「中学になって、クラスも同じ……油断していたのは事実で」
僕以外が、気づかないわけがなかったんだ。
琴音は、魅力的な女の子なのだから。
「馬鹿だよな、僕……ほんと、ずっとこのまま続くと思っていて」
小学生の時みたいに、毎日、何気なく会話をして。
時々、テニスを頑張る彼女の応援に行ったり。
放課後には、図書室とかで勉強会を開いたり。
今までと、何一つ変わらない日々があるのだと。
「横から、知らない誰かが、彼女を連れて行くと思ってなくて」
「まっ、お前さんの傲慢というか、怠惰だわな、そりゃ」
一番痛いところを突かれ、眉をひそめてしまう。
セバスチャンさんの、容赦ない言葉が、痛い。
「……ははは、返す言葉がないです、はい」
「ボクも中学生になれば、大人に近づく、何かが変わるって思っていたけど」
「精神面は僕らと大差ない、だっけ」
「うん。変わらない部分も多いなーって、だから、安心したのはあったよ」
小学生から、中学生へ。
僕も、彼の気持ちは分かる。
正直なところ、小学校からの延長線だもんね。
「だけど、変わっている部分もたしかにあったなーって、今わかった感じ」
「……それが、僕にとって、琴音に彼氏ができたことだったんだよな」
恋愛をするにしても、まだ先の、未来の話。
告白だって、もうちょっと自分が成長して、自信を持ててから。
「変わらないと、ずっと、このままって……おも、って」
ふと、頬に熱いなにかがつたった。
無意識に手を伸ばしてふき取ると、それは、自分の涙で。
「馬鹿だな、僕ってホント……馬鹿だよ」
誇れるものがなにもなくて。
勇気を出す理由が欲しくて。
でも、本当に必要だったのは……変わる1歩を踏み出すことで。
「琴音に告白しない言い訳を並べないで、ちゃんと『好き』っていえていれば」
「では、今からやりましょう」
「えっ!?」
スミスさんからの提案に、僕は思わず目を見開く。
「もちろん、すぐに告白しろ、という意味ではありません」
「じゃあ、どういう……」
「教えたはずですよ、わたくしは。まさか、もう忘れたと?」
彼が、じゃなかった、彼女が……僕に……?
あぁ、そうか。
「言葉を発せずとも、姿勢や雰囲気だけで、覚悟や品格は周囲に伝わる……」
「その通り。まずは、行動ですべてを黙らせること」
そういうと、スミスさんは少し移動してクルリとターンをする。
一瞬で、室内の雰囲気が変わった。
まるでそこは、大舞台の上。
僕は観客席の最前列にいて、幕が上がるのを待つ感覚を覚える。
カツンッ、と靴の音が聞こえてきた。
スミスさんが一礼して、ゆっくりと顔を上げ……その表情が見えた瞬間
(あぁ……今から、最高の舞台、その幕があがるんだ)
そう、なんの疑問も思わず確信し。
『あぁ、そこの美しきお嬢様。初めまして、あなたに一目惚れをしました』
芝居がかった口調。
けれど、それに嫌悪感はなく、むしろ次の期待感を叩きつけてくる。
スミスさんは僕の目の前まできて、膝をつき
(スミスさん、かっこいい……というか、まさか告白!?)
ドキドキと心臓がうるさい。
彼女の口が、ゆっくりと開き
『どうか、このわたくしと付き合っていただけないだろうか』
「……」
「どう? べた惚れだという感情と、まっすぐな告白にドキドキしただろ?」
一瞬で表情が戻り、いつものスミスさんになった。
同時に、周囲の光景までが吹き飛び、元の執事喫茶部の部室へ戻る。
「……し、しました。僕、完全に女の子な気分でした」
行動での説得力、こっわ!
というか、男役として男を惚れさせてくるとか、やばいんですけど!?
「キミに、わたくしと同じことをやれとは言わない」
「そうなんですか!?」
「当然さ。舞台では、相手の役者に愛を向けつつ、観客全員を口説く必要がある」
あ、そうか。
前提条件が大きく違うんだ。
そう考えると、かなりの力量がいるよね、スミスさんの演技って。
「キミが口説く相手は1人。しかも、視線は逸らさなくていいんだ」
あとは、わかるだろ?
