執事じゃないと言えないコト

「何って、書かれている通りだが」
「おかしいですよ、契約を破ったら退学ってッ!」

 他2つは、目の前の彼らの言動から、そうなんだってのは分かる。
 そうする理由はわかんないけどね。
 でも、退学はあまりにも唐突すぎるッ!

「別におかしくないじゃん。だって、正体バレたら大変だしさ~」
「普通に学生生活を送るだけだよね。アイドルが学校にいるみたいに」
「ノンノン。違うなぁ、砂糖のように甘いぞ、佐藤春樹くん」

 それは、僕の苗字でダジャレいってます?
 サトウなだけに、って言わないあたりが厄介だ。

「わたくしたちが執事であるとバレると、学業に支障が出ます」
「なんで」
「よく考えてください。執事は主に仕える。その主が命令すると……」
「それを聞かなきゃいけない……あっ」

 授業中に、この問題の答えを教えて! とか。
 代わりにテスト受けて、とか。
 何なら、購買部でお前のおごりでなんか買え、とかそういう!?

「それだけじゃねぇ。オレらの部活は、喫茶店でもあるからな」
「一応、お金取ってるよ。格安だけどね~」

 テーブルを見ると、確かにメニュー表がある。
 コーヒーやジュースなどの飲み物は、50円。
 ケーキ類も、軒並み100円と超破格。

「『学園生が金儲けやってます』ってのは学園的によろしくないんだ」
「なので、外部の人間が許可を得て営業しているという、建前がいるのです」

 じゃあなんで、こんな部活があるんですか。
 ポスターとか貼ってありますよね。

「事情を差し引いても、やっぱり退学処分は暴論じゃ……」
「キミの覚悟はその程度、ということでしょうか?」

 うろたえる僕をしり目に、スミスさんがそう問いかけてきた。
 覚悟って……

「退学程度で諦める恋、なのですね」
「ち、ちがっ……違うッ!」

 そりゃ、突然の単語には驚いたよ。
 驚いたけど、それぐらいの覚悟は、ちゃんとある!
 僕はスミスさんをしっかりと見て宣言する。

「その程度じゃない。絶対に!」
「じゃ、契約書の内容は全く問題ないよね~」

 はいっ! と、差し出された契約書と高級そうな羽ペン。
 まだ全部はしっかり読んでないんだけど……えーい、ままよ!
 僕はサラサラと、契約書に自分の名前を書き込む。

「セバスチャン先輩~! 契約書、受理しました!」
「よし、じゃあ次は入部テストだ」
「普通さ、契約書を交わす前にしない? テストなんてものは」

 この人たちに敬語を使うのが、あまりにも馬鹿らしい。
 というのもあるけど、つい、心の声が口から出てしまった。

「順番は逆だが、結果は同じになる。おっけぃ?」
「まさか、あれだけのおおみえを切った上で、合格できないと?」
「うひょー、スミス先輩追い打ちえげつね~、けどまぁ、その通りかな~」

 と、セバスチャンさんたちは悪い笑顔で言う。
 少しだけ、この部で変わろうと思ったことを後悔しそうになる。

「テストの内容は至ってシンプル」

 セバスチャンさんは、ゆっくりと指先をアルフレッドさんに向けた。

「1週間以内に、アルフレッドよりも先にこの部屋に来い。以上だ」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 それのどこがテストなのだろうか。
 楽勝じゃん、部室であるココに一番乗りするだけなら。
 ―――と、思った自分を、殴りたい。

「失礼します!」
「やっほー、佐藤くん。今日もボクより遅かったね~」

 本日で入部3日目の放課後になる。
 しかし、僕はアルフレッドさんに全敗を喫していた。
 おかしい。
 授業を終えて、ホームルーム終了即ダッシュをしたのに。

「アルフレッドさん、何年生ですか!? なんで早いんですか!」
「3年生だよ~。ボクだって普通に来ただけだし」

 キミと何も違いはないよ~。
 と、アルフレッドさんは、余裕の笑みを浮かべている。
 よくよく見ると、既に執事服を着替え終えているし。
 学園の構造からして、移動距離に差は無いはずなのに。

「まさか、授業をさぼって……」
「失礼だな~! 執事たるもの、勉学も常に完璧でなければ」

 主君の顔に泥は濡れない。とプンスカおかんむりである。
 行動の端々が、本当に年下か弟だよなー……この人。
 というか、年上に見えないんだけど、3年生って。

(先輩、という単語がここまで似合わない人は初めて見たかも)

 特に見た目とか、体格かな。
 僕よりも身長がかなり低い。

「……アルフレッドさんって成長期まだなタイプ?」
「わーお、いきなり人の身長ディスるとは、良い度胸な後輩だぁ~」
「あ、いや!? ディスってるんじゃなくて純粋に気になって!」

 単純に成長期がまだなだけ、だよな。
 目測だけど、10センチ以上の身長差があるんだけど。
 他2名と並んだら、連れ去られた宇宙人、というか。

(そういえば、セバスチャンさんとスミスさんは、まだ来ていないのか)

 ハッキリと聞いてはいないが、2人とも上級生なのは確実だ。
 部長であるセバスチャンさんなんかは、3年生の可能性が高い。
 なのに、彼だけ堂々とこの場にいるのは……

「やっぱり、授業をサボって……?」
「ひっどーい! どうして2度も疑うかなー!?」

 うーん、よくわからない。
 けれど、アルフレッドさんだけが先に来る謎が解けないとダメだよな。
 どこかにヒントぐらいは、絶対にあるはず。
 僕は、ジーっと執事喫茶部の部室内を動き回るアルフレッドさんを見る。
 手際のよい、お茶とスイーツの準備。
 丁寧な部屋の掃除などは、執事として実に完璧だけど。

「ねぇねぇ。なんでも聞いてみちゃうんだけどさ~、佐藤くんはスイーツ好き?」
「へ? あー、うん。まぁほどほどに」
「作れたりする?」
「少しは」
「なになにー? 何が作れるの?」
「スフレパンケーキ。その……好きな子にとって一番の好物で」
「わー! それで頑張って練習したんだ。これはメニュー入り決定かも」

 アルフレッドさんは一人納得し、うんうんと頷く。
 しかし、すぐに時計を見て

「おっと、そろそろオープンのお時間だ。テスト中の佐藤くんは帰った!」
「へ? うわわわっ!?」

 ぽいっ、部室から投げ出される。
 見た目に反して、めっちゃチカラあるよなー、この人!

「明日は土日だから部活動はないし、また月曜日ね!」

 バイバーイ♪ と、扉が勢いよく締められる。
 マジで、どうしようこれ……いきなり退学の危機じゃん。たぶんだけど。
 あと、1つ素朴な疑問として。

「セバスチャンさんとスミスさんも来てないのに、喫茶をやるのかよ!」