執事じゃないと言えないコト

「お嬢様がた、お待たせいたしました」
「あ、来た来た! 昨日、パンケーキ持ってきてくれた子」
「新人くんだ~。ベディくんだよね」

 きゃあきゃあと、琴音の友達が騒ぎ出す。
 同じクラスの子たちだけど……バレてない。
 僕は小さくお辞儀をし

「ベディヴィエールと申します。本日はご指名頂き、ありがとうございます」
「堅苦しくなくていいよ~、慣れてないのはわかってるから」
「そうそう! ねー、琴音」

 友達の1人が、琴音に話題を振ってきた。
 落ち着けよ僕。
 集中、集中、僕は執事、完璧な執事……!

「ほら、琴音も何か話しなよ」
「え!? あ、うん。えっと……べ、ベディヴィエール、さん」
「はい、なんでございましょう」
「か……か……」

 珍しい。
 琴音がテンパってるや。
 しばらくすると、顔を一度左右に振る。

「か、か……カフェラテ、カフェラテをお願いします!」

 と、飲み物の依頼が。
 直後、友達たちが琴音の背中を叩き出した。
 なんでだよ!?

「あ、あの……お嬢様がた。少し痛そうな音がした気がしますので、ほどほどに」

 小竹先輩から逃げていて、不安な状態なんだからさ。
 そのせいで、口が回らなかった可能性も十分ある。
 うん、少しでも気持ちが落ち着くなら、すぐにでもカフェラテを用意しよう。

「あー、気にしないでね。あたしはブレンドコーヒー」
「うん、これはなんというか、友情の証だから。レモンティーよろしく~」

 本当か、その友情の証。
 ツッコミを入れたい気持ちを抑えつつ、僕は再び頭を下げ

「承知いたしました。しばらく、お待ちくださいませ」

 カフェラテ、ブレンド、レモン。
 脳内で注文内容を復唱しつつ、ポットの所へ。

「あっ、お帰りベディー!」
「って、アルフレッドさん!? いつの間に。あ、小竹先輩は……!」
「ふふふっ、このボクが、1度把握した地雷原をまた踏むと?」

 タップダンスしてきちゃった☆
 ……って、自信満々、やりきったという顔で報告してくれた。

「ふっ、自分よりも1つか2つ下だと油断したのが悪い。6つ下だよバーカってね」
「誰もそこまでやれとは、言ってねぇ!」

 ここで乱入してきたのが、ポットの準備をしていたセバスチャンさん。
 オボンで軽く、アルフレッドさんの頭を突く。
 これだけなら、ぜんぜん痛くなさそうなのだが

「いたっ!? ひっどー! 功労者をブツ悪者部長ー!」

 まさかの、大げさな反応が返ってきた。
 セバスチャンさんが目を白黒させている間に、彼は涙目になりつつ

「スミス先輩ー、セバスチャン先輩がいじめまーす!」
「はぁ!? おいこら、アルフレッドォ!?」
「……どういうことでしょうか、セバスチャン」
「ちがっ!? オレ、そこまで大げさにやってねぇ!」

 いつの間にかスミスさんまで近くに来ている。
 え、さっきまであっちのテーブルにいたよね。
 瞬間移動……?
 それとも、タカラジェンヌ的な移動方法でも存在するの?

「きゃー、始まった、始まった。執事喫茶部名物!」
「セバスチャンさん、カッコイイけど、ときどきお茶目よねー」
「わかる~、場を和ませてくれるというか。弟に振り回される兄というか」
「スミス様は、それをまとめる苦労人よねー」

 全然、違う。
 スミスさんは苦労人じゃなくて、絶対王者。
 アルフレッドさんは、弟じゃなくて小悪魔。
 セバスチャンさんは、傲慢!……いや、いじられキャラのせいか。

(そういう意味では、真の苦労人はセバスチャンさんでは……?)

 そう口にしたかったけど、言ったら最後。
 じゃあお前は、可愛いドS系に溺愛されるタイプ、とか返されかねない。
 口は災いの元。
 言わぬが花。
 彼らのやりとりを横目に見つつ、僕はスミスさんからポットを3つ受け取る。

「早く彼女の元へ行って差し上げなさい」
「わかりました」

 僕は配膳ワゴンに、ポット、カップ、ソーサラーなどを置く。
 そのまま、琴音がいるテーブルへ。

「お嬢様がた、大変お待たせいたしました」

 カチャリ、と1人1人の前に、ソーサラーとカップを。
 えっと、レモンティーの人用に砂糖だろ。
 ブレンドは……ミルクと砂糖がいるかどうかで。
 エスプレッソと温めた牛乳を合わせて、カフェラテを、っと……
 順番にカップに注いでゆき、それぞれのソーサラーに置く。
 最後の1つ、琴音が注文したカフェラテを持って、移動した時だった。

「……うわっ!?」

 うっかり、右足を配膳ワゴンにぶつけてしまう。
 しまった……運ぶのに集中しすぎてて……ッ
 倒れないように、左足を床に叩きつけるように踏み込む。
 そのまま、バランスの崩れた右足を……

「あっ!?」
「きゃっ!?」

 しまった、カップにまで注意が向いていなかった!
 見ると、少しの量だけどカフェラテが琴音にかかってしまっている。

「だ、大丈夫ですか、こ……お嬢様!」
「うん、大丈夫。ちょっと汚れただけだし。熱くはないよ」

 心配しないで、と琴音は僕に向かって微笑んだ。
 いやいや、ダメだって!
 僕は彼女の手を取り

「こっち……じゃなかった、こちらへ。スミスさん!」
「ペナルティ1。良いですね、ベディヴィエール」

 事情を察してか、スミスさんは小部屋に視線を向ける。
 学生寮につながる場所だけど、入り口さえバレなきゃ普通の部屋。

「こんなこともあろうかと、制服の予備はすべてのサイズ用意済みです」

 執事だから当然、といわんばかりな雰囲気だけどさ。
 その構文を、リアルで聞くことになるとは思わなかった。
 ……というか、今後は僕も、それを言って平然と対応しないといけないのか。

「お嬢様、お手をどうぞ」

 まぁ、未来の試練は、未来の僕に任せよう。
 今は琴音の制服を変えないと。
 片膝をつき、彼女に右手差し出すが

「……」
「お嬢様?」

 なぜか、ポカンとして動かない。
 あれ、全然サマになってなかったのかな。
 そりゃ僕は、他のみんなよりイケメンじゃないかもしれないけど!

「え、あ! うん、はい」

 そう不安に思っていると、琴音が手を重ねてくれた。
 ほっ、良かった。