執事じゃないと言えないコト

「小竹のヤツ、完全にぶち切れてたぜ。偉いぞベディくん」
「デスヨネー……」

 執事喫茶部の部室へ到着と同時に聞かされた情報。
 それに対し、僕はそう答えるしかなかった。

「小竹先輩、どんな感じでした? セバスチャンさん」
「貧乏ゆすりと舌打ち、態度サイアクでクラスの空気が激重」
「わぁお」

 想像よりも、なんというか……

「小物だね~。ボクらを殴ろうとした時もそうだったけどさー」
「アルフレッドさん、直球」
「こーいうヒトに遠慮する意味は無いと思いまーす」

 気楽だなー、もう。
 けど、そうなると……

「琴音がマズイんじゃ……僕、このまま迎えに!」
「いえ、あなたは喫茶の準備をお願いします」
「スミスさん!? で、でも……」
「我々が何の準備もなく、その指示を出すわけがない。違いますか?」

 うっ、それを言われると、否定が出来ない。

「なーに、役者は多い方が良いってな」
「うんうん! ボクら、頑張ったから任せて♪」
「ベディヴィエールはいつも通り、キミらしく動けばいいだけです」
「は、はぁ……」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「お帰りなさいませ、お嬢様がた。今日も実にうるわしい」
「やだ、セバスチャンさんったら……」
「おかえり~! ボク、今日はコーヒー頑張って入れたんだ、飲んで欲しいな」
「「飲む―――ッ!」」

 執事喫茶がオープンすると同時に、あちこちから黄色い悲鳴が。
 いつもと変わらない光景。

(にしては、ちょっと今日は人数が多いような気もする)

 ……僕の気のせいかな?
 そんな疑問を浮かべている中、琴音も部活の友達と一緒に来訪した。

「ベディヴィエール」
「はい、分かっています。スミスさん」
「気を付けて。わたくしたちもいますので、堂々としていなさい」

 スミスさんの激励を受けつつ、僕は彼女らの元へ。
 その途中、すれ違いざまに

「いってこい」
「ファイトー!」

 バシッ、とセバスチャンさん、アルフレッドさんから背中を叩かれる。
 乱暴な励ましだなー……もう。
 そう思いつつ、僕は琴音たちに会釈をする。

「お帰りなさいませ、お嬢様がた。どうぞ、こちらへ」
「いつもありがとう、ベディヴィエールさん。ほーら、琴音!」
「はい、もっと前にでる!」
「ちょ、ちょっと、押さないでって……!」

 部活の友達にグイグイ押されつつ、僕の前までくる琴音。
 顔、顔が近い!?

「お帰りなさいませ。スフレパンケーキのご用意がありますが、いかがですか?」
「たべ、ます」

 少し速足で、彼女ら3人を案内する。
 そのままソファに座ってもらい、僕は紅茶の準備を始めた時だった。

 ―――バタン!

 激しい音と共に、執事喫茶部のドアが開く。

「どういうことだ、琴音!」

 やってきたのは、小竹先輩。
 額に青筋を浮かべながら、執事喫茶内を見渡し……

「勝手にストーカー扱いして! お前の彼氏だろ、俺は!」
「……ッ」

 思わず逃げたくなるような形相で、こちらに近づいてくる。
 琴音も、その恐怖から息を飲んだのが伝わってきた。

(まずい!)

 僕は立ち上がり、小竹先輩の前に立つ。

「んだよ、ストーカー執事め」
「それは貴方のことではありませんか?」
「黙れ! 知ってるんだぞ、琴音の家までつけまわって!」

 それは、お前の、ことだろ!?
 なんで僕のせいにしようとしているんだか。

「なるほど、良い自己紹介ですね」

 せいいっぱいの皮肉。
 ほら、よくあるじゃん。
 他人への悪口は、自分が言われて嫌なコト、もしくはやってる悪事。
 つまりは、自己紹介、ってこと。

「では、僕の方もいたしましょう」

 僕は背筋を伸ばしてから、軽く頭を下げ

「執事喫茶部の1年生。ベディヴィエールと申します。覚えて頂かなくて結構です」
「~~っ、コイツ!」
「あなたはお坊ちゃまではありません。土足で踏み込まないでいただきたい」

 そのまま顔を上げ、小竹先輩を睨む。

「主に危害を加えるのであれば、こちらも相応の対応をいたします」

 絶対に、琴音を守る。
 これ以上、彼女を苦しめたくないし、ちゃんとテニス部の活動もさせてあげたい。
 怖気づくな。
 僕はベディヴィエール。
 最も誠実で信頼された、王の側近(執事)たる騎士。
 王の執事として、リラックスして本音を話せる数少ない理解者だ。

「それで? お嬢様は怖がっておられますが」
「お前が、俺と琴音の間に入ってきたから、彼女が怖がっているんだッ!」
「……とのことですが」

 僕はゆっくりと琴音に向かった。
 出来る限り、怖がらせないように優しい笑みを浮かべつつ。

「本当ですか? 琴音お嬢様」
「あ、あの……私……」
「あなたは、助けを呼ぶことができます。できるのです」
「……!」

 僕の言葉に、彼女は大きく目を見開く。
 やがて、意を決したように口を開いた。

「……小竹先輩。私は、あの日、ハッキリとお断りしたはずです」
「琴音!?」
「テニスのダブルスでのペアを組むことも、あなたの彼女になることも!」

 琴音の言葉に、周囲がざわつきだす。

「それなのに、ずっと……ずっと付きまとって!」
「おい、琴音。待て、違うだろ、それは違う!」
「違いません! 怖かった……怖かったんです!」

 涙を流しつつ、彼女は僕の背に隠れる。

「だって、下手なことを言ったら、先輩、殴ろうとしてくるし……」
「ッ! 俺が、いつ……!」

 え? 自覚ないのこの人。
 僕ら(小学生の子たち含む)にも、拳を振り上げたよね。

「暴力沙汰になったら、部活だって……最悪、停止になるからッ、だから!」

 そうか、それもあって琴音は執事喫茶部に退避してたのか。
 他のテニス部員からの依頼で。

「……助けてください、ベディさん!」
「もちろんです、琴音お嬢様。僕は貴女の執事ですから」