事件は、突然起きた。
朝、クラスに足を踏み入れると、いつもと異なる雰囲気が。
(……なんだ? この感じ)
ざわついている。
妙な感覚だな。
(執事として、気を配る癖がついたから……なのかな、これは)
不信感と疑惑。
言葉にするなら、このあたりかな。
僕は周囲に目を配りつつ、自分の席へ。
クラスの視線が、どこに集まっているのか。
それをゆっくりと辿ってゆくと……
(え? 琴音?)
なんで、みんなが彼女に?
そう思った時だった。
「ねぇねぇ、柚葉さん。ちょっと聞いてもいい~?」
「なんですか?」
「彼氏をほっぽりだして、執事と浮気してるんだって?」
―――え?
僕は思わず、目を見開く。
それは琴音も同じだったらしく、驚いた表情をしている。
「なんのこと?」
「とぼけちゃってー」
「聞いたわよ。この前から、執事と一緒に帰宅してるって」
「彼氏の先輩、あちこちでめっちゃグチいってたよ」
まさか、小竹先輩!?
あれ、部活の友達は!?
(あ、しまった。そういえばうちのクラスにいない人だ!)
僕にとって見覚えがない=クラスメイトではない、ってことじゃん。
というか、同じテニス部のやついるだろ。仲良くなくても。
ちょっと違う! とか。
そいつはトラブルメーカーだとか、フォローを入れてやれよ!
「あの、別に私は誰とも付き合ってないんだけど」
「えー、うっそだー! だって、めっちゃ真剣に語ってたよ」
「そうそう、オレが悪いんだって感じでさ」
小竹先輩、本当に性格が悪いよな。
僕らには思いっきり暴力で訴えてきたのに。
(ダメだ……この場を打開する情報を持っているのは僕じゃない)
知っているのは、ベディヴィエールの方。
つまり、話題となっている執事だ。
(琴音を助けたいのに……! せめて、テニス部の友達を呼べれば……)
いや、無理だ。時間が悪い。
もうすぐ授業が始まる。
友達だって、自分のクラスから動けない。
(どうする……どうする……!)
何か、いい方法は。
落ち着け、考えろ。
冷静に……小竹先輩が、こんな話題をクラスに撒いたのにはきっとワケがある。
目的は、おそらく本当に琴音と付き合うこと。
彼女の周囲に嘘をばらまき、逃げられなくすることだ。
(その情報が嘘だって証明するには……正体を隠したまま……あっ、そうだ!)
よし、深呼吸。
それから、堂々と、いつも通りな感じで。
下手に動揺するな、焦るな。
まずは態度、それから言葉だ!
「待ってよみんな。その話、おかしいと思う」
「佐藤くん? どうして?」
「僕さ、彼女と幼馴染で母親同士仲が良いから、その経由で聞いた話なんだけど」
琴音のお母さんから、というていで話してゆく。
実はこれ、僕の家では結構な頻度で起こるんだよね。
……だからこそ、一時期、琴音と一緒にいるのが嫌になっちゃったんだけど。
ああ、本当にもったいなかったよ、その時期!
「最近、彼氏気取りで何度も断っているのに、近寄って来る男がいるって」
「「「「えっ……」」」」
「おばさん……あぁ、琴音のお母さんだけど、めっちゃ困ってたよ」
少しわざとらしく、ため息を吐く。
「で、その話題が母親経由で僕の耳にも毎日届いてたんだけど……」
そのまま、ゆっくりと琴音に視線を向け
「今、話題に上がった先輩って、もしかしてそうなの? 琴音」
「うん。うわぁ……おばさん……えっと、春樹のお母さんにまで伝わってたんだ」
「僕の母さんも心配してたよ。執事に対抗して、お前が護衛しろーって」
無茶ぶりをー!
と、いつも通りな感じで、彼女と会話する。
「そうなんだ……えぇ、あの先輩、もうフラれ済だったの?」
「なのにしつこく付きまとうとか。ドン引きなんですけど……往生際わっる」
「気持ち悪いんだけど。諦めろって」
わー、すっごい手のひら返し。
……というか
「あのさ。それよりもみんな、琴音に謝るべきじゃない?」
「え? あー、えっと……」
「ウソ情報を大声で話したら、誤解されっぱなしだよ。浮気だー、とかさ」
キミらが同じこと言われたら、いやだろ?
そう問いただすと、彼女らはしばしツバの悪そうな顔をして
「柚葉さん、ごめんなさい」
「ちゃんと調べず、色々話しちゃって……」
「ううん。わかってもらえれば、それでいいよ」
琴音、優しい!
僕だったら、もうちょっと文句言ってるよ。
「おーい、お前ら! 席につけー」
そこに、先生がやってきて声をあげた。
みんなが慌てて自席に戻る中
「あ、春樹!」
「? なに、琴音」
「……ありがとう、助けてくれて」
「どういたしまして。でも、危なかったら早めに助けを呼んだ方がいいよ」
「うん。気を付けるね」
軽く会話をして、僕は自席に戻り……
(あああ、なんでそこで『僕が助ける』とか『頼ってよ』って言えないんだ!)
自己嫌悪に陥った。
僕のバカ、馬鹿、ほんと、馬鹿……!
