きみと描いた星空は、まだ消えない

「ねえ。一緒に描かない?」


ある日突然、蒼生がそんな事を言った。

十二月も中旬を過ぎ、クリスマスを来週に控えた街は夜中でもその雰囲気を押し出している。

バスターミナルの広告もイルミネーションやクリスマスに関連する物ばかり。

それが目に入っていても、わたしも蒼生もそれについては何も話題にはしなかったけれど。

去年まではわたしもこの時期はワクワクしていたはず。

美術部でクリスマスパーティーをしたし、みんなでクリスマスツリーをスケッチブックに描いた。

わたしの時間が止まっている中、世間は着実に動いている。

取り残された孤独感とか焦燥感は全くない。

興味関心が薄れてしまっている証拠なんだろうなと思う。

そんなわたしを現実世界に引き戻すかのように、蒼生は絵を一緒に描かないかと提案してきた。

新しいスケッチブックを二冊、膝の上に置いて、蒼生はいつものように七番ベンチに座っていた。

一冊は開かれて、もう一冊がわたしに差し出されていた。

まだ何も描かれていない、真っ白なページ。


「俺が夜空を描くから、結羽が地上を描いて。二ページでひとつの世界を作ろう」


わたしはその言葉の意味を、一瞬うまく飲み込めなかった。

相変わらず、不思議な事を言う人だなと思った。


「地上って……ここの?」

「そう。バスターミナルでも、道路でも、あの自販機でも。結羽が見える景色を描いて」

「でも……わたし、あれからずっと描いてないし」


わたしはスケッチブックを受け取れないままスケッチブックを見た。

真っ白なページ。

何も描かれていない、まだ何にでもなれる白さ。

……その白さが、すごく怖かった。


「いろいろ……あったし」

「描くのって、誰かに見せるためだと思う?」

「……え?」

「俺は、見えたものを残すためだと思う」


蒼生はスケッチブックを手に取って、ページを開いた。

そして、わたしの方を見る。


「才能って、何のためにあると思う?」


わたしの返事をスルーした蒼生の問いは、責めるでも諭すでもなく、本当に純粋な問いだった。

星の名前を確認するときと同じ、ただ知りたいという顔で聞いていた。

問いかけられてわたしは、首を傾げて考える。


「……うまく描くため?」

「俺はそれも、見えたものを残すためだと思う」


鉛筆を手にすると、蒼生はわたしにそれを差し出した。


「才能があるから残せる、じゃなくて。残したいものがあるから描く。それだけで十分だよ」


わたしの胸が、じわりと痛んだ。

それだけで十分、という言葉が、胸のどこかに刺さった。

あの日から、誰かにまた見せたら盗まれるかもしれない、傷つくかもしれないと思っていた。

でも蒼生は残したいものがあるから描く、と言った。

残したいものはあった。ずっとあった。

ただそれを、怖さという言葉で蓋をしていただけだった。


「結羽にしか見えない世界が、あるんだよ」


その一言に、わたしはうまく返事ができなかった。

泣きそうになることを悟られたくなかった。