きみと描いた星空は、まだ消えない

一月の終わり、その夜もわたしはバスターミナルへ向かった。

薬を見てしまったあの夜から、ずっと気になっていた。

蒼生には何か、ある。

それが何なのか、聞いたとして、答えをもらうのが怖い。

……でも会いたかったから今夜も来た。

冬の夜道は静かだった。

街灯の下を歩くたびに、自分の影が伸びては縮んだ。

息が白くなって、すぐ消えた。

すごくすごく寒いけれど、体の内側が、どこか熱かった。

歩きながら、今夜こそ……聞こうと思っていた。

大丈夫?とか、最近どうしたの?……とか。

ぼんやりした言葉ではなくて、もっとちゃんと。

何かあるなら、教えてほしい、と。

でも実際に蒼生の顔を見たら、言えるかどうかわからなかった。

そもそも答えを聞いてもわたし自身が何ができるのかも全くわからない。

何もわからないまま、ただ足だけが進んだ。


バスターミナルが見えてきたとき、七番ベンチに人影があった。

わたしは思わず足を止める。

いた……今夜は蒼生が、いた。

いつもと同じ黒いベンチコート、いつもと同じ姿勢で、空を見上げている。

その横顔を見た瞬間、胸の奥で何かがほどけるような感覚があった。

よかった、と思ったけれど、それだけじゃない。

ただ、すごくすごく会いたかった……と思った。

わたしが近づくと、蒼生は視線を落としてわたしを見た。


「来たね」


いつもと同じ言葉だった。

でもその言葉に、何かが含まれているような気がした。

わたしの胸の奥底から、何か温かい物がこみあげてくる。

待っていた、ということ。

心配していた、ということ。

それとも、来てくれてよかった、ということ。

わたしにはどれかわからなかったけれど、どれでもよかった。


「……うん」


わたしはうなずいて、蒼生の隣に座った。

肩が触れるくらいの距離に。

今夜は席を一つ空けなかった。

それでも、蒼生は何も言わなかった。

しばらく二人で空を見た。

月のない夜で、星がよく見えた。

冬の大三角が、はっきりと輝いていた。

シリウスとベテルギウスとプロキオン。

蒼生が好きだと言っていた星たちが、変わらずそこにあった。

何も変わっていないのに、全部が違って見えた。

わたしは何度か口を開こうとして、閉じた。

聞くべきか、聞かないべきか、ずっと迷っていた。

何かあると思っているのに、黙っているのはずるい気がした。

でも聞いたら、この夜が変わってしまう気もした。

今夜もいつも通りに星を見て、スケッチブックを開いて、何も気にしていないふりをして……そうすることもできた。

隣に座っている蒼生の横顔を、ちらっと盗み見る。

空を見上げている、いつもと何も変わらない顔。

でも今夜は、その横顔を見ているだけで、胸が痛かった。

この人に、何かある……それに気づいているのに、気づかないふりをして隣に座っていることが、今夜は苦しかった。

もう、そんな事はできそうもない。