蒼生と絵を描く夜が、少しずつ変わってきていた。
最初の頃は、一枚描いたら手が止まっていた。
でも今は、一枚描き終わると、不思議ともう一枚描きたくなっていた。
描くたびに、見えてくるものが変わる気がした。
同じバスターミナルの景色でも、今夜の光の色は昨日と違う。
七番ベンチの影の落ち方も、月の位置によって変わる……そういうことが、だんだんわかってきた。
蒼生は毎晩、黙ってわたしの絵を見てくれた。
「うまくなってる」とは言わなかった。
ただ「今夜のはここが好き」とか「この光の感じ、よく見えてる」とか、
そういうことだけ言った。
評価じゃなくて、ただ見ていてくれる感じが、わたしには一番楽だった。
でも一月も半ばになった頃から、それが少しずつ変わってきた。
蒼生が来ない夜が、増えた。
最初は気のせいかと思った。
天気が悪い夜は来ないこともある。
でも晴れた夜でも来ないことが、一度、二度と続いた。
わたしは七番ベンチで待った。
三十分待って、一時間待って、それでも来ない夜があった。
来ない夜は、スケッチブックを開いても描けなかった。
ただ空を見ていた。
蒼生が数えてきた星を、わたしも数えようとした。
三十二、三十三……でも途中でわからなくなった。
一人で数えると、どこまで数えたかわからなくなる。
蒼生がいるから、数えられていたのかもしれなかった。
彼のいない夜のバスターミナルは、ただただ静かだった。
いつもと同じ静かさのはずなのに、違う静かさに感じた。
蒼生がいないだけで、こんなに違うのかと初めて知った。
自動販売機の音も、国道を走る車の音も、全部遠くて、恐怖を感じてしまったほど。
七番ベンチに一人で座っていると、わたしだけが世界から切り離されているような気がした。
一週間ぶりに蒼生がいるのを見つけた時は心が跳ねた。
思わず駆け寄ると、蒼生はいつもと同じ黒のベンチコートを着て、七番ベンチに座っていた。
わたしが来ると「来たね」と言って、笑った。
いつもの笑い方だった。
でも、顔色が悪かった。
街灯の光の下で、蒼生の肌がいつもより白く見えた。
いつも白いけれど、今夜は違う白さだった。
絵の具で塗ったみたいな、血の気のない白さ。
「大丈夫?」
思わず聞いてしまった。
聞かずにはいられなかったから。
「うん」
蒼生は短く答えた。
それ以上は何も言わなかった。
最初の頃は、一枚描いたら手が止まっていた。
でも今は、一枚描き終わると、不思議ともう一枚描きたくなっていた。
描くたびに、見えてくるものが変わる気がした。
同じバスターミナルの景色でも、今夜の光の色は昨日と違う。
七番ベンチの影の落ち方も、月の位置によって変わる……そういうことが、だんだんわかってきた。
蒼生は毎晩、黙ってわたしの絵を見てくれた。
「うまくなってる」とは言わなかった。
ただ「今夜のはここが好き」とか「この光の感じ、よく見えてる」とか、
そういうことだけ言った。
評価じゃなくて、ただ見ていてくれる感じが、わたしには一番楽だった。
でも一月も半ばになった頃から、それが少しずつ変わってきた。
蒼生が来ない夜が、増えた。
最初は気のせいかと思った。
天気が悪い夜は来ないこともある。
でも晴れた夜でも来ないことが、一度、二度と続いた。
わたしは七番ベンチで待った。
三十分待って、一時間待って、それでも来ない夜があった。
来ない夜は、スケッチブックを開いても描けなかった。
ただ空を見ていた。
蒼生が数えてきた星を、わたしも数えようとした。
三十二、三十三……でも途中でわからなくなった。
一人で数えると、どこまで数えたかわからなくなる。
蒼生がいるから、数えられていたのかもしれなかった。
彼のいない夜のバスターミナルは、ただただ静かだった。
いつもと同じ静かさのはずなのに、違う静かさに感じた。
蒼生がいないだけで、こんなに違うのかと初めて知った。
自動販売機の音も、国道を走る車の音も、全部遠くて、恐怖を感じてしまったほど。
七番ベンチに一人で座っていると、わたしだけが世界から切り離されているような気がした。
一週間ぶりに蒼生がいるのを見つけた時は心が跳ねた。
思わず駆け寄ると、蒼生はいつもと同じ黒のベンチコートを着て、七番ベンチに座っていた。
わたしが来ると「来たね」と言って、笑った。
いつもの笑い方だった。
でも、顔色が悪かった。
街灯の光の下で、蒼生の肌がいつもより白く見えた。
いつも白いけれど、今夜は違う白さだった。
絵の具で塗ったみたいな、血の気のない白さ。
「大丈夫?」
思わず聞いてしまった。
聞かずにはいられなかったから。
「うん」
蒼生は短く答えた。
それ以上は何も言わなかった。


