執事じゃないと言えないコト

 翌日の土曜日。
 部活動でもなければ、学園に来る理由はないけれど……

「放課後と同時に部室へ行く人なんて、絶対に目撃されている」

 昨日、帰宅してから僕は必死に考えた。
 彼らは、執事喫茶部で執事をやっていることを秘密にしている。
 これこそが、アルフレッドさんが一番乗りする理由につながるはず。

「人数は少ないけど、休日部活の人たちに聞き込みすれば!」

 気合を入れ、歩き出した時だった。

「春樹?」

 ドキッ、と心臓が跳ねた。
 頬が熱くなる感じもしてくるし、うわー、うわー!?
 なんで今日、学園にいるんだよ――――ッ!
 スーハ―、と深呼吸をしてから、平静を装い僕は後ろを見る。

「お、お、おはよ……う……琴音」

 そこにいたのは、柚葉琴音(ゆずはことね)
 僕の幼馴染であり、一番星になりたい相手。
 あ―――、今日もめっちゃ可愛い。
 普段はしないポニーテールがまた良い、最高ッ。
 テニスをやってる時しか見れないのが、勿体ないんだよな。

「なに驚いているの? 急に声かけたからビックリしちゃった?」
「あ、っと……うん、ビックリは、した」
「ふふっ、変なの。というか、春樹も部活? どこに入部したの?」
「いや、まだ……入部はしていないけど、候補は」

 執事喫茶部への入部テストだとは言えないので、笑ってごまかす。
 すると、ふぅ~ん? と、いぶかしむように琴音が見てきた。
 うぅ、僕、彼女に嘘つくの苦手なんだよな。
 話題! とにかくポカする前に、話題を変えないと!

「こ、琴音はテニス部に予定通り入部したんだよね。練習?」
「うん。期待の新人ってことで、大会に出る? って言われてるの」
「すごい! さすが琴音。ずっと練習してたもんな」
「褒めても何も出ないよ~、春樹。本当に出られるかはこれからだし」

 頑張らないと! と、笑顔で答える琴音。
 やっぱり、彼女の笑顔はいつ見ても可愛い。

「わー! すっげー!」
「ナイススマッシュー!」

 ふと、にぎやかな声援が聞こえてきた。
 そちらに視線を向けると、小学生っぽい子たちがいた。

「あの子たちは?」
「近くの小学校に通う子たちの見学だって。将来、うちの学園に入学希望の」
「へー。学園祭以外でも、そういう機会があるんだ」

 楽しそうに見学する小学生たちを見ると、思わずほっこりする。

(琴音と同じ学校に行きたいって、頑張った思い出が蘇るな……)

 私立聖鳳学園は、県内でも屈指の進学校。
 受験勉強はめっちゃ苦労した……なので、頑張れよ……!
 と、思わず心の中でエールを送ってしまう。

「変な感じよね。私たちも、ついこの前までは小学生だったのに」
「確かに。中学生になったら、いろいろ変わると思ったけどさ」

 ……いや、僕はあったかも。
 チラリと琴音を見る。
 先日、先輩に告白されていたけど、結局どうだったんだろう。
 受け入れたのか、断ったのか。

(……聞くのが、怖いな)

 1歩を踏み出せない自分に、悔しさを覚える。
 やっぱり、今のままじゃ駄目だ。
 ちゃんと……彼女をまっすぐ見て、気持ちを伝えられるようにならないと!

「よしっ! 琴音、練習頑張ってね」
「えっ……春樹、もういっちゃうの?」
「うん。もともと用事があって学園に来ていたから」

 じゃあ! と、僕は琴音に手を振って学園の方へ。
 テニス部に聞くのは後回しとして、吹奏楽部あたりにしよう。
 そう考えながら玄関で靴を脱いでいた時だった。

「おい、そこのお前」
「はい?」

 突然、知らない男子生徒に声をかけられた。
 ……いや、違うな。

「お前が佐藤春樹か」
「そうです、けど」

 先日、琴音に告白していた先輩だった。
 うわぁ……なんでこのタイミングで僕に話しかけてきたんだ?

「ちょっと、こっちに来い」
「え、いや、僕は用事が」
「いいから来やがれ!」

 有無を言わさず、僕の右腕を掴んで強引に連行する先輩。
 かなり痛いんだけど!?

「なんなんですか、先輩!」
「お前、琴音の幼馴染だったよな」

 うわ……もしかして、やっぱり琴音は彼の告白を受け入れたのかな。
 で、彼女に近づく人がいたから、めっちゃ睨んでけん制を……

「彼女に近づくな、喋るな、顔も合わせるな、SNSも全部ブロックしろ」
「……へ?」
「すっとぼけんな。あいつの彼氏は俺なんだよッ!」

 琴音……やっぱり、この先輩と付き合ったんだ。
 その事実を突きつけられて、ズキリと胸が痛む。
 ……だけど

「お断りします。第一、そこまで彼女を束縛する権利は、あなたにも無い!」

 こんなヤツが琴音の彼氏ってのが、すごく、ムカつく!
 もっと性格が良くて、凄いお似合いな感じかと思ったら。

「んだと……!?」

 突然、肩を掴まれる。
 そのまま、力強く壁にガンッ! と、押し付けられた。

「いつっ……」
「なめた口をきくんじゃねーぞ、この野郎」
「少なくとも、こんな乱暴をする人を、琴音が好きなるとは思えないんだけどね」
「言わせておけばッ!」

 先輩が、大きく右腕を上げる。
 殴られるッ!
 そう思って、条件反射で目をつむった。

「あ――ッ! いーけないんだー、いけないんだー、暴力はいけないんだー!」

 そこに、知らない声がこだまする。

「キャー、怖いけど漫画みたーい! 野蛮ー!」
「せんせーい、大変でーす! ぼーこー現場ってやつでーす! 事件でーす!」

 声の主を探ると、そこにはさっきまでテニス部を見学していた小学生たちがいた。