執事じゃないと言えないコト

「はっ、琴音の執事だぁ? 笑わせるな」

 鼻で笑いながら、小竹先輩は自信満々な表情を浮かべる。
 そのまま、ビッ、と僕に向けて人差し指を向けた。

「ここは執事喫茶なんだろ。訪れる客に対しての執事なはず」
「なるほど。ただ1人に対するのはおかしい、と?」
「わかってんじゃねーか、矛盾野郎」

 うーん、流れるような悪口と罵倒。
 思わず僕は笑ってしまう。

「……なんで笑うんだ、おい!」
「いえ、本当に自己紹介がお上手だなと」
「あぁ?」
「先ほどのやり取りで、誰がどう聞いても矛盾していましたよね」

 付き合ってない、ペアも断ったといった琴音。
 対して、自分は彼氏であると宣言した小竹先輩。

「ご自分のことを棚に上げるのが、実にお上手なようで」
「ッ! ほんと、うぜぇ!」
「言葉のレパートリーも少ないご様子」

 おー、どんどん青筋が増えてゆく。
 ピキピキと頬を引きつらせながら、彼は僕を睨む。
 この程度なら、全然怖くない。
 正直、スミスさんの指導の方がよっぽど怖いし!

「……テメェがそこまでして、琴音につけこむ理由はなんだ」
「はい?」
「ただの執事の分際で、何の権利があって邪魔するんだって聞いてんだ!」

 権利?

「執事なんて、女どもからキャーキャー騒がれて、ちやほやされるだけ」

 ……なんだって?

「ただの女遊びする馬鹿男子じゃねーか。そんな奴、琴音にふさわしくねぇ!」

 こいつ、ふざけているな。
 僕を馬鹿にするだけなら、まだいい。
 だけど、琴音だけでなく、セバスチャンさんたちまで……!

「僕が、彼女を好きだから。これ以上の理由はいらないだろ」
「…………は? え?」
「ですから、僕は、琴音お嬢様が好きです。お慕いしております」
「はああああ!?」

 叫び声をあげる小竹先輩を無視し、僕は琴音に向き直る。
 そのまま、片膝をついてゆっくりと彼女を見上げた。

「琴音お嬢様。あなたのことが好きです、初めてお会いした時から、ずっと」
「えっ……あ、あの……」

 心からの本心。
 ずっと、自分に自信がなくて、伝えられなかった思い。
 だけど、そんなのは僕が最悪の結末を怖がった、ただの言い訳だ。
 今言わないで、いつ、言うんだ!

「僕で良ければ、お付き合いをしていただけませんか?」

 振られた時は、その時だ。
 しばらくは立ち直れないだろうけど、気持ちの整理をつけて、きっぱりと……

「わ、私で……良ければ。よろしくお願いします、ベディさん」

 琴音のことを諦め……え?
 思わず彼女を凝視してしまう。

「ほ、本当、ですか」
「はい。実は私も……ずっと、一目惚れだったんです。だから」
「はああ―――――――ッ!? 冗談だろ、ふざけんな!」

 自分の考えがまとまるより先に、小竹先輩が絶叫する。
 そのまま、ダッシュでこちらに近づいてきた。

「俺を無視して、こんなやつが好きとか、ほんとテメェは……!」
「っ! 琴音!」

 僕は立ち上がり、琴音を庇うように前へ。
 振り上げられる右の拳。
 ……この前は、そのまま殴られたけど

(そうそう何度も、やられてたまるか!)

 しっかりと相手の拳を見て、いまだ!
 がっ! と、僕は小竹先輩の暴力を掴み、防いだ。

「どうしようもなくなったら暴力ですか。ワンパターンがすぎる」
「なっ!……てめぇ、なまいきだぞ!」
「はーい、そこまで!」

 すべて言い終わるよりも先に、別の声が聞こえた。
 同時に、ガシッ、と小竹先輩の両腕を拘束する人たちが。

「セバスチャンさん!? スミスさん!?」
「決着はついたからな。哀れな敗北者にはご退場願おう。おっけぃ?」
「なによりも見苦しい。ここは神聖な場所、いつまでも居られたら困ります」

 うわぁ、二人とも良い笑顔。

「離せ! てめぇら、ただじゃ……」
「おかないのはボクらのほうでーす♪ まわり、見てみなよ」

 アルフレッドさんの言葉を聞いて、僕もあたりを見回す。
 すると、ここに来てる全てのお客さんが、スマホを構えていた。

「今までの蛮行、ぜーんぶ撮影&録画済み。これ、先生たちに見せちゃうよ?」
「退学程度ですみゃいいなぁ? あっはははは!」
「進学にまで影響及びますね。3年でしたよね? あなた様は」

 まさか、役者は多い方が良いって……そういうこと!?
 ここにいる人たち、全員が小竹先輩をなんとかするための……!

「んだよ……俺はただ、テニスで最強になるためのパートナーが欲しくてッ!」
「だとしても、やりすぎです。彼女は……琴音にだって決定権はある」
「黙れ! 俺と組めば最強だった。顔も良いから、自慢できたってのに!」

 ほんと、言葉もでないとはこのこと。
 これ以上、彼と言葉を交わすことすらおっくうになる。

「ッ……! くそっ、くそぉお――――ッ!」

 セバスチャンさんたちに引きずられ、去ってゆく小竹先輩。
 同時に、琴音が涙を流しながら座り込んだ。

「ご、ごめん……やっと恐怖から解放されたと思ったら」
「大丈夫です。もう、貴女を怖がらせる者はおりません」

 だから安心してください。
 と、僕が声を掛けた瞬間。

「ヒューヒュー! かっこいー」
「いじめがいがある男の子が、立派な王子様とか、あたしでも惚れちゃうー」
「いいなー、うらやましー!」

 あれ? さっきまで協力者だったはずのお嬢様がた?
 なんでいきなり、お囃子隊みたいになってるの?
 ……というか、今になって恥ずかしくなったんですけど!?

「いや、あの! こ、琴音……お嬢様、ちょっと逃げましょう!」
「う、うん!」

 僕らは慌てて部室を飛び出す。
 途中、互いの顔を見て、笑うまで……走り続けた。