執事じゃないと言えないコト

「対応って……」
「遊び半分で来る馬鹿はいるんだよ」

 女子にモテたいとか。
 人気者になりたいとか。
 と、セバスチャンさんは不機嫌そうにいった。

「そんなやつらは客じゃねぇし、主君でもない。おっけぃ?」
「お、オッケーです」

 なんだか、どんどん口調が悪くなっているような。
 もしかして、セバスチャンさんの素はコレなのだろうか。

「佐藤春樹。クラスは1-A、成績は中の中、運動神経は無し寄りの普通」
「うえっ!?」
「これといった趣味無し。特技無し。ただ顔つきは可愛らしい」
「がふっ!」

 ず、ズケズケと僕が気にしていることを……ッ!
 執事って、主君だけじゃなく周囲にも丁寧なものでは?

「幼馴染に、今年の入学生で一番の美人で完璧な子がいて、キミは彼女が好きと」
「な、なんで、それ、僕は誰にも……!」
「執事の目は欺けない」

 再び、鋭い視線が僕を射抜く。
 嘘偽りは、通じない。

「いるんだよ。執事になれば紳士的な立ち振る舞いで、己を過信するヤツ」

 図星を突かれて、ドキッ、とした。
 本当に、セバスチャンさんはどこまで見抜いているんだ……!

「好きな子に惚れられたいのならば、別に執事喫茶部じゃなくてもいい。違うか」
「……ッ」
「今から運動部で、死に物狂いで練習するのも全然アリだ」
「勉強を頑張るのも手ですね。学園トップになれば、間違いなく好感度アップ」
「はいは~い! 普段からレディファーストするだけでも、全然いいはず!」

 セバスチャンさんに続いて、スミスさん、アルフレッドさんがそういった。
 彼らのいうことは、もっともだと思う。
 好きな人に振り向いてもらう、自分に自信を持ちたい。
 そういう意味なら、執事喫茶である必要性は、皆無ではある。

(でも、理屈じゃないんだ……!)

 僕は意を決して、顔を上げる。

「部活動の勧誘ポスターが張られている掲示板を、みたんです」
「ほぉ、アレを」
「いろんな部活の、たくさん勧誘文句が並んでいました。その中で……」

 ポスターが、ひときわ豪華だったわけじゃない。
 ちゃんと探せば、もっと印象的なものは絶対にあった。
 それでも……

「惹かれたんです! それしか見えなくなるぐらいに、書かれた文字に!」

 僕は、確信したんだ。
 何も誇れるものがない。
 勇気を出せるなにかが欲しい。

「『誰かの一番星にならないか』……その言葉に、僕は背中を押された」

 そんな悩みを、一瞬で吹き飛ばした言葉。
 踏み出す勇気を貰ったような、励まされたような。

「彼女の一番になることを、諦めたくないんだって!」

 だからこそ、告白する勇気が欲しい。
 何者かになれたなら、例え受け入れられなくても、気持ちを伝えるのだと。

「それを気づかせてくれた執事喫茶部で……僕は、ここで、自分を変えたい!」

 どこでもいいわけじゃない。
 この執事喫茶部で、変われる。
 そう確信したんだ。

「くっ……くっくくく……あっははははは!」

 僕の本心をぶつけると同時に、セバスチャンさんは笑い出した。

「ははははっ……いやぁ、ここまで馬鹿正直なド直球とは、恐れ入る」

 まだ笑い足りなかったのか。
 彼は肩を震わせながらも、少し嬉しそうだった。

「ふふ。とてもピュアで、可愛らしいじゃありませんか」
「あまりの純粋っぷりにボクちょっと、視線を逸らしたくなったよ」

 スミスさんは微笑ましそうに。
 アルフレッドさんは、なぜか嫉妬が見え隠れする表情をしている。
 あの、特に後者の感情がよくわかんないんですけど。

「よし、まずは自己紹介よろしく」

 はっ!? そうだった。
 普通に僕の名前を呼ばれていたけど、自己紹介まだじゃん。

「1年の、佐藤春樹です。よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしくな。次、契約書へのサインと入部テスト」
「はい!……え? けいやく、しょ? テスト?」

 勢いよく返答したが、出てきた単語がおかしい。
 入部テストは、100歩譲って分かるよ。
 立ち振る舞いや、言葉遣いとか、そういうものに適性があるとかさ。
 でも、契約書って……

「えっと、なんでしょうかソレ」
「うちの部な、こう見えて学園内でも特殊なんだ」
「でしょうね」

 執事喫茶だし。
 今、目の前にある紅茶とかお菓子って、タダじゃないだろうし。
 学生向けで商売している可能性は、あるよね。

「だから、この契約書にサインが出来ないなら、論外中の論外だ」

 と、セバスチャンさんが1枚の紙を手渡してきた。
 そこに書かれていたのは

【執事喫茶部に入部する者は、以下の契約項目を厳守すること。

 (1)お客様に正体を知られてはならない。また、明かしてはならない。
 (2)部活動中は、執事名で活動すること。本名を名乗るべからず。
 (3)上記の項目を破った場合、学園を退学すること。

                             以上】

「なんですかこれぇ――――――ッ!」