執事じゃないと言えないコト

 旧校舎は、まるで時間が止まったような静かさだった。
 ギシギシと鳴る床を踏みしめ、僕は重厚な木製のドアの前に立つ。

「……執事喫茶部のここ、だな」

 緊張で、心臓がバクバクとうるさい。
 スーハ―と深呼吸をしてから、僕は思い切ってドアをノックしようとした。
 手の甲がぶつかって、音を鳴らすより先に……
 ―――ガチャ

「へ、うわっ!?」

 ドアが開き、行き場のなくなった右手が、空を切った。

「「「おかえりなさいませ、お坊ちゃま」」」

 同時に耳に届く歓迎の言葉と

「……かっこよ」

 同性なのに、ほぼ条件反射で誉め言葉がでてしまう。
 もしくは、無意識に認めてしまうほどのイケメン男子たちが2人、そこにいた。
 1人は超正統派。
 もう1人は、副官というか参謀的な雰囲気だけど。

「それ、ボクもモチロン入っているよね?」
「うわっ!? びっくりした」

 ドアの裏からヒョッコリと、もう1人。
 こちらは、なんというか小学生、いや、弟的な可愛らしさを併せ持っている。
 ナチュラルショートで親しみやすさを。
 目のパッチリさで、庇護欲をかきたてられる。
 だが、イケメンだ。

「初めまして。ボク、アルフレッド! 見た目だけ最年少部員だよ~」
「アルフレッド。まずはお坊ちゃまにお茶の用意を」
「はーい、スミス先輩」

 アルフレッドと呼ばれた弟系執事君は、パタパタと奥の部屋へ。
 入れ替わりで、僕の前に来たのは参謀風な執事さん。
 片眼鏡で、ウルフカットが超似合う。
 しっぽの部分は、腰にギリギリ届かない程度で、それがまたサマになっている。

「わたくしはスミスと申します。お手をどうぞ、お坊ちゃま」
「え、あ、はい」

 自然に左手を差し出され、思わず自分の手を置いてしまう。

(うわー、僕でさえもドキッとするから、女の子だったらキャー! だな)

 感心しながら、エスコートされた先には……

「ようこそ、執事喫茶部へ。オレは部長のセバスチャンだ」

 何のひねりもなく、ザ・執事という名前で自己紹介してきた超正統派な執事さん。
 髪型もショートサイドロングトップスタイル。
 簡単にいうと、執事と言えばこれ! という髪型をキッチリ決めている。
 名は体を表す、とはこのことだろう。
 ……というか

(こんなイケメンたち、うちの学園にいたっけ?)

 断言できるほど、見た目が麗しい3人組。
 しかし、彼らが本当にいるのならば、噂ぐらいは耳にするはず。
 例え先輩であってもだ。

(少なくとも、弟系執事さんは見た目だけは同級生っぽいのに……)

 あとの2人は、先輩と見ていいだろう。
 が、やっぱり不自然だ。

「オレらは普段、学園内にいないんじゃないか? そう思われているよな」
「うっ!?」

 心を読まれた!?
 思わず頬を引きつらせると、セバスチャンはクスクスとおかしそうに笑う。

「失礼。主の考えを正確に、的確に理解して先手を打つのが執事なもので」
「先輩ー! お坊ちゃまにお茶とお菓子を用意しましたー!」

 そこに、パタパタと小走りでアルフレッドさんが戻って来る。
 うーん、小動物だ。

「春樹お坊ちゃま、さっ、こちらへ」
「は、はい……って、え。僕まだ名乗って……」
「主君の名を覚えていない執事はおりませんよ。この程度は当然です」

 わー、スミスさんがイケメンすぎてカッコイイ。
 決め顔でそう言えちゃう胆力。
 なによりも、堂々とした言葉と自信!

「……そう、なりたいな」
「? どうされましたか」
「あ、いえ! なんでも。失礼します」

 案内されたソファに座る。
 すると、正面にセバスチャンさんがゆっくりと腰を下ろした。

「主と同じ目線で、しかも対面に座ることをお許しください」
「そのあたりは気にしてないといいますか、えっと……」
「客としてではなく、入部希望。だよな、佐藤春樹くん」

 ぞくっ、と背筋に寒気が走った。
 先ほどまでの歓迎ムードから一転。
 僕を見定めるような、6つの目が、全身を貫いてきた。

「な、なんで、それを……」
「執事喫茶部の営業時間より早い訪問。深刻な表情。すぐわかる」
「ですね。ふふ、悩める少年はいつの時代もアンニュイなものです」

 セバスチャンさんの言葉に同意するように、スミスさんが頷く。
 カタン、という小さな音と共に、僕の前にカップがおかれる。
 芳醇な香りが漂う、レモンティー。
 一緒に出されたのは、小さなマカロン。

「で、なんでうちに入部希望なのかなー? 興味本位?」
「アルフレッド。そんな雰囲気だと思うか」
「思いません、セバスチャンせんぱーい。カマかけだってば~」

 おー、こわっ。
 と、アルフレッドさんはおどけながら、僕の後ろに隠れる。

「気を付けた方が良いよ、春樹くん。セバスチャン、裏表はげしーから」

 機嫌を損ねちゃダメだよ~、と忠告してくる。
 すると、ゴホンッ、とわざとらしい咳払いが正面から聞こえた。
 音の主は、僕の前にいるセバスチャンさんで。

「さて、では入部理由を聞こうか。何故、うちの部に入りたいのか」

 値踏みするように見てきた。

「内容によっては、こちらも対応を変えなければならないからな」