執事じゃないと言えないコト

(うわぁ……このタイミングでは会いたくなかった)

 ズカズカと近づいてくる人物。
 でもって、僕の後ろに即隠れるセバスチャンさん。
 先日の件もあるから、因縁つけられそう。

「てめぇ、この前はよくも先生にいいやがったな!」
「僕じゃないですけどね、報告したの」

 アルフレッドさんのご友人たちのお陰ですし。
 僕は、あなたに殴られましたよ。
 スマホを構える余裕もなかったし。
 そのあたりを、すっかりお忘れなご様子。
 ふと、琴音の彼氏さんが僕の後ろにいる人物に気づいたらしく

「ん? へぇ~、ビビリの七瀬(ななせ)がこんなところにいるとは」

 いやみたらしく声をかけてきた。
 うーわ、性格わっる。

「……小竹(こたけ)」
「はっ、俺にビビッて隠れたのか? ホントお前、小心者でダメダメだな」

 セバスチャンさん、めっちゃ震えているし。
 執事の時だけは、変身願望的なアレで尊大に大げさになれるのか。

(けど確かに、人は簡単に変われないか)

 僕だって……そうなわけだし。
 だから、琴音は……

「というか、僕を間に挟んでいじめとか、かっこ悪いですよ」
「あぁん?」
「先日の小学生からも、さんざん言われていたじゃないですか。心がブサイクって」

 ぴくっ、と小竹先輩の眉が跳ねた。
 もう本当に、態度がただの不良なんだよこの人ー!
 雨の中で子猫を拾う系じゃなくて、ヤンキー漫画に出てくる方の。

「ほんっとムカつくな。この前もだが、なにより琴音のことだ!」

 またうるさく怒鳴ってくるし。
 ……というか、ふと、疑問に思ったことがある。

「なんで僕に、琴音の件で突っかかるんですか」
「……なんだと?」
「彼女と交流がある男性なんて、他にもっといるし」

 例えば、同じテニス部の人や、僕以外のクラスメイト。
 これだけでも、相当な人数がいる。

「僕は幼馴染ではありますが、それだけです。他にもっと深い仲の人はいます」

 というか、その深い仲筆頭が小竹先輩だし。
 だからこそ、よくわからない。
 ……それが何かが、思い当たらないのがなぁ。

「なので、わざわざ声を荒げる理由なんて、無いはずですが」
「あるからに決まってんだろう! スカした顔で余裕ぶりやがって!」

 えぇぇ……なんでだよ。
 僕なんて、学校への登校で時間があえば、レベルだし。
 クラスの中でも、休み時間に時々話しかけられる程度というか。

(お前という彼氏がいるから、僕が琴音に話しかけられないんですけど―――!?)

 本当に意味が分からない、この人。

「あ、あの……ちょっと、いい、かな」

 おずおずと、後ろに隠れていたセバスチャンさんが顔を出す。
 その表情には、わずかに決意が見えた。

「あぁ? なんだよ七瀬」
「……さっきから、聞いてて、思ったんだけど……さ」

 ぎゅっ、と唇をかみしめる。
 そのまま、キッと目じりを吊り上げ

「小竹さ、本当に琴音って人の彼氏なワケ?」
「……ッ!」
「へ? どういうことですか、セ……じゃなかった、七瀬さん」
「いや……だってさ……」

 彼はチラリと小竹先輩に視線を向けてから

「明らかに……変。付き合いたてで、何で他の男を気にするの」

 あ~、そういうことか。
 引っかかっていた部分が、彼の言葉で見えた。
 付き合ったばっかりってさ、お互いしか見えていない時期だ。
 互いの気持ちが伝わった直後だもん。当然だよ。

「他の人になびくことを警戒する時期じゃない、ってコトだよね」
「うん……というか、フツーは、イチャついて周囲が見えてないのが普通」

 なるほど、理にかなっている。
 他の男に目が行くのを気にするのって、ある程度経ってからだよな。

「それに、さ、小竹が琴音って人と一緒にいる姿……一度も見たことないぞ」
「え!? そうなの」
「うん。無い」

 ……というか、昨日に至っては執事喫茶部に来てただろ。
 と、僕にだけ耳打ちする。
 言われてみれば、確かに。

「小竹先輩。昨日、琴音がどこにいたかは、もちろん知ってますよね」
「ぶ、部活だろ! テニス部の!」
「残念。彼女、執事喫茶部に行ってましたよ」

 来てましたよ。と言わなかった自分を褒めて欲しい。
 これを口にすると、僕も現地にいたってバレかねないし。

「はぁ!? そんなところにいたのか! あいつら、同じ部員なのに騙したな!」

 それよりも、小竹先輩の言動がどうも怪しい。
 昨日、琴音がうちの部活に来ていたのって……

(まさか、彼から逃げる為? いや、テニス部が逃がしてくれていた?)

 意を決して、彼にそのことを問いかけようとしたら

「文句いわねぇと気が済まねぇ! あの野郎ども……ッ」
「あっ、ちょっと!」

 悪態をついて、小竹先輩は走り去っていった。
 方向的には、テニス部があるっぽいんだけど……

「追いかけないと!」
「……ストップ。たぶん、大丈夫」
「なんでですか!?」
「連絡、済」

 すっ、と差し出されたのは、セバスチャンさんのスマホ。
 そこには『スミス』の文字が並んでいて

『安心しなさい、佐藤くん。音声証拠込みで、既にテニス部に通知済み』
『だから、安心して。それよりも、早くお戻りくださいお坊ちゃまがた~』

 言葉こそ出てないけど、喫茶の仕事があるんだぞ、って副音声が。
 隣で聞いていたセバスチャンさんも、乾いた笑いを浮かべている。

「というか、いつの間にスマホで連絡を」
「隠れている間……はぁ……明日、クラスで問い詰められそう。死にたい」
「というか、小竹先輩ってまさか琴音と……」
「付き合ってない。と、思うよ、どうみても」

 おかしかったし。
 と、言いながら彼は歩き出す。

「……とりあえず、部室行こう。もうほんと、オレそろそろ、限界」