生まれたときからずっと病気だと聞いて、かわいそうだとは思わなかった。
思えなかった、という方が正確かもしれない。
だって蒼生は、星を数えていた。
毎晩バスターミナルに来て、スケッチブックに夜空を描いて、笑っていた。
わたしの地上と、ちゃんとつながった、と言ってくれた。そういう人だった。
病気と一緒に生きながら、それでもこんなふうに夜空を見てきた人のことを、かわいそうだとは呼べなかった。
それよりも、ずっとこの星を見てきたんだな、と思った。
それがなぜか、胸の奥をじんわり温めた。
それに、わたしなんかよりもずっとずっと強い気持ちで生きている。
空を見ていると、流れ星が一つ、夜空を横切った。
細くて、すぐ消えた。
でも、確かに見えた。
蒼生と一緒に見られたらよかったな、と思った。
この時間が少しでも長く続きますように……ってお願いしたいから。
いつかまた一緒に来たとき、見えたらいいな……。
わたしは立ち上がって、夜の国道を歩いて家に帰った。
手がまだ、冷たかった。
蒼生の体温が、わたしの指先に残っていた。
家に帰ると、リビングにお母さんがいた。
テレビもつけずに、ただ座っていた。
わたしを見て、
「おかえり」
と言った。
いつも通りの声だった。
わたしは靴を脱ぎながら、泣きそうになるのをこらえた。
こらえようとしたけれど、うまくいかなかった。
「……お母さん」
声が、震えた。
お母さんはわたしの顔を見て、何も言わなかった。
でも立ち上がって、リビングのソファに座るよう、目で促してくれた。
わたしはソファに座った。膝の上で手を組んで、どこから話せばいいかわからなかった。
でも口が自然に動いた。
「好きな人がいて……」
お母さんは黙って聞いていた。
「病気なの。……生まれたときからずっと病気で。でも毎晩バスターミナルに来て、星を数えてて。わたしと一緒に絵を描いてくれて」
声が途切れる。
続きが出てこなかった。
「当たり前だと思ってた。毎晩会えることが。でも当たり前じゃなかった。ずっと当たり前じゃなかったのに、わたし全然わかってなかった」
そこまで言ったら、涙が出てきた。
止められそうにない。
お母さんはしばらく黙っていた。
それからそっと、わたしの背中に手を置く。
何も言わなかった。
ただ、手を置いてくれていた。
わたしはそのまま、声を殺して泣いた。
お母さんの手が、背中の上で温かかった。
どれくらいそうしていたかわからない。
泣き止んでから、わたしはお母さんを見た。
「……また描けるようになったんだ。その人がいたから」
お母さんは少し目を細めた。
「……そう」
とだけ言った。
でもその「そう」には、ちゃんと聞こえていたよ、という気持ちが入っている気がした。
わたしはうなずいた。
それ以上は何も言えなくて。
でも、それだけで十分だったんだ。
思えなかった、という方が正確かもしれない。
だって蒼生は、星を数えていた。
毎晩バスターミナルに来て、スケッチブックに夜空を描いて、笑っていた。
わたしの地上と、ちゃんとつながった、と言ってくれた。そういう人だった。
病気と一緒に生きながら、それでもこんなふうに夜空を見てきた人のことを、かわいそうだとは呼べなかった。
それよりも、ずっとこの星を見てきたんだな、と思った。
それがなぜか、胸の奥をじんわり温めた。
それに、わたしなんかよりもずっとずっと強い気持ちで生きている。
空を見ていると、流れ星が一つ、夜空を横切った。
細くて、すぐ消えた。
でも、確かに見えた。
蒼生と一緒に見られたらよかったな、と思った。
この時間が少しでも長く続きますように……ってお願いしたいから。
いつかまた一緒に来たとき、見えたらいいな……。
わたしは立ち上がって、夜の国道を歩いて家に帰った。
手がまだ、冷たかった。
蒼生の体温が、わたしの指先に残っていた。
家に帰ると、リビングにお母さんがいた。
テレビもつけずに、ただ座っていた。
わたしを見て、
「おかえり」
と言った。
いつも通りの声だった。
わたしは靴を脱ぎながら、泣きそうになるのをこらえた。
こらえようとしたけれど、うまくいかなかった。
「……お母さん」
声が、震えた。
お母さんはわたしの顔を見て、何も言わなかった。
でも立ち上がって、リビングのソファに座るよう、目で促してくれた。
わたしはソファに座った。膝の上で手を組んで、どこから話せばいいかわからなかった。
でも口が自然に動いた。
「好きな人がいて……」
お母さんは黙って聞いていた。
「病気なの。……生まれたときからずっと病気で。でも毎晩バスターミナルに来て、星を数えてて。わたしと一緒に絵を描いてくれて」
声が途切れる。
続きが出てこなかった。
「当たり前だと思ってた。毎晩会えることが。でも当たり前じゃなかった。ずっと当たり前じゃなかったのに、わたし全然わかってなかった」
そこまで言ったら、涙が出てきた。
止められそうにない。
お母さんはしばらく黙っていた。
それからそっと、わたしの背中に手を置く。
何も言わなかった。
ただ、手を置いてくれていた。
わたしはそのまま、声を殺して泣いた。
お母さんの手が、背中の上で温かかった。
どれくらいそうしていたかわからない。
泣き止んでから、わたしはお母さんを見た。
「……また描けるようになったんだ。その人がいたから」
お母さんは少し目を細めた。
「……そう」
とだけ言った。
でもその「そう」には、ちゃんと聞こえていたよ、という気持ちが入っている気がした。
わたしはうなずいた。
それ以上は何も言えなくて。
でも、それだけで十分だったんだ。


