執事じゃないと言えないコト

「さぁさぁ、春樹くんの正式入部を祝って~」
「「かんぱーい!」」
「って、執事喫茶部の営業を止めてまでやることですか―――ッ!」

 テーブルには大量のお菓子とジュースが。
 お客様はゼロ。
 むしろ、僕が執事喫茶部を貸切っている状態になっている。

「新人を歓迎するのは、先輩としての務めだ。違うか?」
「いや、暖かく迎えて頂けたことは嬉しいですよ!?」
「わたくしたちも、新たな部員が増えて嬉しく思います」

 と、語るのは表情の変化がなさそうな印象だったスミスさん。
 参謀っぽく堅物かと思えば、意外と表情は豊か。
 ウキウキした空気は、他の2人よりもよくわかる。

(ちょっと意外な側面に気づいちゃったかも)

 でも……この人たちも、アルフレッドさんみたいに、意外な秘密があるんじゃ。
 すでに『中学生かとおもったら小学生』をやっている以上は、ね?
 正直、残り2人も学園外の存在です! って言ってきても驚かない。

「はいはーい! 先輩方、早く春樹お兄ちゃんの執事名を決めませんかッ!」

 で、僕が若干の疑心暗鬼になった元凶が、執事名について話題を出してきた。
 って、あ、そうか。
 契約内容その2、『部活動中は、執事名で活動すること』
 ここで活動するなら、それを決めないといけない。

「ではまず、当人の意見を聞こう。ご希望はあるかい? 新人くん」
「え、えーっと……」

 ぱっ、と思いつく名前は、一通り取られちゃってるんだよなー!
 セバスチャン、アルフレッド、スミス。
 どれもこれも、思いつくとしたらこれ! のトップ3じゃん。

「うぅ、ボキャブラリーセンスの無さに、僕はいま、打ちひしがれている……ッ」
「ふむ……そうですね。では、こちらの参考資料はどうでしょう」

 スッ、と1冊のノートを差し出してきたスミスさん。
 この人、本当に的確にフォローしてくるよな。
 参謀は気配り上手なのか……いや、先の先を見推して動いているだけかも。
 受け取ったノートを広げ、そこに書かれている名前をざっと見てみる。

 ジェームズ:英語圏で最も一般的かつ伝統的な『執事の代名詞』
 アルバート:高貴で誠実な印象を与える。
 ローレンス:優雅で落ち着いた、大人の余裕を感じさせる響き。

「い、いろいろあるんですね……」
「ちなみに、オレのおすすめはコレな」

 セバスチャンさんは、『セシル』という名を指さす。
 えーと、意味は……中性的で繊細な美しさを感じさせる名前……

「僕は男です―――っ!」
「そりゃわかってるけどよ、やっぱり個性は大事だしよ」

 アルフレッドと方向性の丸被りはよろしくない。
 と、セバスチャンさんは言い切った。
 ちょっと待った。

「反論します! 弟系のアルフレッドさんとは差別化できます!」
「え!? せっかく同じ可愛がられ枠仲間として頑張ろうとしてたのにっ」

 春樹お兄ちゃんヒドイ!
 と、目を潤ませて泣きそうな表情を浮かべるアルフレッドさん。
 ……うっ、罪悪感が妙に刺激されるのは、彼が小学生だと知ったせいか。

「ご、ごめん、アルフレッドさん。泣かないで!」
「春樹さん。彼のソレはウソ泣きですよ」
「あっははー、そいつはホント調子が良いからな、アルのヤツはよ」
「え?」

 セバスチャンさんたちの指摘で、僕はジトォーと彼を覗き込む。
 右手に隠し持っていたのは……目薬。

「ウソ泣きっ!」
「あ、バレたー」
「バレたー、じゃな――――い!」

 ダメだこの小学生。悪ガキだ。
 最初からその雰囲気はあったな、うん。

「では、わたくしからのご提案。オリバー、はいかがでしょう」
「オリバーか。それもよさ……」

 ノートに目をやり、僕は言葉が途中でとまった。
 オリバーは、癒やし系ポジションを狙うのに最適! と書かれていたからだ。
 違う、そうじゃない。

「僕、琴音に告白できるぐらい自信ある男になりたいんですけど―――ッ!」
「おや。女性が落ち込んだ時、そっと寄り添って癒すのも大事な役目ですよ」
「そうかもですけど……それはやって当然というか、やって普通というか」

 琴音が本気で落ち込んでいたら、笑顔になって欲しいし。
 気が済むまで愚痴を聞いたりとか、暴飲暴食に付き合うとかさ。
 そういうのなら、僕だっていくらでもやってきたよ!

「騎士のようにかっこよく彼女を守りたい、と」
「そう、ですね。スミスさんのそれが、一番しっくりくるとおもいます」

 誰でも出来ることじゃなくて、僕にしかできないこと。
 それが欲しいんだ。
 だからこそ、琴音の一番星を目指したいわけで。

「う~わ~、無自覚ってこっわ」
「だよな。彼がいう『普通』も、大半の男子はできてないぞ……?」
「? なにをこそこそ喋っているんですか、2人とも」
「「いや~、なにも~」」

 ……? 変なセバスチャンさんと、アルフレッドさん。

「よし、ではわたくしから、さらなる提案をいたしましょう」

 そんな彼らをスルーして、スミスさんはあるページを指さした。

「ベディヴィエール。略して、ベディ、というのはどうでしょうか」
「えっと……名前の由来は……円卓の騎士?」
「そうです。最も誠実で信頼された、王の側近(執事)たる騎士の名となります」

 ベディヴィエールは、円卓の騎士の中でも最古参のメンバーの1人。
 王の執事として、リラックスして本音を話せる数少ない理解者。
 隻腕の騎士として、王の片腕となって支え続けた。

「キミは、柚葉琴音にとって幼馴染のお友達であり」
「リラックスして話し合えもしてるよね~」
「となれば、『一番星』という名の『側近(執事)』がベストかと」

 パァ、と目の前に映る文字が、輝かしく見えた。
 直感で分かる。
 この名前にすべきだと。

「これにします! 僕は、ベディヴィエールの名を拝命します!」
「くくくっ、ノリがいいねぇ春樹くん。いーや、ベディ」

 セバスチャンさんは立ち上がり、僕の前までくる。
 どこから取り出したのか、1着の執事服を差し出しながら

「改めて、ようこそ! 我が執事喫茶部へ」
「……はいっ!」