朝、クラスに足を踏み入れると、いつもと異なる雰囲気が。
(……なんだ? この感じ)
ざわついている。
妙な感覚だな。
(執事として、気を配る癖がついたから……なのかな、これは)
不信感と疑惑。
言葉にするなら、このあたりかな。
僕は周囲に目を配りつつ、自分の席へ。
クラスの視線が、どこに集まっているのか。
それをゆっくりと辿ってゆくと……
(え? 琴音?)
なんで、みんなが彼女に?
そう思った時だった。
「ねぇねぇ、柚葉さん。ちょっと聞いてもいい~?」
「なんですか?」
「彼氏をほっぽりだして、執事と浮気してるんだって?」
―――え?
僕は思わず、目を見開く。
それは琴音も同じだったらしく、驚いた表情をしている。
「なんのこと?」
「とぼけちゃってー」
「聞いたわよ。この前から、執事と一緒に帰宅してるって」
「彼氏の先輩、あちこちでめっちゃグチいってたよ」
まさか、小竹先輩!?
あれ、部活の友達は!?
(あ、しまった。そういえばうちのクラスにいない人だ!)
僕にとって見覚えがない=クラスメイトではない、ってことじゃん。
というか、同じテニス部のやついるだろ。仲良くなくても。
ちょっと違う! とか。
そいつはトラブルメーカーだとか、フォローを入れてやれよ!
「あの、別に私は誰とも付き合ってないんだけど」
「えー、うっそだー! だって、めっちゃ真剣に語ってたよ」
「そうそう、オレが悪いんだって感じでさ」
小竹先輩、本当に性格が悪いよな。
僕らには思いっきり暴力で訴えてきたのに。
(ダメだ……この場を打開する情報を持っているのは僕じゃない)
知っているのは、ベディヴィエールの方。
つまり、話題となっている執事だ。
(琴音を助けたいのに……! せめて、テニス部の友達を呼べれば……)
いや、無理だ。時間が悪い。
もうすぐ授業が始まる。
友達だって、自分のクラスから動けない。
(どうする……どうする……!)
何か、いい方法は。
落ち着け、考えろ。
冷静に……小竹先輩が、こんな話題をクラスに撒いたのにはきっとワケがある。
目的は、おそらく本当に琴音と付き合うこと。
彼女の周囲に嘘をばらまき、逃げられなくすることだ。
(その情報が嘘だって証明するには……正体を隠したまま……あっ、そうだ!)
よし、深呼吸。
それから、堂々と、いつも通りな感じで。
下手に動揺するな、焦るな。
まずは態度、それから言葉だ!
「待ってよみんな。その話、おかしいと思う」
「佐藤くん? どうして?」
「僕さ、彼女と幼馴染で母親同士仲が良いから、その経由で聞いた話なんだけど」
琴音のお母さんから、というていで話してゆく。
実はこれ、僕の家では結構な頻度で起こるんだよね。
……だからこそ、一時期、琴音と一緒にいるのが嫌になっちゃったんだけど。
ああ、本当にもったいなかったよ、その時期!
「最近、彼氏気取りで何度も断っているのに、近寄って来る男がいるって」
「「「「えっ……」」」」
「おばさん……あぁ、琴音のお母さんだけど、めっちゃ困ってたよ」
少しわざとらしく、ため息を吐く。
「で、その話題が母親経由で僕の耳にも毎日届いてたんだけど……」
そのまま、ゆっくりと琴音に視線を向け
「今、話題に上がった先輩って、もしかしてそうなの? 琴音」
「うん。うわぁ……おばさん……えっと、春樹のお母さんにまで伝わってたんだ」
「僕の母さんも心配してたよ。執事に対抗して、お前が護衛しろーって」
無茶ぶりをー!
と、いつも通りな感じで、彼女と会話する。
「そうなんだ……えぇ、あの先輩、もうフラれ済だったの?」
「なのにしつこく付きまとうとか。ドン引きなんですけど……往生際わっる」
「気持ち悪いんだけど。諦めろって」
わー、すっごい手のひら返し。
……というか
「あのさ。それよりもみんな、琴音に謝るべきじゃない?」
「え? あー、えっと……」
「ウソ情報を大声で話したら、誤解されっぱなしだよ。浮気だー、とかさ」
キミらが同じこと言われたら、いやだろ?
そう問いただすと、彼女らはしばしツバの悪そうな顔をして
「柚葉さん、ごめんなさい」
「ちゃんと調べず、色々話しちゃって……」
「ううん。わかってもらえれば、それでいいよ」
琴音、優しい!
僕だったら、もうちょっと文句言ってるよ。
「おーい、お前ら! 席につけー」
そこに、先生がやってきて声をあげた。
みんなが慌てて自席に戻る中
「あ、春樹!」
「? なに、琴音」
「……ありがとう、助けてくれて」
「どういたしまして。でも、危なかったら早めに助けを呼んだ方がいいよ」
「うん。気を付けるね」
軽く会話をして、僕は自席に戻り……
(あああ、なんでそこで『僕が助ける』とか『頼ってよ』って言えないんだ!)
自己嫌悪に陥った。
僕のバカ、馬鹿、ほんと、馬鹿……!