と、スミスさんはウィンクをしながら聞いてきた。
「少しずつ彼女に好意を態度から伝える。同時に、自信もつければいい」
言いたいことは分かった。
わかったんだけど……
「どうやって、ですか?」
小さい頃から一緒すぎて、ちょっと違えば違和感を感じる。
それが、僕から琴音への愛情表現だと、素直に受け取ってくれるのか。
「まぁたしかに、身近過ぎて気づかないことは往々にしてあるわけで」
ふーむ、とスミスさんは考え込む。
「そうだね。こういう場合、舞台でよく演じる物語を参考にするなら」
「するの、ならば……?」
「今までとは違う、彼女が知らないキミを見せて、視線を向けさせるとかだね」
「琴音が知らない僕……なんて、僕が知りたいですッ!」
それができたら、苦労はしない―――!
と、思わず叫ぶと。
「だったら、それを学ぶに最適な相手がいますよ」
「誰ですか?」
「ねぇ? セーバースーチャーン?」
スミスさんと一緒に、視線をそちらに向けると、顔色が悪い彼がいた。
そう、セバスチャンさんだ。
「お、おいおいおい、冗談だろスミス!」
珍しく慌てだす。
執事喫茶部の営業時間中は、完璧だった彼にしてはかなりのうろたえようだ。
「おや? わたくしが冗談を言うとでも?」
「あー! 確かに、そういう意味ではセバスチャン先輩が最適じゃん」
「オレのは全く参考になる気がしないんだが!?」
あの、僕を置いてけぼりにしないで欲しい。
「さて、ベディヴィエール。1つ課題を出しましょう」
「はい、なんでしょうか、スミスさん」
「明日中に、3年生教室のどこかにいるセバスチャンを探しなさい」
セバスチャンさんを、探す!?
しかもタイミング的にそれって……『素』の彼を、ってことだよね。
「小学生3年生、実は女子という変化球が多すぎて、探せる気がしません!」
「でも、自信はつきますよ」
意味がわかんないんですけど―――――ッ!
「あぁ、嫌だ。オレは本気で嫌だからな。逃げるぞ」
「ダメだよ~、セバスチャン先輩。どうせいつかはバレるんだし」
あっちはあっちで、なぜか絶望しているし。
どんな隠し玉があるんだろ……想像がつかないんですけど。
僕以外が、気づかないわけがなかったんだ。
琴音は、魅力的な女の子なのだから。
「馬鹿だよな、僕……ほんと、ずっとこのまま続くと思っていて」
小学生の時みたいに、毎日、何気なく会話をして。
時々、テニスを頑張る彼女の応援に行ったり。
放課後には、図書室とかで勉強会を開いたり。
今までと、何一つ変わらない日々があるのだと。
「横から、知らない誰かが、彼女を連れて行くと思ってなくて」
「まっ、お前さんの傲慢というか、怠惰だわな、そりゃ」
一番痛いところを突かれ、眉をひそめてしまう。
セバスチャンさんの、容赦ない言葉が、痛い。
「……ははは、返す言葉がないです、はい」
「ボクも中学生になれば、大人に近づく、何かが変わるって思っていたけど」
「精神面は僕らと大差ない、だっけ」
「うん。変わらない部分も多いなーって、だから、安心したのはあったよ」
小学生から、中学生へ。
僕も、彼の気持ちは分かる。
正直なところ、小学校からの延長線だもんね。
「だけど、変わっている部分もたしかにあったなーって、今わかった感じ」
「……それが、僕にとって、琴音に彼氏ができたことだったんだよな」
恋愛をするにしても、まだ先の、未来の話。
告白だって、もうちょっと自分が成長して、自信を持ててから。
「変わらないと、ずっと、このままって……おも、って」
ふと、頬に熱いなにかがつたった。
無意識に手を伸ばしてふき取ると、それは、自分の涙で。
「馬鹿だな、僕ってホント……馬鹿だよ」
誇れるものがなにもなくて。
勇気を出す理由が欲しくて。
でも、本当に必要だったのは……変わる1歩を踏み出すことで。
「琴音に告白しない言い訳を並べないで、ちゃんと『好き』っていえていれば」
「では、今からやりましょう」
「えっ!?」
スミスさんからの提案に、僕は思わず目を見開く。
「もちろん、すぐに告白しろ、という意味ではありません」
「じゃあ、どういう……」
「教えたはずですよ、わたくしは。まさか、もう忘れたと?」
彼が、じゃなかった、彼女が……僕に……?
