それから、蒼生は来なかった。
一日、二日、三日……晴れた夜でも、七番ベンチは空だった。
わたしは毎晩来て、蒼生が教えてくれた数え方で星を数えようとした。
三十二、三十三、四十……でも途中でわからなくなった。
一人で数えると、どこまで数えたかわからなくなる。
待っている、と言ったから待っていた。
四日目の夜、バスターミナルへ向かうと、七番ベンチのそばに人影があった。
蒼生だ、と思った。
でも違った。
なぜなら、人影は立っている。
蒼生はいつも座っている。
蒼生ではなく、紺色のコートを着た女性が立っている。
誰だろう、と不思議に思いながら近づいた。
わたしを見た女性の目が、どこかで見たことがある気がした。
細くて、やわらかい目……蒼生の目と、同じ形をしている。
目が合ってドキッとした。
「桐島結羽さん、ですか」
静かな声だったけれど、少し震えていた。
「……はい」
女性はしばらく、わたしの顔を見ていた。
何かを確かめるように。
それから、ゆっくり口を開いた。
「蒼生の……母です」
わたしは息を飲んだ。
蒼生のお母さんが、ここに来ている。
夜中のバスターミナルに。
まさか、蒼生に何かあったんじゃ……?!
「蒼生の体調が、かなり悪くなってしまって……」
母さんの声が、少し揺れた。
「外に出るのが難しい状態で……でも、蒼生が、あなたに会いたがっていて。もしよければ、明日、会いに来てもらえますか」
聞きたいことが、頭の中にたくさんあった。
どのくらい悪いんですか。
何の病気なんですか。
大丈夫なんですか。
でも……何も聞けなかった。
お母さんの顔を見ていたら、聞いてはいけない気がした。
わたしにできることは、一つだけだった。
「……行きます」
声を震わせながらしぼりだすように言う。
わたしの答えにお母さんは小さくうなずいた。
目が、少し潤んでいるように見えた。蒼生と同じ形の目が。
「ありがとうございます。……では明日、14時にここでお待ちしてます」
それだけ言って、お母さんはバスターミナルを出ていった。
紺色のコートの背中が、夜の中に消えていく。
わたしはしばらく七番ベンチの前に立っていた。
蒼生がいつも座っていたベンチに、今夜は誰もいない。
わたしに、会いたがっている……蒼生が。
外に出られないのに、それでも会いたがっている。
わたしは七番ベンチに座って、空を見上げた。
冬の大三角が、いつものようにそこにあった。
明日、蒼生に会いに行く。
それだけを、頭の中で繰り返した。
翌日の午後、駅まで迎えに来てくれた蒼生のお母さんの車に乗って、わたしは蒼生の家にお邪魔した。
静かな住宅街の、小さな一軒家だった。
表札に「柏木」と書いてあり、わたしはしばらくその表札を見ていた。
柏木……蒼生の苗字。
バスターミナルで初めて名前を聞いた夜のことを思い出した。
かしわぎ、あおい、と繰り返したこと。
「今日は本当に、ありがとうございます、来てくれて」
お母さんはそう言って、わたしを蒼生の部屋へ案内してくれた。
一日、二日、三日……晴れた夜でも、七番ベンチは空だった。
わたしは毎晩来て、蒼生が教えてくれた数え方で星を数えようとした。
三十二、三十三、四十……でも途中でわからなくなった。
一人で数えると、どこまで数えたかわからなくなる。
待っている、と言ったから待っていた。
四日目の夜、バスターミナルへ向かうと、七番ベンチのそばに人影があった。
蒼生だ、と思った。
でも違った。
なぜなら、人影は立っている。
蒼生はいつも座っている。
蒼生ではなく、紺色のコートを着た女性が立っている。
誰だろう、と不思議に思いながら近づいた。
わたしを見た女性の目が、どこかで見たことがある気がした。
細くて、やわらかい目……蒼生の目と、同じ形をしている。
目が合ってドキッとした。
「桐島結羽さん、ですか」
静かな声だったけれど、少し震えていた。
「……はい」
女性はしばらく、わたしの顔を見ていた。
何かを確かめるように。
それから、ゆっくり口を開いた。
「蒼生の……母です」
わたしは息を飲んだ。
蒼生のお母さんが、ここに来ている。
夜中のバスターミナルに。
まさか、蒼生に何かあったんじゃ……?!
「蒼生の体調が、かなり悪くなってしまって……」
母さんの声が、少し揺れた。
「外に出るのが難しい状態で……でも、蒼生が、あなたに会いたがっていて。もしよければ、明日、会いに来てもらえますか」
聞きたいことが、頭の中にたくさんあった。
どのくらい悪いんですか。
何の病気なんですか。
大丈夫なんですか。
でも……何も聞けなかった。
お母さんの顔を見ていたら、聞いてはいけない気がした。
わたしにできることは、一つだけだった。
「……行きます」
声を震わせながらしぼりだすように言う。
わたしの答えにお母さんは小さくうなずいた。
目が、少し潤んでいるように見えた。蒼生と同じ形の目が。
「ありがとうございます。……では明日、14時にここでお待ちしてます」
それだけ言って、お母さんはバスターミナルを出ていった。
紺色のコートの背中が、夜の中に消えていく。
わたしはしばらく七番ベンチの前に立っていた。
蒼生がいつも座っていたベンチに、今夜は誰もいない。
わたしに、会いたがっている……蒼生が。
外に出られないのに、それでも会いたがっている。
わたしは七番ベンチに座って、空を見上げた。
冬の大三角が、いつものようにそこにあった。
明日、蒼生に会いに行く。
それだけを、頭の中で繰り返した。
翌日の午後、駅まで迎えに来てくれた蒼生のお母さんの車に乗って、わたしは蒼生の家にお邪魔した。
静かな住宅街の、小さな一軒家だった。
表札に「柏木」と書いてあり、わたしはしばらくその表札を見ていた。
柏木……蒼生の苗字。
バスターミナルで初めて名前を聞いた夜のことを思い出した。
かしわぎ、あおい、と繰り返したこと。
「今日は本当に、ありがとうございます、来てくれて」
お母さんはそう言って、わたしを蒼生の部屋へ案内してくれた。


