執事じゃないと言えないコト

 翌日。

 ―――カツ、カツ、カツ

「……」

 ―――コツコツコツ

「……はぁ」

 僕はため息を吐き、意を決して振り返る。

「あの! 僕に何か用ですか、小竹先輩」
「別に。同じ方向に用があるだけだが」

 ぜ―――ったいに、嘘だ!

「だったら、僕の目的地は体育館だし授業です。戻った方が良いですよ」

 仮に同じであるなら、彼の格好は体操着であるべきだ。
 制服の時点で、ありえない。
 意図的に、僕のあとをつけているんだ。

「本当に体育館の方向に用事があるに決まってんだろ、うぜぇ」

 うざいのはこっちだ―――!
 と、大声で叫びたいのを我慢して、僕は歩き出す。
 後方からの気配については、体育館につくまでは消える様子がないだろう。
 はぁ、どうしたもんか。

(僕がベディヴィエールである、と思っているのかが未知数なんだよな……)

 仮に気づいていないなら、それを問うのは絶対に悪手だ。
 だけど、気づいているなら……そもそも、どこで僕と結び付いたのか。

(昨日の送迎がもしかして、はあるかもだけど……)

 それなら、早々にその点をツッコミ入れてきそう。
 だけど、それをしないなら……いやいや、けどな……

(うん、バレてない前提で動く。これが現状の最適解ってことにしとこう)

 となれば、知らぬ存ぜぬを貫くのみ。
 僕は何も知らない、ただの生徒!
 今は体育の授業があるから、体育館に向かっているだけ。よしっ!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「と、思ったのに、一日中追いかけまわされたんですよ!? 怖い!」

 結局、体育が終わったと思ったら出待ちしていたし。
 自分の授業はどうしたんだよ!?
 そのあと、教室に戻るまで追いかけられて。
 授業の合間、合間に必ず教室を覗きに来た。
 半分は琴音の存在確認もあったかもしれないけど……

「執念が半端なさすぎて、何アレ!? 琴音よく我慢してたよね!」
「どんまい……怖いよね、小竹のやつ……ダメだ、震えが止まらない」

 ガタガタガタと座っている椅子すらも震えている。
 セバスチャンさん、こと、七瀬先輩はホント、落差が激しい。
 さて、放課後になって真っ先に学生寮に戻った僕。
 後からやってきた、七瀬先輩たちに事の次第を報告したら……コレだ。

「カンが鋭いのか、それとも何なのか……測りかねるわね、ソレ」

 ソファに座り、優雅にしているイケメン美女こと、近衛凪咲先輩。
 スミスという役から離れると、ホント一番脳がバグる。

「まぁ、バレてなさそうなら、とりあえずはオッケー?」
「と、楽観視したいのが本音だよ、アルフレッドさん」
「そうだよね~……って、なんでボクだけ執事名のままなの」
「本名聞いてないからですが」

 僕がそうツッコミを入れると、彼はポンと自分の手のひらを叩いた。
 絶対に忘れていたよね。

「ごめんごめん。確かに名乗ってなかったや」
「今更過ぎる」
「というわけで、アルフレッドは仮の名。本名は五十嵐律(いがらしりつ)です~」

 よろしく☆ と挨拶をした。
 なかなかに可愛らしい名前だけど。

「聞いといてアレだけど、本名より絶対に執事名の方が多く呼ぶことになるよね」
「大正解。ボクも先輩たちの名前、ときどき忘れるもん」
「こら、律くん」
「あ、訂正。スミス先輩は真面目で完璧主義者なので覚えているよ」

 あ、それはなんとなく分かる。
 スミスさん、何にでも全力で取り組むタイプだからさ。
 そういう部分で手を抜くことはないかなって。

「ついでだし、あたしも名乗っておきましょうか」
「ふえ!? スミス先輩、まさか名乗ってなかったの?」
「自己紹介はしましたが、ここは流れに乗らないとダメじゃない?」

 軽く舌を出しつつ、ウィンク。
 こういう仕草が、本当にサマになりすぎている。
 男役じゃなくても、普通に女優としてやってけそうだよな。

「2度目まして。あたしは近衛凪咲。中学2年。気軽にナギサちゃん、でいいわよ」
「「恐れ多いです」」

 思わずアルフレッドさんと言葉が被った。
 仮にそれを学園内で発したら、周囲のスミスさんファンが暴走すると思う。

「ちなみに、セバスチャンさんは? 七瀬、なのは聞いてますけど」
「……うえぇぇ、回ってきた。絶対回ってくると思ってた、自己紹介いやだぁ……」

 涙目でクッションを抱え込む。
 次に聞こえてきたのは『入学式直後の罰ゲーム』『失敗=ぼっち』という単語。

「本当に、王道テンプレを地で行くのが上手いわよね、うっらやましい」
「スミス先輩に同感でーす。ボクら、個性出すのに苦労してるのに~」
「……王道すぎて逆に無個性、と、いつもネタにしてくるのは、どこの誰だよ」

 ヒドイ。と、メソメソしてしまうセバスチャンさん。
 執事時の勢いを、10%でも出せば解決なのでは……?
 とは思うけど、それを言ったら、さらに落ち込まれそうなので言わない。

「それで、セバスチャンさんの名前は? あ、僕は佐藤春樹です」
「わざわざ……どうも……七瀬です」
「「苗字」」

 即座に、スミスさんとアルフレッドさんからツッコミが入った。
 いやまぁ、僕も言いたくなったけどさ。

「……うぅ、蒼太朗、です」
「七瀬蒼太朗(ななせそうたろう)さんですね、わかりました」

 よし、自己紹介も終わったところで……

「本題から脱線したので、話を戻しませんか!?」

 僕、怖い思いをしてきたんですけど!
 ちょっと和やかにして貰ったのは感謝しますが、それはそれ。
 琴音のためにも、僕のためにも、対策をしないと!