あぁ、そうか。
「言葉を発せずとも、姿勢や雰囲気だけで、覚悟や品格は周囲に伝わる……」
「その通り。まずは、行動ですべてを黙らせること」
そういうと、スミスさんは少し移動してクルリとターンをする。
一瞬で、室内の雰囲気が変わった。
まるでそこは、大舞台の上。
僕は観客席の最前列にいて、幕が上がるのを待つ感覚を覚える。
カツンッ、と靴の音が聞こえてきた。
スミスさんが一礼して、ゆっくりと顔を上げ……その表情が見えた瞬間
(あぁ……今から、最高の舞台、その幕があがるんだ)
そう、なんの疑問も思わず確信し。
『あぁ、そこの美しきお嬢様。初めまして、あなたに一目惚れをしました』
芝居がかった口調。
けれど、それに嫌悪感はなく、むしろ次の期待感を叩きつけてくる。
スミスさんは僕の目の前まできて、膝をつき
(スミスさん、かっこいい……というか、まさか告白!?)
ドキドキと心臓がうるさい。
彼女の口が、ゆっくりと開き
『どうか、このわたくしと付き合っていただけないだろうか』
「……」
「どう? べた惚れだという感情と、まっすぐな告白にドキドキしただろ?」
一瞬で表情が戻り、いつものスミスさんになった。
同時に、周囲の光景までが吹き飛び、元の執事喫茶部の部室へ戻る。
「……し、しました。僕、完全に女の子な気分でした」
行動での説得力、こっわ!
というか、男役として男を惚れさせてくるとか、やばいんですけど!?
「キミに、わたくしと同じことをやれとは言わない」
「そうなんですか!?」
「当然さ。舞台では、相手の役者に愛を向けつつ、観客全員を口説く必要がある」
あ、そうか。
前提条件が大きく違うんだ。
そう考えると、かなりの力量がいるよね、スミスさんの演技って。
「キミが口説く相手は1人。しかも、視線は逸らさなくていいんだ」
あとは、わかるだろ?
と、スミスさんはウィンクをしながら聞いてきた。
「少しずつ彼女に好意を態度から伝える。同時に、自信もつければいい」
言いたいことは分かった。
わかったんだけど……
「どうやって、ですか?」
小さい頃から一緒すぎて、ちょっと違えば違和感を感じる。
それが、僕から琴音への愛情表現だと、素直に受け取ってくれるのか。
「まぁたしかに、身近過ぎて気づかないことは往々にしてあるわけで」
ふーむ、とスミスさんは考え込む。
「そうだね。こういう場合、舞台でよく演じる物語を参考にするなら」
「するの、ならば……?」
「今までとは違う、彼女が知らないキミを見せて、視線を向けさせるとかだね」
「琴音が知らない僕……なんて、僕が知りたいですッ!」
それができたら、苦労はしない―――!
と、思わず叫ぶと。
「だったら、それを学ぶに最適な相手がいますよ」
「誰ですか?」
「ねぇ? セーバースーチャーン?」
スミスさんと一緒に、視線をそちらに向けると、顔色が悪い彼がいた。
そう、セバスチャンさんだ。
「お、おいおいおい、冗談だろスミス!」
珍しく慌てだす。
執事喫茶部の営業時間中は、完璧だった彼にしてはかなりのうろたえようだ。
「おや? わたくしが冗談を言うとでも?」
「あー! 確かに、そういう意味ではセバスチャン先輩が最適じゃん」
「オレのは全く参考になる気がしないんだが!?」
あの、僕を置いてけぼりにしないで欲しい。
「さて、ベディヴィエール。1つ課題を出しましょう」
「はい、なんでしょうか、スミスさん」
「明日中に、3年生教室のどこかにいるセバスチャンを探しなさい」
セバスチャンさんを、探す!?
しかもタイミング的にそれって……『素』の彼を、ってことだよね。
「小学生3年生、実は女子という変化球が多すぎて、探せる気がしません!」
「でも、自信はつきますよ」
意味がわかんないんですけど―――――ッ!
「あぁ、嫌だ。オレは本気で嫌だからな。逃げるぞ」
「ダメだよ~、セバスチャン先輩。どうせいつかはバレるんだし」
あっちはあっちで、なぜか絶望しているし。
どんな隠し玉があるんだろ……想像がつかないんですけど。

