蒼生が言っていたことと、似ていた気がした。


三月になると、わたしは週に何日か教室にも行けるようになった。

最初はぎこちなかった。

でもさくらが「一緒に行こう」と言ってくれた。

それだけで、教室のドアが少し軽くなった。

友達がいる、ということが、こんなに違うものかと思った。


美術部の顧問の先生とは、顔を合わせたくなかった。

わたしの声を、めんどくさそうに冷たくあしらった人だ。


『部活中に描いたものならまだしも、あなたは美術の授業で描いたものなんでしょう?』


根に持つわけではないが、部活中に描いていない物は盗まれても文句を言えないと言われたのと同じだと思っている。

だから、わたしの絵を盗んだあの子と同罪。

廊下でたまに見かけると、わたしは視線をそらした。

美術室には近づかなかったし、当たり前だけど、絵を見せる気には、絶対になれない。

このまま美術部をやめる事になるだろうけれど、美術部じゃなくても絵は描いていける。

好きな時に好きな絵を、誰の目も気にすることなく。

それを教えてくれたのは蒼生だ。

あの顧問のおかげでも、美術部のおかげでもなかった。

だから美術部には戻らなくていい、と思っていた。

絵は、自分のために描けばいいのだから。


蒼生に「星がちゃんと見てるから、そのうちバレるよ」と言われたことは、本当だった。

少しずつ春の暖かさになってきたある日、あの子の盗作行為がバレた。