執事じゃないと言えないコト

「ぜ、全身筋肉痛。顔含む」

 翌日の放課後。
 僕は予想通り、全身バキバキになってしまった。
 今日の授業に体育がなくて、本当に良かったよ。
 おかげさまで、朝からずっと自席にへばりついていたし。

 なお、これは後日談になるのだが、それを聞いたスミスさんが

【それは失礼。次があれば、体育の授業前日に集中させましょう】

 と、超笑顔で言いきった。
 参謀系だからって、そこまで計算する必要はないと思うのでやめて欲しい。

「はーるきー。朝からずっと机にへばりついて、どうしたの?」
「うわわっ! こ、琴音。脅かさないでよ」
「ふふっ、ごめんなさい。だって春樹、毎回、反応が面白いもん」

 へいへい。
 毎回、琴音が不意打ちのようなタイミングで話しかけるからだろ。
 ……と、言い返せない自分が悔しい。

(それぐらい、琴音に対しても素直で積極的だったらなぁ……)

 スミスさん、僕、やっぱりそこまで素直じゃないと思います。

「表情もちょっと硬いし、どうしたの?」
「あー、と。運動、じゃないけど、そんな感じのやつをちょっと」
「仮入部しているのね。それでへばっちゃったんだ」

 まさか、姿勢を正していたらこうなりました。
 とか、恥ずかしくて言えない―――ッ!

(ってか、早く迎えに来てよスミスさん―――ッ!)

 そう、僕がまだ部室に向かわずここにいるのには、ワケがあった。
 部員となった以上、案内すべき場所があると。
 その案内役として、スミスさんを待っているのだ。

「ねぇ、春樹。いったいどんな部活に……」

 琴音が答えられない質問を仕掛けようとした時だった。

「「「きゃああああ―――――ッ!」」」

 突然、クラス中から黄色い悲鳴がこだました。
 なになに、何事!?

「どうして近衛凪咲(このえなぎさ)様がこちらに!?」
「うっそ、マジでカッコイイ……ッ」

 クラスの女子たちが、すっごい反応している。
 相当なイケメンが来たのかと思ったら……男子たちの反応もおかしい。

「あそこまでいくと、逆に尊敬するっつーかさ」
「同感。同性だったらまだしも、女でアレだけだとな」
「嫉妬や敗北感を超えて、なんつーか、争うだけ無駄というか」

 憧れに近いまなざし、なのか。よくわからない。

「誰か来たの?」
「2年の超イケメン先輩だよ。タカラジェンヌを目指しているって噂の」
「あー、噂でちょこっと聞いたかも。女性なのにすげぇ……」

 と、僕は声のする方向を見ると……

「うっわ、イケメン」

 執事喫茶部の面々に、負けず劣らずの超美形女子がいた。
 黒く長い髪をたなびかせながら歩く姿は、麗しすぎる。
 煌びやかすぎる。
 なんだったら、バラを背負ってる。
 それぐらい、かっこよさと美しさを兼ね備えた人だった。
 可愛さなら琴音だけどさ。

「僕らと同じ制服を着たら、まんま男子じゃん」
「そうよねー。でも女子の制服でも似合うというか、むしろ一番着こなしてる」

 いいなー、あぁいうのうらやまし!
 と、琴音は少しだけ頬を染めながらいう。

「……琴音。彼氏さんに嫉妬されるよ」
「ん? なに?」
「なんでもない」

 あー、僕のバカ、馬鹿、ヴァ――――カ。
 ここで、例の先輩彼氏さんの件をちゃんと聞けばいいのに。
 スミスさん、やっぱり素直になれてないですよ、僕―――!
 と、一人落ち込んでいた時だった。

「ひゃー……ま、間近で見ると……!」

 さっきより、琴音の声が一段階あがった。
 同時に、僕の前に影が落ちる。

「佐藤春樹くん」
「ふえ!?」

 突然、名前を呼ばれて慌てて顔を上げると……

「約束したでしょ? 迎えに来たよ」

 遠目から見てもやばかったイケメンが、そこにいた。
 あの、これで女子は反則。
 まだ男子であった方が、よっぽど説得力があるレベル。

「今日からは一つ屋根の下、よろしくね」
「へ?」
「「「きゃあ――――ッ!」」」

 なぜか、僕より周囲がざわめきだす。

「凪咲様と……まさか、今年の学生寮への入居者!?」
「条件一切不明の、あの!?」

 がくせいりょう……?
 僕が頭にクエスチョンを増やしていると、琴音が肩をポンポンと叩いてきて

「春樹、春樹ッ! いつの間に、あの学生寮に入居が決まったの!?」
「いや、僕も初耳っつーか」
「サプライズってモノよ。わかってくれるかな、柚葉琴音ちゃん」
「ひゃ、ひゃいぃ……!?」

 わー、琴音ってそんな声を出せたんだ。
 それはそれで、ちょっと可愛いと思った僕は、相当なのかもしれない。
 僕も、かっこよくキュンできる雰囲気や仕草で、彼女に……

(ん? 雰囲気? 仕草?)

 何かが、引っかかる。
 いや、この感覚……アルフレッドさんの時と、若干似ているような。

(いやいや、そんな都合がよくというか、まさか執事喫茶部のどっちか?)

 思ってしまったら、疑惑が拭えなくなる。
 なにせ、前例が小学3年生だ。

「ま、まさか……!?」
「やっと察したね? 帰るよ」

 ぎゃー、確定―――ッ!
 この人がスミスさんだ。女性だったの、うっそだろ。
 あのメンツの中で、順位をつけるなら一番イケメンだと思っていたのに。

「ごめんね、柚葉琴音ちゃん。彼への尋問は明日以降で」
「え、え、えっと、は、はいぃ……か、かっこいい、って、ちが、あの!」

 複雑ッ!
 目の前にいる人物の正体を察したがゆえに、複雑!
 お願いだよ琴音、そんな、とろけたような顔しないでー!

「くくっ、大丈夫だよ佐藤くん」
「なにがですか」
「彼女の反応は、あたしへの恋じゃない。アイドルへのそれみたいなものさ」

 そういいながら、僕の肩に手を回す。
 さりげない動作が、ホント、下手な男子よりも紳士的でカッコイイ。

「さて、行こうか?」
「明日……質問攻め確定なんですが」
「おや、堂々としていれば何も問題はない。違う?」

 はい、ごもっともです。
 あなたさまからの、立ち振る舞い講座でよ―――っく、学びましたから。