執事じゃないと言えないコト

「じゃ、じゃあその……真面目に対策会議……」
「を、する前に、セバスチャン先輩は着替えてきてください。うざい」
「う、うざっ!? ひど……」
「まぁ、正直に言っちゃいますが、今の場面は堂々として貰った方が良いし」
「スミス、お前まで……うぅ、わかった、着替えてくる」

 しょんぼりとしつつ、セバスチャンさんが退室。
 うーん、ヒドイ。

「それで、少しは恐怖心は落ち着きましたか?」
「……え? まさか、ここまでのやりとりって」
「春樹お兄ちゃんの気持ちを軽くするために決まってまーっす」

 セバスチャン先輩は素だったから、わかんないけど。
 と、アルフレッドさんが付け加えてきた。
 彼の場合は、うん、僕の状況に共感はしてたかもね。

「しかーし! これはこれで、好都合というもの!」

 バタン! と勢いよく部屋のドアが開く。
 現れたのは、言わずもがな。

「うわっ、セバスチャンさん、戻ってくるの早い!」

 僅か1分ほどの早着替え。
 どんな特技だよ。

「はっ、執事たるもの、主を待たせるのは愚の骨頂。そうだろ、スミス」
「否定はしないけど、本当に雑にテンプレ過ぎるわね」

 一瞬だけ、彼の頬が引きつった。
 しかし、すぐに咳払いをして場の空気をコントロールする。

「さて、春樹くん、いや、ベディくん」
「はい」
「キミにはこのまま、小竹を引き付けて欲しい」
「と、いいますと?」
「あいつの目がそちらに行っている間に、オレらが罠を張るのさ。おっけぃ?」

 罠……?

「えっと、どんな……」
「それを春樹お兄ちゃんが知っちゃ意味ないでしょー」
「敵を欺くには、まず味方から。でしょ?」

 なんか、すごーく説得されている感が拭えないんですけど。
 ものすごく正論に聞こえる。
 なのに、なんというか……ノープラン感もヒシヒシと。
 どうしてそう思うのか? と問われたら、答えられないけど。

「ベディくん? オレらを信じてないのか? 先輩執事様だぜ」

 ……あ、理由が分かった。
 セバスチャンさんだけが、執事状態だからか。
 普通、こういう場面って、スミスさんたちも同じじゃないと。

 そう思った瞬間、トンッ、と両肩に手が置かれた

「あれ~? お兄ちゃん、ボクらがサボるとでも~?」
「大事なお嬢様たちのことですよ? 全力で当たるに決まってるじゃない」
「……は、はい」

 圧が、圧が強いんですけどー!?
 そりゃ琴音のことだから、断りはしないけどさ。
 強要は、良くないと思います!
 せめて、せめて僕にも決定権が欲しいといいますか。

「よし、方針も決まったし、部活の準備するぞー」
「あー……すいません、素でそれ忘れてました」
「ほぅ? おーい、スミス。ベディくんが再教育希望だってよ」
「え!? あっ!?」
「わかりました。さて、ベディヴィエール? 着替えてきなさい」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
「最後は力まない。あくまでも優雅に、落ち着いて」
「は、はいぃ……」

 さて、現在は部活中です。
 もう一度言います、部活中です。
 この意味、分かりますか?

「キャー、スミスさん今日もサディスティックカッコイイ~」
「ベディくんは、やっぱりいじめたくなる系よね~、わかる~」

 公開処刑ですよ!
 部活前に、やること、ですよね、絶対に!

(いや、その部活前は琴音の件についての対策会議だったんだけど!)

 でもさ、いくらなんでもお嬢様がたを前にやることなくない!?
 新人って紹介されているけど。

「あ、あの、スミスさん。これって新人みんなが1度は……」
「やっていませんが?」

 やってないの!?
 というツッコミが、喉からでかかった。
 頑張って抑えた僕、超偉い。

「はい。ではもう一度、今度は完璧にお願いしますよ」
「わかりました……」

 足を1歩下げ、角度は最敬礼だから最低でも45度。
 背筋はしっかり伸ばして、右腕はお腹のあたり。
 左手は後ろにやって、あとは声の抑揚に気を付けて。

(目の前にいるのは琴音。琴音だと思えば)

 すぅ、と深呼吸して

「……お帰りなさいませ、お嬢様」

 と、言葉を紡ぐと。

「わ、わぁ……今の、ちょっとイイ」
「うんうん。さっきよりも、なんか、決まってるぅ」
「初々しいけど、それでも分かるっていうか」

 なんだろう、褒められているのに、若干あやふや。
 いやでも、相手には主に対する感情みたいなのが伝わっている?

(あとは、琴音に向けてだったから、かな?)

 姿勢と気持ち。
 うん、これをもっとしっかりやればいけるのかもしれない。
 簡単そうな単語なのに、やるとめっちゃ難しいけどさー!

「スミスさん、評価の程は」
「及第点」
「ですよね……」

 合格には程遠い……けど、頑張ろう。
 目標は、琴音の一番星。
 まずはそれを、正しく伝えるための練習と思えば、いけるはず!

(とはいえ、小竹先輩の件が解決しないと、それどころじゃないか)

 当面は、皆さんの情報収集待ちなのが歯がゆい。

「スミス先輩~、状況報告!」
「おや、どうですか?」
「本日、例のヤツは姿を現さずです!」

 小竹先輩、今日は執事喫茶部に突撃してこなかったのか。
 それはそれで、ちょっと怖いな。

「ありがとう。さて、ベディヴィエールはそろそろ護衛準備に」
「わかりまし……って、僕、今日、喫茶の仕事ろくにやってないんですが!?」
「そういう日もあるよ~」

 あっていいの!?
 と、思うけど、基礎は大事か、うん。
 ちなみに、今日の琴音護衛は、平和に終わりました。