執事じゃないと言えないコト

「男が暴力で解決とか、超だっさー。お兄ちゃんさー、心がブサイクすぎ」
「「「ねー!」」」

 みんながクスクスと笑うと、先輩はカァと顔を赤くしたかと思うと

「生意気なやつらだな……ッ、腹が立つ」

 体を僕から、子供たちに向ける。
 そのまま、1歩踏み出すのを見た瞬間

(まずい!)

 思わず、体が動いた。
 必死に両足を動かして、僕は先輩を追い越し、子供たちの前に立つ。

 ―――バキッ!

 鈍い音と共に、右の頬に痛みが走った。

「なっ!?」
「っつ……先輩。さすがに小さい子たちにまで手を上げるのは、最低かと」
「ちっ! 勝手に前に出てきたのはテメェだ! 俺はわるくねぇからな!」

 思いっきり僕を突き飛ばし、どこかへ走り去ってしまった。
 ほんと、なんだよあの人。

「名前も名乗らないし、暴力まで。琴音は……なんで、あんなやつと……」

 痛む頬をおさえながら立ち上がると。

「お兄ちゃん、大丈夫!?」
「ごめんなさい、わたしたちは助けたくて……」
「うん、分かってるよ。みんなもごめんね、怖い思いをさせて」

 少し泣きそうなみんなに、大丈夫だとジェスチャーをした。
 すると、1人の少年がハンカチを差し出してきた。
 ツンツンヘアで、活発さと生意気さが程よくミックスした感じの子だ。

「唇、切れてる」
「え!? あ、いや、軽く水でゆすげばだいじょう……」
「使って。元はと言えば、ボクが最初にアイツを挑発したせいだし」

 無理やり、ハンカチを押し付けられる。
 これは、好意を無碍にしちゃダメだよな。

「ありがとう。洗って返したいから、名前……」

 僕がすべてを言い終える前に、パタパタと誰かが走って来る音がした。

「ここで、誰かが殴られてるって聞いたんだけど……佐藤くん!?」
「あ、先生。大丈夫です、ひどくないはずです」
「ダメです! すぐに病院に行きなさい!」

 無理やり立たされて、僕はそのまま病院へ。
 おおげさだと思うんですけど―――ッ!
 あと、ハンカチをくれた男の子から、名前を聞きそびれた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 日付は変わって、月曜日。
 僕は右頬に湿布を張った状態で、旧校舎1階の大会議室を目指していた。

(結局、ヒントは何も得られなかった……期限は明日、どうしよう)

 落ち込む気持ちを何とか振り払い、目的の場所へ。
 アルフレッドさんは、既に到着しているだろうな。
 そう思いつつ、部室のドアを開ける。

「失礼しまー……あれ?」

 室内には、誰もいなかった。
 一瞬、呆気に取られてしまうも

「いや、どこかに絶対、隠れているでしょ。アルフレッドさんならそうする」

 弟系に恥じぬ、お茶目というかいじわるが得意な彼だ。
 絶対に、かくれんぼの如く、身を潜めているはず。
 ソファやテーブル、カーテン裏などを、くまなく探している時だった。

「はーるきお兄ちゃん」
「うわっ!?」

 急に声をかけられ、軽く飛び跳ねてしまう。

「びっくりし……え、あれ……キミ……」

 そのままの勢いで後ろを向くと、そこにいたのは土曜日の学園見学に来ていた子。
 もっと言うなら、例の先輩に対して真っ先に挑発した子がいた。

「こんにちは!」
「う、うん。こんにちは」
「ハンカチ、返して貰いにきました!」
「あ、あぁ。うん、ちゃんと洗濯済みだよ」

 僕は慌てて、懐から目的のモノを取り出そうとした。
 が、その瞬間に1つの疑問が思い浮かぶ。
 なぜ、この少年は、今この場所にいるのか。

(僕からハンカチを受け取る、にしては不自然……だよな)

 となれば、理由があってここにいる。
 そこまで考えて、ふと、あることに気づいた。
 いや、まさか。
 まさか……とは思うけど、いやいや? でも……

「~~~、悩んでも仕方ない!」

 僕は、まっすぐに少年の目を見て告げる。

「キミ、アルフレッドさんですよね……?」

 さっき、彼は僕の名前を呼んだ。
 苗字ならば聞いていたはずだ、先生が駆け付けた時に。
 でも、名前を名乗ったことはない!
 他にも判断材料はあったけど、これがトドメというか自白だよね。
 僕が無言で彼を見つめると、降参かのように肩をすくめた。

「ピンポーン♪ せーいかーい」

 と、満面の笑顔で言った。
 わーい、当たった~!
 じゃ、な―――――――いッ!

「見た目ッ!」
「我が執事喫茶部の契約内容、思い出して~? 正体は明かすべからず」
「3年生って言いましたよね!?」
「中学の3年とはいってませーん。やーい、ひっかかった~、残念でーした♪」

 ああああ、これだよ、この言葉!
 琴音の彼氏である先輩にいった、あの言葉がアルフレッドさんっぽかった!

「おっ、アルフレッド。テストは合格っぽいか?」
「はーい、セバスチャン先輩! ボクから花丸あげちゃいまーす」
「おやおや、それは最高評価ですね。おめでとうございます、佐藤くん」
「ですよね~、スミス先輩。なのにさー、本人が喜んでなくてぇ~」

 いつの間にか、先輩(暫定)の2人も部室内にいるし。
 僕は無言で、ハンカチをアルフレッドさんに手渡し……

「小学3年生?」
「うん。この学園に入学が確定しているので、先に部活やってまーす!」

 ふらりっ、と倒れそうになる。
 この執事喫茶部、想像以上に頭がおかしい部活なのかもしれない。

「まぁ、それは一応建前で」
「ん?」
「ボクさ、早く大人になりたいんだ。だってその方が自由じゃん?」
「まぁ、確かに。お金とかあるし、勉強しなくていいし」
「でしょ? だからさ、ここでちょっとだけ背伸びして、先の光景をみてるんだ」

 思いっきりが良いなぁ……
 でも、早く大人になりたい、そっちの世界に行きたいのは分かるかも。

「で、アルフレッドっていう、賢明で完璧超人な執事な名前を貰ったんだ!」
「そんな由来があったの!?」
「とある有名な作品でね。執事あるあるネームの1つさ」

 へぇ~、ちゃんとそういう背景とか考えられているんだ。
 ちょっと意外というか、驚いた。

「そりゃ、中学生の精神面はボクらと大差ないなー、って思う時はあるけどさ」
「あっははは……マセガキだよ、その発言は」
「だってそうじゃん。殴ってきた人とか、小学生以下だし」

 あー、それは否定できないよな。
 暴力は駄目だって、どんな理由だって。

「同時に、やっぱりカッコイイと思ったよ。春樹お兄ちゃんをね」
「アルフレッド……さん……」
「庇ってくれてありがとう。かっこよかったよ!」

 アルフレッドさんは笑顔でお礼を言った。
 ……あー、僕って結構単純。

「どういたしまして。怪我がなくて良かったよ」
「お兄ちゃんは勲章ってやつだね! 勇気ある行動の怪我は、そういうんでしょ?」

 彼が無事だったから、まぁいっか。