執事じゃないと言えないコト

「あー……もういや、ホントやだ、鬱だ引きこもる、永遠に」

 さすがに自分のクラスにいるのは嫌だ!
 と、案内されたのは、人気の少ない校舎裏。
 でもって、口から飛び出す単語が、軒並みネガティブ。

「なんでさー、こんなあっさり見つかるんだ? バグだぞ」
「人を狂った機械みたいに表現しないでください」
「しかもさー、3年生のクラスに普通堂々と来る? 陽キャ怖っっわ」
「課題なんですから、行って当然じゃないでしょうか」

 あぁいえば、こういう。
 うーん、本当にセバスチャンさんと彼がイコールで結びつかない。
 ……ないんだけど。

「禁句を言いますね。テンプレすぎません?」
「ほらぁ! あいつらと比較すると、毎回ソレいわれんだよオレぇ!」

 これについては、心の底から同情します。

「ホント、ありえねーんだよ。あいつら個性強すぎて、もうほんと嫌だ」
「安心してください。それいったら僕もそうですよ」

 ギャップが無い分、セバスチャンさんより悪いのでは?
 ……自分で言ってて、悲しくなってきた。

「可愛い系男子……ちょっと真面目に極めようかな」
「やめて。これ以上、オレを無個性の沼に引きずり込まないで、へるぷみー」

 ウェルカム、平凡。
 ウェルカム、無個性。
 と、半分涙目で言われる。
 本当に、この人はセバスチャンさんなんだろうか、と疑問が。

「あの、せめていつも通りな感じで喋って貰えれば」
「……むり」
「えぇ……」

 即答である。
 しかし、彼は少し顔を膝にうずめた。

「オレのオン・オフは、執事服か否か、だから……その……」

 ブルブルと小刻みに震え、不安そうな表情を浮かべるセバスチャン。
 執事服の1着で、あそこまで激変するとは思えないけど。

(そもそも今回は、琴音が知らない僕を見せてるための課題なんだよな)

 改めて、彼を見ると。

「……がっかり、しただろ。部長がこんな無様で」
「え!? いや、そこまでは言ってないというか」
「顔に、出てる」
「うそっ!?」

 慌てて自分のスマホを取り出し、写真モードに。
 内カメラに切り替え、表情を確認するが……

「そ、そんなに顔に出ている、かな」
「……そりゃ、意識してみたらダメだろ、普通」

 ごもっとも。
 少し恥ずかしくなりながらも、僕はスマホを懐にしまう。

「にしても、よくそんな感じなのに執事喫茶なんてやれましたよね」

 正直、この一点だけは素直に感心してしまう。
 だってほら、相当吹っ切れるか何か信念がないと無理だと思うし。
 すると、セバスチャンさんは視線を逸らし……

「人の前に立つと、緊張で何もできなくてさ。コミュ力も皆無だし」
「はい」
「……知らない人と喋るのも、怖いし、嫌だし、出来れば一生ご遠慮願いたいし」
「……はい」
「だけど、モタモタしていたら、仲の良いグループは出来てて、入りづらくて」

 あー、それはうん、分かるかも。
 出遅れたら結構、きついよね。

「こんな自分を変えたくて。執事になって好き勝手やればどうだって、誘われて」
「それで今に至るって感じなんですね」
「……(こくり)」

 うーん、理由も実にセバスチャン(王道)
 彼に対する命名、大当たりじゃないかな。

「でも、執事での言動って、もともとの素質がないとできないですよね、普通」
「ッ!」
「素の時でも、同じようにやればよくないですか?」

 セバスチャンさんは、潔いほど堂々と無礼なふるまいをする。
 最初は素晴らしい執事だと錯覚させておいて、あの言動。
 二面性という意味では、これほど上手く扱っている人もいないと思うし。

「……『セバスチャン』だから、できるんだ」
「だから……?」

 僕の問いかけに、彼は小さく頷く。

「髪型とか、服装とか、別人に近い自分になれば、周りの目を気にしなくていい」

 あっ、そっか。
 普段の自分に対する評価は、なんだかんだ決まりきっている。
 それに対して、満足しているのならばいい。
 だけど、不満であったら、それは居心地が凄く悪いもので。

「本当の自分を、さらけ出せる。何者かになれたような気持になれるのが……」
「執事喫茶部、ってことですか?」
「うん、そう。というか、うちの部は、そういう人たちの集まりだぜ」

 そういわれて、ハッとした。
 僕も、スミスさんも、アルフレッドさんも。
 形は違えど『何かになりたい』という気持ちは一緒だ。

「オレも、自分を変えたい。でも、すぐには恥ずかしいし、難しいから……」
「セバスチャンとして、ある意味で準備運動している的な」

 無言で、彼はコクリと頷いた。

(類は友を呼ぶ。とは、よく言ったものだよな)

 セバスチャンさんの言葉を聞いて、僕の中で親近感をより強く感じるというか。
 今まで以上に、彼らに対して身近な存在になったというか……

「あっ、そういうことか」

 琴音が知らない僕。
 それを探すのは、かなり大変だと思っていた。
 自覚していない、自分の何かを探すものだと。

(難しく考えなくていいんだ……)

 執事として、普段とは別の姿になる。
 それだけで、自分という殻をやぶることができるはず。
 僕という根っこを変えずに、今まで口や態度に出せなかったものを出す。

「僕も、思いっきり、なんでもやってみればいいんだ」
「……結論、出た?」
「はい! ありがとうございます、先輩!」
「……はぁ、良かった。不安と恐怖でもうギリギリなんだが」

 早く自室に逃げたい。ベッドに潜り込みたい。
 と、本当にネガティブな言葉しか出てこないな、セバスチャンさん。

「課題もクリアしたし、学生寮に行きます?」
「このまま、部活を欠席する。今日はもう疲れたんだよ、オレぇ……」
「たぶん、それやったらスミスさんが鬼の形相で捕まえに来るかと」
「……あー、あいつならやりかねない。こっわ、下手な男より男なやつこっわ」

 ここにいても仕方ない。
 僕らは、学生寮に移動すべく動きだした時だった。

「そこのお前! なんでこんな場所にいるんだ!」
「げっ!?」

 聞き覚えのある嫌な声に、思わず頬が引きつる。
 視線をそちらに向けると……琴音の彼氏である、乱暴な先輩がそこにいた。